subculic このページをアンテナに追加 RSSフィード

2014-12-08

オススメ「SHIROBAKO」資料群

ネット社会の恩恵か、専門用語や制作工程をフォローしてくれる公式サイト、リアルタイムで流れてくるアニメ関係者のつぶやき、インターネットは業界事情(そんな大げさなものじゃないけれど)を知るにありがたい存在だ。そこで『SHIROBAKO』をより深く、楽しめるものにしてくれる資料を紹介する趣旨のエントリーを書きたくなった。ネットで今すぐ読めるもの、P.A.WORKS関連の資料を中心にアニメを勉強する上で有用な、好きな書籍の紹介も兼ねて。ちょっと変わったアイテムもあるけれど、ご愛嬌ということでお願いしたい。


人狼制作日誌

P.A.WORKS代表取締役・堀川憲司が制作担当だったProduction I.Gアニメーション映画『人狼 JIN-ROH』ホームページ用制作日誌。アニメ制作にまつわる定番の読み物で、理知的な性格を反映したと思われる筆の滑らかさ、個性的なクリエイターたちと付き合っていく我慢強さ、16年の月日を感じさせないその内容は逆に、「伝説の制作進行」堀川憲司像として新鮮に映る。時折混じる辛辣な発言の臨場感がまたいい(余裕がなかったんだなあと思わせてくれて)。

「3時間後に上がると思う」から33時間経っても上がって来ない吉成曜氏の原画、激しい破壊音を残す原画作業、本当に壁に穴があいていた磯光雄伝説、沖浦啓之監督(書道四段)の精確極まる(粘りすぎな)仕事ぶり、その沖浦監督と付き合えるただ一人の男・井上俊之、3年後に監督になると豪語していたらしい後の『TARI TARI橋本昌和監督(当時制作進行)etc……終始こんな調子で、有名アニメーター演出家の素顔を覗きみるような感覚も魅力だ。

現在も『人狼』紹介ページにて公開中。

制作日誌を含め、原画・レイアウト・インタビューが収録された『人狼―Behind of the screen』も合わせてオススメ。制作日誌に登場するアニメーター演出家がどんなことを語っているのか、比べながら読むと一層楽しめる資料的価値の高いムック

人狼―Behind of the screen人狼―Behind of the screen
プロダクションI.G

by G-Tools


P.A.WORKS アニメランナー

「ライン(プロデューサー)の醍醐味は現場を演出することじゃないか」

グロス請けをメインにしていた2003年〜2006年頃のP.A.WORKS。いったい何を掲げ、アニメ制作に取り組んでいたのか? 神山健治井上俊之石川光久、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』スタッフそれぞれのインタビューを通じ、堀川憲司その人の理念や目標が明らかになっていく。「P.A.WORKSのキホン」が詰まった貴重なアーカイブ。自社のコンテンツとしてアーカイブを残していく姿勢そのものに、堀川イズムがあるのかもしれない。


■【第百五十八回】この人に話を聞きたい 今月の「この人」――堀川 憲司

アニメージュ」2013年9月号収録、アニメスタイル編集長・小黒祐一郎さんが聞き手を務めるお馴染みの企画。アニメ業界に入ったきっかけからP.A.WORKS設立までの経緯、これからの展望まで詳しく語られている。インタビュー終盤には「アニメーション業界の事を描きたいと思っているんですが」と直截な発言もあり、今読むとニヤリとする。

参考までに、堀川さんの渡り歩いてきた制作会社・主だった作品を列挙しておく(一部抜けがあるが、本文中に出てきた会社・作品を追ったもの)。

スタジオルック『魔法のエンジェルスイートミント』(葦プロの孫請け)→タツノコプロ無責任艦長タイラー』(ここで制作デスク)→『テッカマンブレード2』→『ドッカン!ロボ天どん』→『新世紀エヴァンゲリオン』→Production I.G人狼』→ビィートレイン『ポポロクロイス物語』→『メダロット』→富山に戻り、P.AWORKS立ち上げへ

アニメージュ 2013年 09月号 [雑誌]アニメージュ 2013年 09月号 [雑誌]

by G-Tools


■『花咲くいろは』第二十二話オーディオコメンタリー P.A.WORKS女子社員大放談(奥津暁子/松田侑子/池崎桂子)

SHIROBAKO』はリアルなのか――女子社員的な意味で。

武蔵野アニメーションの総務・興津由佳のモデル(名前)とおぼしきP.A.WORKSの宣伝担当・奥津暁子さんが出演しており、赤裸々なガールズ(?)トークが繰り広げられるコメンタリー。ちなみに奥津さんはショタコンだそうで、色々と酷い発言をされている。それとは別に、社員の微妙な関係を匂わす気遣いがみえて「ああ、アニメ制作会社といえどそこは変わらないんだ」と妙な安心感を覚える。また、結婚式のエピソードに女子社員を送り込む堀川・辻(充仁)両氏の企みは、板野一郎氏をコメンタリーに呼ぶ『SHIROBAKO』に通じるものがある。

花咲くいろは (8) [Blu-ray]花咲くいろは (8) [Blu-ray]
P.A.WORKS

by G-Tools


■『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』スタッフコメンタリー(水島精二/宮原洋平/大藪芳広/丸山博雄/中山しほ子伊藤嘉之)

『えくそだすっ!』監督の木下誠一の“ガワ”モデル・水島精二監督の「旧ハガレン」をグロス請けで支えていたP.A.WORKS。その劇場版もパートグロスを受け持っている。P.A.WORKSが担当したのは水島精二コンテパート後の中盤Bパート。増井壮一コンテ、橋本昌和演出、パート作監関口可奈味。増井さんの“逃げない”コンテをうなだれた顔で受け止めた堀川さんの話や実直な仕事ぶりを称えるエピソードが披露されている。

「いっとき、ボンズの制作の間ではPAマジックという言葉がすごい、聞こえましたからね」

外からP.A.WORKSを語る視点は珍しいし、全員ノリノリで裏話を連発、途中から制作暴露大会の様相を呈し、作画ファン向けの担当原画情報も豊富、恐ろしく密度のあるコメンタリーだ。PAグロス回、いまは昔の魔法の痕跡……

劇場版 鋼の錬金術師シャンバラを征く者 完全生産限定版 プレミアムDVD BOX劇場版 鋼の錬金術師シャンバラを征く者 完全生産限定版 プレミアムDVD BOX
荒川弘

by G-Tools


■「千年女優」への道

KON’S TONE  「千年女優」への道KON'S TONE 「千年女優」への道
今敏

by G-Tools

今敏監督がホームページ上で公開していた文章を書籍化したもの。制作進行のイメージに大きな影響を与えた「パーフェクトブルー戦記」も収録されている。ぜひ「人狼制作日誌」と比べながら読みたい一冊。辛辣だが真摯、ユーモアたっぷりな今敏監督の言葉は、何度も読み返したくなること請け合い。マッドハウスの丸山さん(武蔵野アニメーション社長・丸川正人のモデルと言われている)が差し入れにくる場面があったり、「出来る」制作進行がいかに劇的な効果を現場にもたらすかなど、あくまで今敏監督目線の話ではあるが、『SHIROBAKO』的な楽しみ方も可能だ。

今読むと、もし今敏監督が『SHIROBAKO』を観たら、はたしてどんなコメントを残すだろうか。そんな想像をしたくなってしまう。案外、ギャハハと笑っていそうな気もするなあ。

参考リンク:今 敏オフィシャルサイト KON’S TONE


アニメーションの基礎知識大百科

アニメーションの基礎知識大百科アニメーションの基礎知識大百科
神村 幸子

by G-Tools

アニメファンなら一家に一冊、必携の書。アニメーションの制作工程から企画書、キャラクターデザインの成立、詳細な用語集、「基礎知識大百科」の名は伊達じゃない。痒いところに手が届く本で、たとえば「Follow PAN」と「つけPAN」はどう違うんだろうだとか、ややこしい用語にも対応してくれている。「デジタルT.U、T.B」の説明などデジタルに移行した現在の業界事情とマッチングした本としては、最新のもの。『SHIROBAKO』公式サイトの用語集より一歩進んだ知識を身に着けたいとき、これを読めばまちがいない。


アニメーションの本

アニメーションの本―動く絵を描く基礎知識と作画の実際アニメーションの本―動く絵を描く基礎知識と作画の実際
アニメ6人の会

by G-Tools

個人的なアニメのバイブル。1978年発行の古い書籍だが、「アニメーションとは何か」「アニメートの基礎知識」「作画の実際」と、読み返すたび基本の大切さを胸にしまっている。森康二さんのインタビュー・6章「アニメーターになろうとする君に」は2014年のいまなお、アニメ業界を志す人間に向けた強いメッセージだなと思う。

アニメーターを志望する人がいたら……

「まず、やめなさいと言います」

当時からこう言われているのだから、アニメ業界の苦難は長いなあ……と感傷的な気分になるが、これは森康二さんの経験による優しさで、アニメの世界がいかに厳しいか、慮っての発言。猫を巡るベテランアニメーターと新人原画マンの一幕が描かれた『SHIROBAKO』も、どこか森康二さんのイメージがあった。というのも、P.A.WORKS所属のアニメーター・川面恒介さんの机には森さんの画集があり(公式ブログ参照)、動物を得意とするアニメーターの第一人者は森康二さんだからだ。

そうはいっても、森さんの画集はアニメーターズ・サバイバルキットと同じくらい重要なものだし、個人的な思い入れが強すぎるだけかもしれない。ただ、先輩アニメーター井口裕未に初めて描いた動物はもぐらと言わせているニュアンスは実に……


もぐらの歌―アニメーターの自伝 (アニメージュ文庫 (P‐003))もぐらの歌―アニメーターの自伝 (アニメージュ文庫 (P‐003))
森 やすじ

by G-Tools

投稿したコメントは管理者が承認するまで公開されません。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/tatsu2/20141208/p1