一方、地方経済や中間層・貧困層など、あらゆる層の底上げを目指すグラスルーツ(草の根)的な発想が、その対局にはある。世界を見回してみれば、多くの先進国では格差拡大が深刻な問題となってきている。「先富論」的発想で政策を進めても、投資家など一部の人にしかお金は回らないから、国全体が富むどころか、むしろ中間層が崩落し、格差が拡大したのだ。
こうした国々と比べると、日本人はまだ格差に眼を向けていないが、アベノミクスがこのまま続けば、格差拡大は必至だ。“普通の人”はまじめに働いても所得が減っていく。そんな社会で本当にいいのか。それとも、中間層や中小企業、地方などがきちんと潤うような政策体系に変えて行くべきなのか。
今回の選挙は、格差の観点から見れば、「先富論」と「草の根」のどちらを選択するか、有権者一人ひとりが問われているということだ。
消費税引き上げで崩れた楽観論
成長を巡る甘言にだまされるな
今年春の消費税引き上げ以降、消費が低迷し、アベノミクスへの期待が薄れた感があるが、そもそも一部の投資家や高所得者が潤っただけで、「消費税を引き上げても大丈夫」と考えること自体が間違っていた。高揚ムードだけが先行して、実態がまったく追いついていなかったからだ。
しかし、消費増税が悪いことだとは思わない。それどころか、社会保障の財源確保のために赤字国債を発行し、未来の世代に借金を付け替えるという愚行を止めるために消費増税は必要だ。
問題は、景気回復という甘いムードで煙に巻き「消費増税をしても、痛みを感じることはない」と楽観論を振りまいた点にある。「痛みを伴うが、今やらなければ未来の世代の傷が増える」と国民を説得できれば、高揚感が剥がれて失望が広がる、という悪循環は避けられたのではないか。