12月突入。2014年も残りわずか。
年末まで忙しさが続く方も多く大変かもしれませんが、年末には時間がとれる(のかな)!ということで、ここでマンガHONZの年間ランキングを発表させていただこうと思います。
ランキングと言ってもいろいろな切り口があるのですが、今回はシンプルに「今年紹介したレビューのなかで、人気のあった10本をご紹介」。
マンガHONZは「新作/旧作問わず、『おもしろい』と思う作品を各レビュアーが紹介する」というコンセプト。したがって、新作に特化した「このマンガがすごい!」や「マンガ大賞」などとは、ちょっと違った名作が並びます。お楽しみに!
ではではさっそくスタート。
※ここからはデスマス調は排します。
第10位 直球しか投げなかった男・土田世紀『編集王』
土田世紀というマンガ家が傑作を生みだしたのは、作品に全力で想いを込めたからだろう。だがそれは諸刃の剣でもある。まるで自らの書いた『編集王』に登場するマンガ家のように、土田世紀はアルコールにおぼれ、そして若くして亡くなっていく。
「自分に呪いをかけちゃだめだよ、土田さん。土田さんが信じてるように、マンガには力がある。力があるからこそ、呪いをかけちゃだめなんだ」
読みながらそう話しかけたくなるというのは、マンガHONZの編集長、佐渡島庸平だ。
『編集王』のもつ作品の力と、そして佐渡島の思いに共感する人が多かったからか。今年のレビュー第10位にくい込んだ。
第9位 スタートアップが潰れるのはキャッシュがなくなったときじゃない!それがいつかは『スティーブズ』が教えてくれる
スティーブ・ジョブズは、アップルという会社が岐路にたつミーティングにおいて、奇跡的なまでに相手を説得することに成功し続けた起業家だった。そんなマンガのような奇跡を現実に起こしてしまった彼の物語が、マンガで読めるというのは望外の幸せではないだろうか。
タイトルにある問いかけは、レビューの中で次のように語られる。
「スタートアップが死んでいくのはキャッシュを使い果たしてしまうからではない。キャッシュを使い果たす前に、協力してくれる部品会社がなかったり、優秀なエンジニアを口説けなかったり、販売をしてくれる小売店や代理店が商品を理解してくれなかったり、投資家にビジネスの将来性をわかってもらえなかったりで、経営者が人を説得できないからだ。」
このレビューは経営者やビジネスマンからの反響が特に大きかった。
数字を見てもFacebookによる拡散(シェア、いいね)の数が圧倒的だ。11月終わりに書かれたばかりの新しいレビューだが、僕がこの記事を書いている現在も(12月7日)、人気記事ランキングの1位にいる。今年の第9位のレビューだが、まだまだ閲覧数は伸びる記事だろう。
スタートアップが潰れるのはキャッシュがなくなったときじゃない!それがいつかは『スティーブズ』が教えてくれる
第8位 愛深き故に!敢えて言おう!『少年ジャンプ+』はカスであると!
マンガHONZの切り込み隊長(?)こと小林琢磨は、少年マンガに対する愛が深い。それは彼の書くレビューの数々をみれば、おのずと伝わってくる。彼がいまベンチャー企業を経営しているのも、マンガによる影響だ。(本人もそう公言している)
そんな彼が、敢えて書いた記事、アツい衝動に駆られて書いた記事がこれだ。
はてなやTwitterをはじめとするネット上でも大いに賛否両論が繰り広げられた。
記事を最後まで読まないと誤解しかねないが、少年ジャンプの電子配信にふみきった『少年ジャンプ+』を称えつつ、「もっとできるだろう!ジャンプ!」というのが小林の主張。「ジャンプを超えるのはジャンプだけ。」その通り、その通りなんだよ!!
愛深き故に!敢えて言おう!『少年ジャンプ+』はカスであると!
第7位 「無敵の人」に対処する方法はあるのか? 秋葉原通り魔事件をモデルにした『デモクラティア』
「無敵の人」。その表現は、家族や職場などの人間関係が極めて希薄で社会的地位もなく、どんな犯罪を犯そうとも親族や友人などに迷惑を掛けることがない人物のことを指す。
『デモクラティア』では、その「無敵の人」に対して、ネットからの「集団の叡智」を対峙させる。これはすなわち「民主主義」を見つめなおそうという試みだ。インターネットが集約した「民意」が「理想の国」をつくっていくのか、情報のフィルタリングによって「見たいもの」だけを見る「民意」が、ますます社会の分断を加速するか。
間瀬元朗という作家は、ディストピア的な世界観を非常にリアルに表現する。前作の『イキガミ』もそうだが、その表現によって、社会に潜む様々な矛盾をあぶりだすのだ。そう看破するのはレビュアーの角野信彦。読み応えのあるレビューをぜひ堪能してほしい。
「無敵の人」に対処する方法はあるのか? 秋葉原通り魔事件をモデルにした『デモクラティア』
第6位 某国立大学の授業でも使われているらしいで~ 『まんが 医学の歴史』
今年2月にはじまったばかりのマンガHONZで初の大型ヒットとなったレビュー。それが山田義久によるこの記事だ。
マンガとはいえ、1冊2,400円程度するし、ページ数も350ページ超とぶ厚い。手に持つとズシッと重いし、黒い装丁に金文字で書かれたタイトルは見た目にも重い。なのにこの記事が出ることで、飛ぶように売れた。記事が書かれて1ヶ月の間に300冊は売れていたし(ネット経由で把握できただけでも)、重版もかかったという。(書店販売も含め、累計するともっと売れているはず)
その一番の理由は、もちろん密度の濃いこのマンガの中身だが、それを伝える山田義久の記事を見たら、これまた納得するだろう。まだ見ていない人は、必見だ。レビューの内容ですら濃密すぎて、ここには表現しきれないので。
某国立大学の授業でも使われているらしいで~ 『まんが 医学の歴史』
第5位 「ちち しり ふともも」で時給250円!?日曜朝史上最高のお色気アニメ『GS美神 極楽大作戦!!』をいま振り返ろう!
タイトル勝ちですね。冗談です。けれど、「お色気」「GS美神」「ちち!しり!ふとももーッ!!」 という単語は、その世代の人々にはぶっササること間違いない。そして実際にぶっササった結果が、この順位なんだろう。
その世代でない人にはサッパリわからないと思いますが。日曜日の朝8:30に、ボディコンのお姉さんが動きまわるアニメがあったのです。小学生だったレビュアー小林琢磨は、背徳感を感じながらも親と一緒に(こんなにエロい番組を)見ていたようです。そしてまた、ただの(エロい)マンガという訳ではない。主人公の成長をともに楽しむ、まさに少年マンガの王道作品でもあるのです。
この作品のもう一面の魅力は、小林琢磨の言葉を借りて語りたい。
漫画界の二大成長キャラと言えば『ドラゴンクエスト~ダイの大冒険~』の大魔導士ポップと『GS美神 極楽大作戦!!』のハンズ・オブ・グローリーこと横島忠夫の二択になりますよね、そうですよね?間違いない!!
「ちち しり ふともも」で時給250円!?日曜朝史上最高のお色気アニメ『GS美神 極楽大作戦!!』をいま振り返ろう!
第4位 『闇金ウシジマくん』フリーエージェントくん編について、堀江貴文が聞く! 真鍋昌平-堀江貴文対談
この記事はレビューではなく、対談(インタビュー)だ。
だが、『闇金ウシジマくん』の魅力、おもしろさを、よく表していると言えるだろう。
「フリーエージェントくん編」が終わる直前に、むかしヒルズ族の象徴だった堀江貴文が作者と対談する。この企画だけでもおもしろいのだが、中身をみると、作者の取材姿勢がかいま見られて、これが抜群におもしろい。
『闇金ウシジマくん』は日本の暗部をリアリティもって描いているところに、大きな魅力がある。そしてそれを成しているのは真鍋昌平氏の表現力なのだが、それ以前に緻密な取材力だろう。今回の対談では、この取材力がかいま見られる。企画としては堀江貴文がインタビューをしているはずなのに、いつの間にか、聞き手と語り手が入れ替わってしまっているのだ。この取材力から『闇金ウシジマくん』は生まれる。
『闇金ウシジマくん』フリーエージェントくん編について、堀江貴文が聞く! 真鍋昌平-堀江貴文対談
第3位 嫁がYesで旦那がNo セックスレスを明るく描く『ごぶさた日記』
いやいや、すごい。セックスレスを主題にしたこともそうだし、しかもやりたいのは嫁のほう。フィクションじゃなくてエッセイだし。嫁の性欲について書いたものは、書籍でも中々ないんじゃなかろうか。
嫁の性欲という未開の地を垣間見るために読むもよし、
実際に悩んでいるときの心のよりどころして読むもよし、
直接は聞ききくい男性側の参考意見として読むもよし、
もちろんマンガとして作者のセンスあふれる比喩を読むもよし。
・・とここまで書いているのが、マンガHONZの看板娘。佐藤茜によるヒットレビュー。
どうだ、おもしろかろう。いやいや、すごい。
嫁がYesで旦那がNo セックスレスを明るく描く『ごぶさた日記』
第2位 ビッチとうまくやっていくための、たったひとつの冴えたやり方。『あそびあい』
まぁちょっとタイトルは過激なわけですが。
本作の主人公である男子高校生「山下くん」は、同じ学校の「ヨーコさん」が好きで、作品の冒頭からセックスしています。そしてヨーコさんが「山下のは後ろからがいい」と言うわけです。
山下くんだけでなく、読者も思うでしょう。
「『のは』ってどういうことだよ」、と。「他の人のはどうなんですか」、と。
そんなこんなな展開なのだが、レビュアーの永田希は、このふたりの「『好き』という感情は、恋愛とセックスのどちらを重視してるか」という視点で考察を加えていくのだ。まじめか。あるいは「恋愛感情と、セックスしたいという気持ちに関係があるのかないのか」という問いを「愚問」と切り捨て、正しい問いの立て方は「恋愛とセックスは、どう関係あるのか」であると語るのである。うーん、気になる。
その関係性は、むろん人それぞれであり、「関係が深い」と考える人もいれば「関係ない」と考える人もいるだろう。そして、自分の違う考えを学ぶ機会は、なかなかないわけだ。ヨーコさんの発言を聞いて、「『のは』ってどういうことだよ」と思うからこそ、あぁこういう子もいるんだな、と知ることができるわけなのだ。この作品は、フィクションなのだが、ある種の現実を描いている。
このように永田希の考察に導かれ、社会学や哲学のような思考実験ができるのは、本レビューの最大の魅力だ。また、そんな思考実験が好きな「はてな」民が多くのブクマを付けた記事である、というのも特徴的。
ビッチとうまくやっていくための、たったひとつの冴えたやり方。『あそびあい』
第1位 セックス・暴力・革命 連合赤軍事件で15人はなぜ殺されたのか? 『レッド 1969~1972』
この記事には、糸井重里氏、佐々木俊尚氏など著名人を含む多くの人が、共感・拡散したようだ。その結果が年間1位の閲覧数である。
連合赤軍事件。時代に深い影響を与えた重大な事件だが、このマンガに描かれる「リアル」なエピソードからは、ある意味で普遍的な若者たちの青春群像劇が浮かび上がってくる。それが山本直樹の『レッド』のすごさだ。この点を指摘し、レビュアー角野信彦は、連合赤軍事件を知るのにまずは『レッド』を読むべきだという。
連合赤軍事件は、とにかく分かりにくい。
それはなぜなら、「団塊の世代が青春をかけた全共闘運動や安保闘争が、単なる仲間殺しという結末を迎えたことに大きな衝撃をうけた」こと、だからこそ「当時の評論家・作家などが、この事件に重要な意味を与えようとして躍起となった」こと、「この事件が単なる仲間殺しであっていいわけがない。そうして連合赤軍事件は何かしら深遠な意味をもつ事件として奉られることになった」からである。
それに加えて、事件に関わった登場人物が多く、それら事件の関係者たちが書いた数多くの本が、それぞれの視点から一つの事象に多くの解釈を与えるため、全体像をつかむことを非常に難しくしている。
ところが山本直樹の『レッド』では、どちらが正しく、どちらが間違っているというスタンスでなく、両論がそれほど矛盾なく一つのストーリーになるように状況を組み立てている。これは絵とセリフで状況を表現できるマンガだからこそできることで、これが連合赤軍事件を知るのにまずは『レッド』を読むべきだという理由の一つなのだ。
また、日本社会においては、未だに学校や会社などの組織において、「精神的な殺人」が行われることは珍しくない。人の命と自分の命を天秤にかけるような究極の状況のなかでの同調圧力。それが現れた「連合赤軍事件」という題材を疑似体験するには、本作は最適のマンガだ。
そして「なぜいじめがおこるのか」、「組織に経営理念を浸透させるには」など、「組織と言葉と人」について考えるためのいろいろなヒントが詰まっている。
まずは角野信彦のレビューを読み、そして『レッド 1969~1972』自体を読むことを、連合赤軍事件を知らない世代も含めたすべての人に、おすすめしたい。
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