秘密保護法:兄逮捕の月に施行…届かぬ思いに妹苦悩

毎日新聞 2014年12月08日 08時30分

来日の際、兄の墓参りをした秋間美江子さん=東京都新宿区で2014年5月、小川昌宏撮影
来日の際、兄の墓参りをした秋間美江子さん=東京都新宿区で2014年5月、小川昌宏撮影

 来る年も来る年も、「12月8日」を特別な思いで迎える人がいる。秋間美江子さん(87)もその一人だ。1941年12月8日の日米開戦の日、兄がスパイの疑いで特別高等警察に逮捕され、服役中にかかった病気がもとで亡くなった。それ以来、12月は「嫌いな月」だ。その月にもう一つ重みが加わる。新たなスパイ防止法ともいえる「特定秘密保護法」が10日施行される。

 ◇73年前、北大生にスパイ容疑

 「今すぐ飛行場に飛んでいきたい。若かったら、駆け出せるのに」。東京から約9000キロ離れた米コロラド州ボルダーに住む秋間さんは、電話での取材にそう語った。できるなら日本に渡り、秘密保護法廃止を訴えたいという。

 73年前。北海道帝国大生だった兄、宮沢弘幸さんは、旅行中に聞いた海軍飛行場のことを親しい米国人教師夫妻に話したことなどで、当時の軍機保護法違反に問われ、懲役15年の判決を受けた。戦後釈放されたが、刑務所で侵された結核のため27歳で死去した。

 秘密保護法は、秘密の範囲があいまいな点などが軍機保護法に類似すると指摘されている。秋間さんは秘密保護法成立後の今年2月に来日し、講演で廃止を訴えた。「自分と同じように苦しむ人が出るのでは」。施行を目前に、再び来日することを望んだが、がんの手術を5回した秋間さんの体調を懸念する医師が、強く止めている。

 毎年12月には、当時の記憶がよぎる。東京の実家に捜索に来た刑事が家を踏み荒らした日、「スパイの家族」と呼ばれ、怖くて沈黙を強いられた日……。 「尊敬する兄は消されてしまった。若い人には国のことを愛してほしい」。夫の仕事で渡米して、夫が亡くなった後もとどまった秋間さんは、日本の若者に、秘密保護法への関心や危機感が広がらないことをもどかしく思っている。

 ◇札幌で集会

 札幌市では7日、宮沢さんの事件を風化させないための市民集会があった。逮捕の日と同じような雪の中、約170人が参加。秘密保護法の廃止を求めていくことなどを話し合った。【青島顕】

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