人生にも損益分岐点がある
「'02年にノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学の心理学者、ダニエル・カーネマン教授が面白い研究をしています。それによると感情的幸福は年収7万5000ドル(約900万円)までは収入に比例して増えますが、それを超えると比例しなくなるんです」
こう語るのは「幸福学」を専門とする慶應義塾大学教授の前野隆司氏。これは、アメリカの世論調査会社ギャラップ社が45万人を対象に行った健康と福祉に関する調査の回答を分析した結果だ。ちなみにこの額は、米国の一世帯当たりの平均年収7万1500ドル('08年)をわずかに上回るものだ。前野氏が続ける。
「収入の低い人にとっては、身の安全や健康、そして食糧の確保という意味で、おカネを得ることが長期的な幸せにつながります。誰も寒さで凍えたり、空腹に悩まされたりする生活を送りたいとは思いませんからね。しかし、一定限度を超えると、幸福度は上がらなくなります。そもそも金銭による幸せというのは長続きしないものです。人間は収入が増えれば増えるほど欲しがってしまうものなのですが、満足感は一瞬で消えてしまうものです」
人の幸せにはカネのほかにも色々な要素が影響してくる。健康、安全、夢があるか、他人に対して感謝の気持ちがあるか、といった要素がからみあって幸福度は決まるのだ。なかでも人間関係は重要な要素である。前野氏が博報堂と行った研究によると、友人が多いほど幸福度が高く、フェイスブックのような交流サイト上の友達の数と幸福度の間にも相関関係が見られたという。
「年収1000万円を超える人でも、楽な生活ができていると感じる人は少ない」と語るのはビジネス書作家の木暮太一氏だ。
「年収300万円の人から見れば、1000万でも足りないなんて贅沢を言うなと思われるかもしれません。しかし、実際そのようなことはありえます。
人生を会社経営の視点から考えたらわかりやすいかもしれません。たとえ1000万円の売り上げがあったとしても、その売り上げを立てるために1500万円の経費がかかってしまえば、会社は赤字になります。同じように1000万円という年収のために、健康や家庭、自由といった財産を経費として差し出さなければならないのなら、その人の人生は赤字になります」
人生にも会社経営と同じように損益分岐点があるのだ。もっと稼ぎたい、もっとカネが欲しいと望むあまり、体を壊すほど働いたり、家庭をかえりみなくなったりすれば、その損益分岐点はますます高くなっていく。つまり幸福度は下がっていくのだ。
冒頭のカーネマン教授の研究によると、年収7万5000ドルが幸福度のピークだった。これは、そのくらいの額を稼ぐ生活が、収入で得られる満足感とかかる費用(仕事のプレッシャーや忙しさ)のバランスがいいということなのだろう。
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