印南敦史 - 仕事術,子ども,書評 07:30 AM
女子校のカリスマ校長だからわかる、子どもの可能性の育て方
『「勉強ができない」と思い込んでいる女の子とお母さんへ: 思春期の「学力」を伸ばし「心」を育てる45の言葉』(長野雅弘著、学研マーケティング)の著者は、長年にわたって女の子の教育に携わり数々の実績を打ち立ててきた、いわば「女子校のカリスマ校長」。以前ご紹介したことのある、『女の子の学力の伸ばし方 心の育て方』(あさ出版)などの著作でも知られています。
私が校長を務める取手聖徳女子中学校・高等学校では、独自の「復讐継続法」という学習スタイルを開発し、劇的に効果を上げています。(中略)この本では、一見大変そうな「復讐継続法」を、家庭でも実践しやすい形で紹介しています。(「はじめに」より)
ここからわかるとおり、軸になっているのは「復讐継続法」の解説とその応用法。女の子の学力を上げたい悩んでいるお母さんにとっては、とても利用価値があるはずです。しかし同時に注目したいのは、教育者としての長い経験に基づき、「心の育て方」などメンタルな部分にもスポットを当てている点。きょうはそちらの部分について書かれた第4章「意外に難しい女の子の育て方」を見てみましょう。
男女は同権。しかし同質ではない
女の子は一般的に、まじめで努力家。そして友だちとのおしゃべりを好み、一緒に喜んだり悲しんだりするのは、男の子よりも言語能力が高いから。一方、男の子はおしゃべりがあまり得意ではなく、群れずに競争を好むタイプが大半。だから男の子は冒険心をくすぐると伸び、女の子は安心感を与えると伸びていくといいます。
男の子と女の子がここまで違うのは、脳の仕組みが違っているから。しかも当然ながら、からだや心の発達過程もその時期も異なります。いってみればそれぞれが違う過程を踏んで大人になっていくのに、まったく同じ過程で教育したのでは本来の能力を最大限に伸ばすことはできない。著者はそう主張しています。
意識すべきは、「男女は同権だけれど、同質ではない」ということ。そして安心を好む女の子に対しては、よく話を聞いてあげることが大切。なぜなら、さまざまなストレスや不安、緊張や恐怖などを抱えた女の子は、話をしながら(親が教えなくても)自分で答えを見つけ出すから。否定されたり責められたりすることなく、いつでも自分を受け入れてくれる場所があれば、安心して伸びていけるというわけです。(142ページより)
女の子の本当の気持ちは、その子にしかわからない
著者は立場上、保護者から「子どもの気持ちがわからない」「子どもの考えていることがわからない」と相談を受けることが多いそうです。しかしそんなときに感じるのは、「同性だからといってもすでに"母親"という別の立場になってしまった大人に、女の子の本当の気持ちがわかるのだろうか」ということ。お母さんが生きてきた時代と現在とでは、子どもを取り巻く社会も状況も大きく異なっているのだし、わからなくても当然だということです。
とはいえ、子どもの声にしっかりと耳を傾けることは重要。しかしそれでも、その子の、その時期の本当の気持ちはその子にしかわからない。そう考えたほうが、むしろ健全だという考え方です。
本当の気持ちはわからないにしても、その子の悲しみや苦しみ、そして喜びを、自分のことのように聞き、一緒に悲しみ、喜ぶことはできます。そしてそれこそが、子どもの成長に必要なことなのです。(149ページより)
気持ちがわからないからとオロオロするのではなく、ただしっかりと子どもに向き合っていけばいいということ。その基本は、「気持ちが全部わかるわけではないけれど、それでもあなたのことが本当に好き」というスタンスだとか。それを折に触れ、素直に表していくことだといいます。(148ページより)
よくないのは「女の子だから...」という決めつけ
著者は以前から、「女の子は"女の子に特有の事情"として、『女の子だから...』ということばがつくさまざまな先入観によって、最初から選択肢を狭められている」と強く主張しています。「女の子だから、勉強はそんなにできなくてもいい」「女の子だから、性格がいちばん大事」「女の子だからだから、ゆくゆくはいい男性を見つけて幸せになってほしい」というような古い価値観が、お母さんたちのなかに意外と根強く残っているということ。
そして、口では「自立して生きていけるように」などと言いながら、ふとそんな考えが頭をよぎり、それを本人に伝えてしまうことに異論を唱えてもいます。なぜならそれでは、「男性に都合のいい女性」を育ててしまうだけだから。多くのすばらしい可能性を持った女の子を、ゆくゆくは男性に頼らなければ生きていけない存在にしてしまうのは、この決めつけだということ。
勉強を続ける子、仕事を極める子、専業主婦として家事や育児に専念する子。方向はさまざまですが、重要なのは「女の子だから」という刷り込みから解放させ、多くの選択肢のなかから、自分の意思でそれぞれの道を選ぶことだといいます。(154ページより)
「できない子」なんかいない
著者はどこの高校に赴任しても、入学してくる生徒たちに毎年必ず「自分の可能性を信じて、あきらめるな」と話しているそうです。そして、「特に目新しいことではないけれど、それでも、生徒ひとりひとりが心から納得するまで言い続ける」と断言してもいます。
理由は、先生や親から「おまえはできない」「ダメだ」と「いわれ続けてきた結果、「どうせ私はダメだから」と思い込んでいる子をたくさん見てきたから。そのたびに胸が締めつけられる思いになり、そして、可能性を秘めた子どもたちにそんなことをいい放った大人たちに怒りをおぼえたといいます。
子どもの可能性を完全に見通せる人など、どこにもいません。ましてや「ダメだ」なんて、決めつけられるわけがないのです。(157ページより)
とはいえ著者はそこで、なぐさめたり、むやみに励ましたりはしないそうです。ただ、「君は勉強ができないんじゃない、やっていないだけ」とくり返し話すのみ。すると生徒の表情には、次第にかすかな期待の色がのぞくようになるのだとか。「あきらめないこと」がいかに大事かを、その子の劣等感が砕け散るまで伝え続け、「ダメだ」「できない」という固い思い込みの枠を外すということ。
そして、親からの期待や信頼感が最大の原動力になるからこそ、両親にも「お子さんのことをあきらめないでほしい」とくり返しお願いするのだそうです。そしてその考えが正しいことは、著者がこれまでに赴任してきたすべての学校において、偏差値や進学実績などの数字によってはっきりと証明されてきたのだといいます。
ただひとつ断言できるのは、「できない子なんかいない」ということ。著者はこの項で、そうくり返しています。「人間、あきらめたら終わり」とはよくいわれることですが、それはとてもシンプルな真実。そしてその真実は、すべての子どもに当てはまるということです。(156ページより)
先にも触れたとおり、そして上記からも推測できるとおり、「学力を伸ばす勉強法」を身につけるための実践書である本書の根底にあるのは、子どもに対する誠実な姿勢。だからこそ、親子の人間関係について考えるためにも役立つ内容だと思います。
(印南敦史)
- 「勉強ができない」と思い込んでいる女の子とお母さんへ: 思春期の「学力」を伸ばし「心」を育てる45の言葉
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