周囲を観察すると、地面から小さく蒸気が立ち上っている場所で、木々が立ち枯れしている様子も見られた。先ほどの噴気が盛んな場所では、まだ木が枯れていないところを見ると、やはり噴出が始まったのは比較的最近のことと思われた。
本誌記者は、さらに活発な噴気孔がある斜面に近づく。先ほど聞いた「金時娘」の言葉が頭をよぎる。
「ガスマスク持ってきたの?あそこに行くなら、マスクがないと危ないよ」
9月27日の木曽御嶽山の噴火後、行方不明者を捜索する自衛隊員たちも身に着けていたガスマスク。火山では二酸化硫黄など、吸えば即刻、命にかかわる危険なガスが至る所から噴出する。山道からあまり離れてはいけない—。おそるおそる進んだそのとき、林のなかに真っ白な噴気が立ち上る場所が、目の前に現れた(左の写真)。噴気は1ヵ所ではなく、大小さまざまな穴から噴き出している。火山ガスの危険を考え、それ以上、近づくことはしなかったが、活発な噴出の、まさに現場に到達することができた。
11月22日の長野県北部での最大震度6弱の地震。そして御嶽山につづき、25日に噴火した九州・阿蘇山。
東日本大震災からまもなく4年になろうとしているが、いまだに日本列島の地殻変動は止んでいない。
新たな噴気は、大噴火の予兆と言える現象なのか。箱根山を中心に火山活動の研究を行っている神奈川県温泉地学研究所の竹中潤研究課長に、今回の噴気について問い合わせてみた。
—最近、箱根の火山活動は活発なのでしょうか?
「箱根では数年おきに群発地震が起きています。最近では昨年の1~3月で、体に感じない地震を含めて合計2000回もの地震がありました」
—新しい噴気孔ができて、噴気がかなり活発になっているようですが……。
「ここ数週間から1ヵ月の間に新しい動きがあったとは把握していないのですが……そうですか。近隣住民の方には、何かいつもと違うと感じたら、ぜひ遠慮なく連絡いただきたいです。
噴気が活発に出る場所が、有名な大涌谷ではなく、その北側の斜面にできて、さらにそれが移動していることは確認しています。『上湯場』という場所の近くですが、噴気の出る位置が、次第に西側に移動しています」
上湯場の近く、西側—。まさに今回の噴気孔に一致している場所だ。移動をつづけた噴気孔が、ついに、70年間近く箱根山を見つめつづけてきた人をも驚かす意外な場所に到達したということなのか。
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