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<常磐道開通>つながる被災地(下)新たな役割/廃棄物輸送占拠に懸念

利用が始まった浪江インターチェンジ。巨大津波と原発事故で、常磐道の役割は大きく変化した=7日、福島県浪江町

<見守り隊巡回>
 「常磐自動車道がつながって、確かに浪江に行きやすくはなるけれど、復興は進んでいない」
 福島県浪江町から避難し、仙台市内で暮らす女性(62)は、浪江−山元インターチェンジ(IC)間が6日迎えた開通を手放しで喜べない。
 同町は福島第1原発事故で約2万1000人の全町民が離郷を余儀なくされている。女性が自宅に帰るのは年に数回。除染が進んでいないため滞在時間はわずか。墓参りが主な用事だ。
 町内の宅地の除染実施率は6%にとどまる。町帰町準備室は「まだ自宅に頻繁に戻れる環境にはない」という。
 車や人の往来が増えれば、住民不在の町とのギャップは増す。
 浪江−山元IC間の開通に伴い、常磐道と接続する国道114号の一部区間は通行証なしで自由に通れるようになった。
 沿道に無数のバリケードが並ぶ。あるじのいない住宅を守るためだ。馬場有町長は「窃盗や住居侵入が危惧される」と懸念を強める。町民で組織した見守り隊が巡回を始め、不審者に目を光らせる。

<被ばくを警戒>
 放射能への不安も消えていない。
 浪江IC付近は放射線量が高い帰還困難区域に含まれるが、オートバイの走行が許可された。一方、同じく帰還困難区域を通る国道6号は通行できない。「常磐道では放射能の影響は限定的」との国の見方が背景にあるが「不必要な被ばくはしたくない」と利用を敬遠する町民もいる。
 常磐道は計画時に想定されていなかった役割を新たに担う。国は除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設を大熊、双葉両町で予定する。廃棄物の搬入計画に盛り込んだのが高速道を輸送に積極利用する方針だ。
 廃棄物の仮置き場や現場保管場所は、県内で7万6000カ所余りに上る。「搬入車両が常磐道を占拠することにならないか心配だ」(馬場町長)と沿線自治体の首長らは不安視する。
 除染や復旧工事関連を中心に、町内には既に1日約2500台の車両が出入りするが、国道6号は9月の全線開通後、渋滞が激しい。町外の宿舎から通う工事関係者は「道を選べるようになるのはいい」と歓迎する。

<避難路も想定>
 廃炉まで最長40年が見込まれる福島第1原発が近くにあり、常磐道は不測の事態に備えた避難路にも位置付けられる。これもまた、当初は想定されていなかった役割だ。
 衆院選公示日の2日、安倍晋三首相は相馬市で街頭演説に立ち、来年3月1日の全線開通を表明し、アピールした。「交流人口の拡大を東北復興の起爆剤にしたい」。
 東日本大震災の巨大津波と原発事故。未曽有の複合災害に見舞われた相双地方が開通効果を生かし、地域の再生を加速させることができるのか。道のりは平たんではない。


2014年12月08日月曜日

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