衆院選で、与野党が経済政策を巡って火花を散らしている。

 野党の一部が「日本の社会を支える中間層を厚くして格差を是正する」(民主党)、「格差拡大のアベノミクスをストップする」(共産党)と「格差」をキーワードに攻め立て、与党側は「地方に実感が届く景気回復を加速させる」(自民党)、「景気回復の実感を家計へ」(公明党)と応戦する。

 要約すれば、安倍政権が打ち出したアベノミクスを転換・中止するのか、継続するのか、ということになる。

 しかし、政権の発足から日本経済はどう変わったのか、残された課題は何か、これらを踏まえなければ、有権者は各党の主張の当否を判断できない。

 まずはこの2年間を振り返ってみよう。

 安倍首相が強調する通り、雇用は増え、サラリーマン全体が受け取る賃金の総額も上向いた。企業収益は大きく伸び、株価は2倍に迫る。経済全体の「パイ」は確かに大きくなった。

■行き渡らない恩恵

 しかし、その「配分」は偏っている。大企業と中小企業、製造業とサービス業、輸出型と内需型。都市と地方、高所得者と低所得者……。

 預貯金や株式などの金融資産を1億円以上持っている世帯が100万を超える一方で、生活保護を受ける世帯は過去最多を更新して160万を突破した。賃金も、物価上昇を考慮した一人あたりの実質指数では16カ月続けて前年を下回っている。各種の統計を並べてみても、配分の偏りが浮き彫りになる。

 与党、とりわけ自民党は「この道しかない」と政策の継続を強調する。配分の偏りは自然になくなると考えるのなら、理由を説明するべきだろう。

 アベノミクスの転換や中止を掲げる野党も、社会保障を中心とする「人への投資」や富裕層・大企業への税制優遇の見直しなどを訴えるが、その具体的な内容はぼやけたままだ。

■常識を疑うことから

 ここは政策の常識を疑い、惰性から抜け出すことが必要ではないか。

 まず「円安と輸出」である。政府・日銀は「輸出型の製造業が円安で潤えば経済全体を押し上げる」と政策を進めてきた。

 ところが、円安でも輸出数量の伸びが鈍い。だから国内の生産が盛り上がらず、設備投資は勢いを欠く。雇用の増加も非正規が中心だ。むしろ、円安による食料品やエネルギー価格の上昇が家計や中小企業を直撃し、消費や投資の足を引っ張ってもいる。

 輸出量が増えない理由は様々に指摘されている。円高時代に生産拠点の海外移転が進んだ。一部製品で日本勢が競争力を失った。いや、欧州や中国の景気がパッとしないためだ……。

 いずれにせよ、軌道修正が必要な局面だろう。中・低所得層や中堅・中小企業の消費や投資を、どう増やしていくのか。そこを各党に語ってほしい。

 次は「成長戦略」である。

 バブル経済の崩壊後、毎年のように戦略や対策が打ち出されてきたが、日本経済は低迷が長期化した。人口減少と高齢化で、戦略づくりはますます難しくなっている。

 そもそも、成長戦略と言っても、一本の太い矢があるわけでも、即効性のある決め手があるわけでもない。様々な分野で地道に規制や制度を改めていく以外に手立てはない。

 企業の既得権益を守る規制の見直しは峠を越えた。論議の焦点は、雇用や医療など生活の安心・安全にかかわる分野に移っている。それだけメリットとデメリットについて丁寧な検討が必要になっている。

 国内の資金や技術を生かして、新たな市場や雇用をどう生み出していくのか。選挙戦で聞きたいのは具体論である。

■制度の改革見すえよ

 もちろん、「偏り」の修正にも直ちに取り組むべきだ。

 消費税が8%の期間中の対策として、政府は低所得者を対象に臨時福祉給付金を用意した。再増税の延期に伴って追加が必要だ。「社会保障と税の一体改革」に盛り込まれた種々の低所得者対策も、再増税の延期で生じる財源不足への対応に知恵を絞り、できるだけ実施したい。

 そのうえで、より本格的な制度改革を検討するべきだ。

 高齢化などで社会保障給付は今後も増えていく。それをまかなう負担はできるだけ抑えたい。必要な人に必要な給付を行うには、一人ひとりの所得や資産に応じたきめ細かい制度を作れるかどうかがカギになる。

 2016年には、すべての国民に割り振られるマイナンバーの利用が始まり、給付と負担の状況をつかむインフラが整う。これをどう活用し、どんな税・社会保障制度を目指すのか。

 配分の偏りをならし、より多くの国民に消費を促すことは、成長への原動力にもなる。