ボンタイ

社会、文化、若者論といった論評のブログ

いま、物凄い勢いで「日本の中流層」の生活文化のレベルがアジアに抜かされている現実

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 日本のスーパー「トライアルマート」は韓国にも進出している。上から韓国店舗、日本店舗の画像をネットで検索して引用してみた。

 看板は全く同じ、建物のつくりもだいたい一緒だが、大きな違いがある。それは駐車場に停まっている車の車種だ。日本は軽自動車だらけなのに対し、韓国は立派な車が多い。

 これは他のスーパーも同じで、ソウルであれば韓国車のセダンやSUVばかりで、欧州車も割と見かける。韓国も日本と同じで軽自動車の制度ある国だが、スーパー駐車場ではほとんど見かけないし、コンパクトカーすらいない。日本とは正反対である。

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 韓国は1990年代までスーパーがほとんどなかった。コンビニか市場かデパートしかなく、古い庶民は市場で、若者はコンビニで、富裕層はデパートでの買い物が一般的だった。外資系スーパーは「韓国でスーパー事業は成立しない」と進出を躊躇していた。ところが2000年ごろから欧米資本が相次いで進出。その後、いずれも経営権は国内企業に移ったが、スーパー産業は韓国で根付くようになり、トライアルも進出するようになった。

 私は韓国に訪れる度に現地の総合スーパーに行くのだが品揃えは日本と全く同じである。客層はいたって普通の平均的な庶民が多い。しかし、このところは彼らの方が日本よりも豊かに見えてしまう。

 たとえば休日の夕方、日本のスーパーでは見切り品の刺身が割り引かれると熾烈な強奪戦が発生するが、韓国ではそういうものは存在していない。日本のスーパーは日に日に「トップバリュ」などのプライベートブランド(PB)を充実させ、既存の商品より最安値で売り飛ばしているが、韓国のスーパーにはPBは全く存在しない。韓国のスーパーのカートは日本のものよりも倍くらいでかい。それだけ買う量が多いということだ。

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 何より象徴的なのは会計だ。韓国もレジ袋が有料だが、ほとんどエコバックを持ち込んでいないことだ。みなたくさん買い込んで、たくさん袋を買って詰めている。

 日本のスーパーでは、エコバックに詰め替えたり、自由に持ち帰ることのできる段ボール箱を活用して節約する人間がほとんどだが、韓国ではそういう買い物をする人が全くいないのだ。

 

アジアではダイソーが200円ショップになっている

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 今、物凄い勢いで「日本の中流層」の生活文化のレベルがアジアに抜かされている。

 その象徴がダイソーアジア店舗の200円ショップ化だろう。 ダイソーのアジア店舗は200円均一になっている。売っている商品は日本と同じで、けっして高価なメイドインジャパンではない。日本のダイソーで買い物する際にパッケージの表示を観てほしいのだが、だいたい説明書きは膨大な言語で書かれている。「途上国で作って世界の店舗で売る」というモデルだ。ところが、日本だけが100円なのである。中国店舗は300円に吊り上げたという話もある。

 これは他のチェーン店も同様だ。デフレ時代に台頭したサイゼリア吉野家などの店舗はだいたいアジアに広く展開しているのだが、どこもみな、日本店舗が最も値段が安いという現実がある。

 外食、総合スーパーや専門店、はてはスーパー銭湯まで・・・日本の中流層が普段利用するチェーン店はだいたいみんなアジアに進出していて、現地の中流層が利用している。しかし、アジア地域のほうが割高だというのに、日本よりもたくさん買われていて多くのお客でにぎわっていてるのだ。台湾・韓国・香港・シンガポールバンコクであれば長らく根付いていて一般層に定着して久しいし、中国でも沿岸大都市の富裕層から中間層、内陸へとどんどん顧客層が拡大している。内戦の暗いイメージの色濃いカンボジアや、つい最近まで独裁国家でスーチー女史を軟禁していたビルマまで、店舗は拡大を遂げている。


滋賀と中国のどちらの平和堂ユーザーが日本の消費文化に詳しいか

 中国でおととし、反日暴動が発生し、日系店舗が襲われる事件があった。

 その時狙われたのは滋賀県発祥の「平和堂」だった。平和堂は滋賀では田舎の総合スーパーと言う感じだが、中国店舗は直営スーパーのほか、日本や欧州の高級ブランドを販売する専門店をかき集めた高級デパートになっている。

 破壊した暴徒らは、普段こんなお店に足を踏み入れることすらできない貧乏な若者たちで、反日感情というよりは格差社会でのただの憂さ晴らしだろう。しかし、そうした一部の階層がいる一方で、膨大な成り上がりが存在している。彼らは下らないゆがんだナショナリズムに陥ることなく、こうした店舗でたくさん買い物をしている。破壊や略奪による損害を穴埋めできるほどの膨大な稼ぎがある訳で、平和堂側は暴動後も店舗の拡大路線を続けている。 

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  さて、ここでちょっと考えてみたい。

  滋賀県と中国、それぞれの「毎日の暮らしで平和堂を欠かさず利用する人たち」は、いったいどちらが日本の消費文化事情に明るいだろうか。

 私は圧倒的に中国だと思う。彼らの方が可処分所得が高いからだ。

 平和堂にロゴがそっくりなヨーカ堂は滋賀には存在しないが、中国には13店舗もある。やはり反日デモの度に打ち壊されているが、1店舗当たりの年間売り上げは日本店舗に匹敵するという。

 有名デパート「高島屋」の屋号の由来は創業者が滋賀県高島市にゆかりがあるからだというが、残念ながら高島屋の滋賀店舗は存在しない。しかし上海には店舗がある伊勢丹は上海のほか天津や成都にも店舗があるが、こちらも滋賀には1つも存在しない。滋賀の県庁所在地大津市からファッションビル「OPA」が撤退したのは2004年のことだが、中国ではやはり上海OPAが有力ブランドを揃えている

 

 滋賀県内最大級のショッピングモール「ピエリ守山」の悲惨さは、日本人を震撼させたが、衰退の原因は草津市にイオンモールが開業して客が奪われたことにあるという。中国では天津市だけで3つのイオンモールがあり、来年江蘇省にできるイオンモールはピエリ守山や草津イオンモールの倍の規模だという。テナントの「質」も、おそらく圧倒することだろう。

 

 銀座で、アメ横で、秋葉原で、大阪で沢山の中国人ツアー客が買い物に押し寄せている光景は、もうおなじみになってしまっている。彼らがひいきにしているデパートや家電店やらは中国に展開していて、「地元店舗より日本の方が本場でしかも安い」のだから、そりゃあたんまり買っていくわけである。だが、滋賀県民が東京や大阪にはるばるやってきて同じ買い物をできるだろうか?

 

無意識のうちに「庶民文化の平均値」がアジアに越されてしまった!

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 ロイヤルホストは1993年に台湾に進出し、15店舗に拡大している。

 まだバブルの余韻のあった当時の時点でも、日本のファミレスの中でロイホは「中の上」の選択肢だった。その後20年で、ロイホを失った街は数知れない。ところが、台湾は地方都市店舗だろうが元気に営業中だ。さらには最近はフォルクス藍屋まで台北に進出している。因みに地元の茅ヶ崎からはフォルクスは撤退し跡地は格安ステーキの「どん」になり、藍屋は同じ系列の安い和食店「夢庵」になったあげくに潰れてしまった。

 メニューの値段を比べてみよう。ロイホ名物のジャワカレーは日本では850円だが、台湾では約1130円もする藍屋の刺身の四種盛りは日本では1040円だが、台湾では約1320円と、やはりボッている。

 

 日本では「ただでさえ割高で庶民に敬遠されたチェーン店」がファミレス界の表舞台からだんだんと消えていく一方で、アジア店舗はむしろもっとボッタクリになって広まっている。日本のファミレスでは以前はどこでも当たり前だったが低コスト化で廃止になった紙のランチョンマットも台湾では健在で、心なしか日本店舗よりも豪華な内装をしていたりする。

  日本の地方に行けば、ファミレスはガストかサイゼリアしかない。和食全般といえばスシロー一択である。藍屋のような和風ファミレスどころか夢庵レベルすらなく、蛇足のやたら充実したスシローでうどんやてんぷらやらの和食を楽しんでいるのだ。

 この厳しい現実を考えてほしい。彼らは当然、ステーキといえば「ステーキガスト」か「けん」である。本場のシズラーやアウトバックは知る由もなくフォルクスやロイホのステーキすらこの世に存在することを知らないのだ。ランチョンマットや布製のあったかいおしぼりの出てくるファミレスと言うものを知らないのだ。

 

 平成生まれの「イオンネイティブ」の地方の若者の消費文化レベルはとても低く、窮屈だ。彼らの地元では今後今あるレベル以上の選択肢が増えることはなく、中長期的に見れば人口減とともに目の前の選択肢もだんだん減っていくことになることは明白だろう。彼らよりもアジアの若者の方が圧倒的に根本的に満たされて育っていて、うかうかしているうちに東京首都圏も抜かされかねない。

 

 この現実を、良く理解しておかないとヤバいと思う。