(2014年12月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
社会の高齢化、労働人口の減少、生活水準の停滞によって定義される欧州では、移民は部分的な経済的解決策であると同時に、それ自体が政治問題でもある。
移民と、移民が労働市場と福祉制度に与える影響は間違いなく、来年の英国の総選挙で熱を帯びた争点となり、北欧諸国からギリシャに至るまで、さまざまな国で政治的論議を形作ることになるだろう。
英国で躍進続ける反移民政党UKIP
欧州委員会のある報告書は、2060年までの移民と人口増加の予測を盛り込んでおり、この論議の炎に油を注ぐと見られる。こうした推定が、思惑を抱く政治家ではなく、党派に属さない欧州連合(EU)の専門家の手による研究成果だという事実は、原則として予測の信憑性を高める役目を果たす。
11月27日に英国家統計局(ONS)が発表した統計によると、2014年6月までの1年間で英国への移住者の純流入数が26万人に急増した。
この予想外に高い数字は、反EU、反移民を掲げる英国独立党(UKIP)が2カ月足らずで2度目となる議会補欠選挙での勝利を収め、与党・保守党に衝撃を与えた後に出てきたものだ。
最新の世論調査は、UKIPが次の総選挙で投票総数の14~18%を獲得し、第3党となる可能性があることを示唆している。この右派のポピュリスト政党は、それが正しいにせよ間違っているにせよ、自党の切り札の1つは、高いと認識されている移民の水準に対する国民の不安だという立場を取っている。
2060年までに英国への移民純流入が900万人を超えると予測する欧州委員会の報告書は、UKIPのレーダーに引っかからなかったのだろうか? もしそうだとすれば、恐らくそれは、報告書が「2015年高齢化報告:基本的な前提と予測の方法論」という味気ない題名だったためだろう。それでも、欧州委員会の予測は注目に値する。
注目すべき欧州委員会の報告書の中身とは?
報告書は、2060年までにEU加盟国に流入する移民の純増数が合計5500万人になると予想している。ほぼ70%がEU加盟28カ国のうちのわずか4カ国に向かい、イタリアに1550万人、英国に920万人、ドイツに700万人、スペインに650万人流れ込むという。
この予測が正確ならば、移民の政治的影響は英国を超えて大きく広がることになる。考え方がUKIPに近いイタリアの反移民政党・北部同盟に対する支持は、ポー渓谷以北の牙城を超えて南へ広がっている。