会社の発展や合理化の陰で失ってしまったものをどう取り戻すか――。規模が大きくなった企業ほど、そんな悩みは多いだろう。中部電力もその1社。2016年に電力小売りの全面自由化を控え、異業種も含めた顧客の争奪戦が始まる。しかしふと気づくと、競争に不可欠な「顧客との接点」を失っていた。「家事代行」という一見とっぴな新規事業は、顧客との絆を取り戻す試みの小さな一歩だ。
■トイレ掃除から料理まで
「年末の大掃除や庭木の手入れなど、何でも気軽にご相談ください」。中部電は5月、中堅住宅メーカーのサンヨーホームズと折半出資で「e―暮らし」(名古屋市)を設立。準備期間を経て7月に家事代行サービス事業を始めた。
対象はキッチンやトイレ、エアコンの清掃といったハウスクリーニング、日常的な料理や掃除といった家事代行など幅広い。社長(非常勤)の林欣吾は「暮らし全般に関わる支援サービスを提供したい」と話す。
「なぜ中部電が家事代行サービスなのか」。本業の電力事業と直接の接点はないだけに、地元や中部電社内では当初、いぶかる声が聞かれた。
矢野経済研究所(東京・中野)によると12年度の家事代行サービスの市場規模見通しは約980億円と1年で20%増えた。結婚・出産後も企業で活躍する女性や高齢世帯の増加で、今後の潜在市場は数千億円規模といわれる。当然、中部電の「異業種参入」はそうした有望市場を狙った動きだが、最も欲しかったのは新規事業から得られる売上高ではない。顧客との接点だ。
電力市場では16年4月、家庭向けも含めた販売の全面自由化が見込まれている。現在、一般家庭向けでは地域独占という規制が残り、中部地方の消費者は中部電以外から電力を買うことはできない。だが自由化以降は、通信会社やガス会社、住宅メーカーなど幅広い企業が電気を売れるようになる。
「全面自由化で業界の地図はがらりと変わる。勝ち残れるのか」――。中部電本体で3000人の営業部隊を抱える「お客さま本部」。そこで販売戦略を統括する部長も兼務する林は、危機感を募らせる。設立から63年間、地元に電力を供給し、連結人員3万人を抱える有力企業は何を恐れているのか。
「洗濯機が動かないのだけどちょっと見てもらえないか」。ほんの十数年前まで、農村部などで中部電のマークが入ったワンボックスカーが巡回する姿が見られた。「移動営業所」として技術者らが各地を回り、時にはヒューズが飛んだり家電製品が故障したりして困っている家庭の助けとなり、顧客から感謝の言葉をもらった。地域に根を張った支店や営業所では、料金の徴収や苦情受け付けなど顧客との接点も持っていた。
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