こうしてアベノミクスに「失望した」「騙された」と感じる一般国民は少なくない。一方で、企業はといえば、消費者ほど単純ではなく、シビアに安倍政権と駆け引きをしてきた印象だ。
たとえば、法人税減税や派遣法改正、ホワイトカラーエグセンプションといった、自分たちに有利な政策を進めてもらうのと引き換えに、安倍首相の要請に応じて賃上げを多少飲んだりしていた。直近では、円安効果によって潤った大企業は多い。
しかし、こうした政策で企業が力を取り戻したとき、果たして国全体の底上げが図られるだろうか?
2000年以降、日本は輸出主導型を志向してきたが、何が起きたかというと、多くの工場が海外に移転し、非正規雇用が増え、そして地方は疲弊した。
一方、これはグローバルで同じ傾向ではあるが、労働分配率(生産した付加価値のうち、人件費が占める割合)は低下している。つまり、労働者への賃金が減り、一方で投資家への分配が上がっているということだ。
「非正規とはいえ、無職よりはマシだろう。そこからがんばって正社員になればいい」という意見もあるが、実際には非正規が正社員になるのは非常に難しい。「専門性を高めれば、派遣社員で生きて行く道もある」という意見もあるが、30代くらいまでならともかく、40代、50代になっても最先端の専門性をキープするのは難しいだろう。年を取って行くと、スキルも落ちるものだ。
こうした議論には、どこかにウソがある。