記者クラブが会員資格停止処分で使えずクラブの入っている電気ビル1階の「Crown & Roses」に専ら出入りしている。今日(6日)も友だちとランチの後、土曜だから良いだろうと20階に上がりフロントと話していたらF理事に捕まった。「あんたはプレミスに出入り禁止でフロント迄も入場出来ない。エレベーターホールまでだ」と追い出された。まるで非人扱い。会員資格停止を解くためには協会員を脱会するよりほかは無いか。
監督のベネット・ミラーが「カポーティ」で日本に来た時会っている。ベネットの弟、テッド・ミラーに紹介されたのだ。テディはNYUの学生時に僕に会いに来てアメリカ電通でインターンを1年勤め、白人として始めて電通本社の試験を受けて正式社員として入社した。その後ホンダの営業を経てライブドアからリクルートされ社長になりホリエモンに買収されてその後はマーケティング・コンサルを務めている。派手なコリアンのアン・ミカと結婚してTVに出ているから顔を知っている人も多い。
テディは電通社員時代に兄貴ベネットはドキュメンタリー専門で劇映画は撮らないと言っていたが、「冷血」(Cold Blood)を執筆中のトルーマン・カポーティをドキュメンタリー風に描いてフィーチャーフィルム「カポーティ」(05)でデビュー、絶賛を浴びフィリップ・シーモア・ホフマンにアカデミー主演賞を齎した。その後ブラッド・ピットを主演にオークランド・アスレティックのゼネラル・マネージャー、ビリー・ビーンの野球哲学を「マネー・ボール」(11)も大ヒットになった。
この実在の人物を自伝風に追うミラー監督の3作目がデュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンが1996年1月26日、オリンピック金メタリストをピストルで射殺し全米を驚かした殺人事件をとり上げている。メダリストと言っても地味なレスリングだし、役者もスティーヴ・カレル、チャニング・テイタムやマーク・ラファロと言うスターではないので前2作とは違った公開スケジュールで上映を始めた。
アメリカでは11月14日から公開された。デビュー週末の3日間はLAとNYの6館のみで公開し$288K(3450万円)を挙げ1館当たり$48,019(576万円)は今年最高額となった。配給元ソニー・ピクチャー・クラシックはオスカー有力候補と宣伝する程、質の高い作品に仕上がっている。日本ではソニーは商売にならないと判断したのか、ロングライドと言う小さな会社が輸入して配給する。しかしSPEクラシックが宣伝するようにアカデミー候補に作品か監督、主演男優で挙がれば商売になる。例年メジャーを出し抜いてアカデミー作品を買いつけていたGAGAの名が今年は聞こえて来ない。
ストーリーを追って見よう。
1984年ロスアンジェルス・オリンピックでマーク・シュルツ選手(チャニング)はレスリングアメリカ代表として金メダルを獲得した。金メダリストと言っても地味なスポーツで生活は苦しい。独身のマークは即席ラーメンなど食べている。大学のレスリングコーチや20ドルのギャラで受けた講演会の講師などはガラガラの入り。だが大学のコーチは給料が払えないと告げられて解雇される。
マークの唯一頼りにしているのは兄のデイヴ(ラファロ)。小さな頃に両親が離婚、12歳とひと廻り年の離れたデイヴは父親代わりにマークの面倒を見ていた。デイヴもロスアンジェルスで金メダリストだった。堅実なデイヴは妻、ナンシー(シェナ・ミラー)との間に二人の子供を設けている家庭人だ。
失意に暮れる中、ある日デュポン財閥の御曹司である大富豪ジョン・デュポン(カレル)の代理人から電話がかかって来る。ジョンが会いたいと言う。ファーストクラスの飛行機に乗り、空港からフィラデルフィアの豪壮な邸宅へ連れて行かれる。
ジョンは気さくな人柄でマークに1988年、ソウルオリンピックに向けたレスリングチーム結成プロジェクトに勧誘される。ジョンは個人で「FOXCATCHER」と言うレスリングチームを所有してそのメンバーに入れと言う。
ジョンは同じくメダリストである兄デイヴも加入させようとするが兄はチームに加わると家庭がバラバラになるのでと断る。
ジョンはマークをネコ可愛がりにするがデイヴのことになると強硬だ。どうしても説得しろと言われ悩むマーク。結局家族とも大邸宅近くの家に住まわせることでデイヴ一家はフィラデルフィアへやって来て、共にソウルオリンピックを目指して練習に力が入る。だがマークは神経質になりジョンの機嫌取りに終始し始める。
ジョンの異常性がこの辺りから目立つ。
「40歳の童貞男」(The 40-Year-Old Virgin)などコメディアンのスティーヴ・カレルは、一見してカレルとは思えない。言葉をゆっくり喋る。鼻が鷲鼻で異常に高い。垂れ下がった眉毛にキチンと分けた髪型。神経質な顔立ちのメイクアップはミラー監督のキャラクター設定に従って見事に具現化している。
マークに扮するチャニング・テイタムは実生活でも男性ストリッパーをやっていたように(自伝映画「マジック・マイク」)肉体は筋骨隆々でレスラーとしても充分やって行ける身体つきだ。
オリンピックの場面はニュースフーテージを使うので雰囲気は出ているが、マークやデイヴのレスリン場面はそれ程のテクニックは使わず突進し激突やタックルなど肉弾戦に終始する。ソウルオリンピック予選では体重オーバーのマークはかなり苦しむ。それでもオリンピックでは金メダルを獲得する。
このソウルオリンピックの辺りから更にジョン・デュポンの秘めた狂気を目にするようになる。
90歳を越えて車椅子に乗った母親(ヴァネッサ・レッドグレープ)との確執も神経に触って来る。
ある日突然車をデイヴの家に乗り付けたジョンは近寄ったデイヴを運転席から撃つ。3発とも命中して倒れるデイヴ。映画の観客も呆気にとられる事件だ。
面倒見の良い誠実なお人好しのデイヴが何故ジョンに殺されなければならないか?
実話の映画化だけに迫力がある。アメリカ三大財閥と言えばロックフェラー家,メロン家と並ぶデュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンが起こした殺人事件だ。
ジョン・デュポンが結成したレスリングチームに引き抜かれ生活も豊かになった五輪メダリストの兄弟が、ジョンのエキセントリックの知られざる姿を知った果てに悲劇に見舞われる。
地味なレスリングを扱う映画だけに日本でどれだけ受け入れられるだろうか?
2月14日より新宿ピカデリー他で公開される。
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