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<衆院選>農へ向かぬ首相の矢

高松集団栽培組合の組合員たち。「競争原理ばかりでは地域農業は維持できない」と話す=栗原市栗駒

 宮城県内の農村部で不満や不安が渦巻いている。コメの直接支払い交付金(旧戸別所得補償)の削減、生産調整(減反)廃止の方針、環太平洋連携協定(TPP)の交渉推進…。平野部では米価暴落の直撃を受け、中山間地は営農継続の希望が持てない。怒りをどこにぶつけていいのか。衆院選を前に農業票は揺れている。

◎6区/怒りどこへ揺れる票田/減反廃止方針、TPP推進、米価暴落

 ことし9月、県内農家に衝撃が走った。全農が支払う本年産米の概算金が過去最低になったからだ。主力品種ひとめぼれ(60キロ)は前年比25%も安い8400円だった。
 「昨年より約200万円、収入が減る。再生産できるよう、国に支えてもらわないと大変なことになる」。登米市中田町で水田9ヘクタールを耕す千葉盛悦さん(60)が嘆く。
 18年度に減反は廃止され、米価が上向く見込みは薄い。「この先も所得が減り続ければ、担い手はいなくなる」と地域存続の危機感さえ感じる。
 安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」を見ると「自民党は大企業ばかりに目を向けている印象を受ける」という。「だからといって野党も期待できない。希望の持てる政策を打ち出し、実行してほしい」と訴える。
 二迫川沿いに集落が広がる栗原市栗駒の高松地区。中山間地に出来秋の喜びの声は聞こえない。
 「高齢化し、ほそぼそと農地を守っている。生活は年金で維持するのが精いっぱい」。栗原市栗駒の農業山本久雄さん(67)はため息をつく。
 中小規模農家を苦しめるのが、直接支払い交付金の引き下げだ。10アール当たり1万5000円を農家に支払う米の戸別所得補償として民主党政権が創設。自公政権が本年度から半減させた。2018年度には廃止する。
 地区内の農家35戸のうち28戸は兼業農家。残る7戸は農作業を委託する。農業だけでは家計を維持できない。地形上、政府が目指す水田経営の大規模化は進まない。山本さんら5軒で高松集団栽培組合を組織し、農機具を共同利用するが、コスト削減には限界がある。
 組合の農業阿部忠巳さん(73)は「条件の悪い中山間地には中小農家が多い。その人たちを切り捨てる政策は駄目だ」と訴える。「将来像が見えない。若い人が農家を継ぐわけがない」と言う。
 首相は農業を成長戦略の柱と位置付ける。山本さんは「米価が下がり、経営は立ち行かない。アベノミクスが掲げる『三本の矢』。この地域には1本の矢も届いていない」と表情を曇らせる。

◎3.4区/農協組織苦しい胸の内/農政には不満、でも与党しか…

 鬱積(うっせき)する農家の不満を受け、農協は難しい判断を求められている。前回の衆院選で、農協の政治組織が民主党候補を推薦した宮城4区。今回は自民党前議員を推す方針で一致したが、心中は複雑だ。
 農家の間に、米価暴落対策の遅れ、急激な農協改革、TPP推進の姿勢に対する不満が渦巻く。
 4区内の農協幹部は「安倍政権の農政に不満は多いのは事実。とはいえわれわれの切実な声を届ける先は与党、自民党しかない」。自らを納得させるように話した。
 宮城3区のみやぎ亘理農協は、前回に続き自主投票。岩佐国男組合長は「役員から自民の全面支援を求める声はなかった。(与党には)農業を取り巻く厳しさ、批判を分かってほしい」と訴える。
 管内の亘理、山元両町は東北有数のイチゴ産地。被災した156戸が営農再開した生産拠点「いちご団地」は、民主党政権が復興交付金を拠出して実現した。岩佐組合長は「イチゴ農家は、相当悩んで投票の結論を出すと思う」と、胸の内をおもんぱかった。


2014年12月09日火曜日

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