(2014年12月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
アンドリュー・ジャクソンの時代から、米国大統領はあまり後先考えずに、金持ちの友人を相手に外交官の職を競売にかけてきた。バラク・オバマ大統領も例外ではない。
映画「カサブランカ」の登場人物が言ったように、人々はオバマ氏の大使の選択に「驚いた、実に驚いた」と声を上げている。
だが、最近の憤りには、通常の偽善を超える要素がある。もし米国の公職に対するお金の支配力の拡大――そして、一見して米国の評判に無頓着なホワイトハウスの態度――をとらえるものが1つあるとすれば、大使の選択がそれだ。
赴任先を1度も訪れたことがない大使候補、ノルウェーが大統領制国家?
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の独裁的な統治スタイルが中欧諸国の一部で崇拝者を勝ち取っている時に、オバマ氏はテレビドラマ「ザ・ボールド・アンド・ザ・ビューティフル」のプロデューサーのコリーン・ベル氏を次期駐ハンガリー米国大使に指名した。
ベル氏は上院の公聴会で、ハンガリーについて、自分がほとんど何も知らないことを明らかにした。ハンガリーはプーチン風の傾向を持つ権力者、ビクトル・オルバン首相が率いる国だ。ベル氏は旧ソ連世界の一部における民主主義の弱さを熟知する権威ではない。また、恐らく、そうした民主主義を支えることに対する米国政府の利益にどっぷり浸かっているわけでもない。
だが、2012年の大統領選挙期間中にオバマ氏のために210万ドル集めた彼女は、資金集めについてはいくらか知っている。
そして、オバマ氏のために140万ドルの資金を集めたPRコンサルタントのノア・マメット氏がいる。マメット氏は次期駐アルゼンチン米国大使だが、同氏もアルゼンチンを1度も訪れたことがないと認めている。南米第2の規模を誇る経済国で、露骨な反米主義に傾きかけているアルゼンチンは、ソロモン諸島のような国とはほど遠い。同国のスタンスは重要な意味を持つ。
ノルウェーのスタンスも重要だ。ノルウェーはロシアの近くに位置する米国の同盟国で、将来について不安を感じている国だ。
オバマ氏は裕福なホテル経営者で選挙に多額の献金を行ったジョージ・ツニス氏を次期大使に指名した。ツニス氏の人事承認は、同氏もまた赴任先のノルウェーを訪問したことがなく、ノルウェーの制度が大統領制だと思っていると述べた後に棚上げされた(ノルウェーは王国だ)。
また、ツニス氏は、ノルウェーの連立与党に参加するある政党を「憎悪をまき散らす過激派分子」と表現した。同氏は政権に参画していない別の政党と取り違えていた。こうした例はほかにもたくさんある。