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ふと、今回の安倍政権による(とあえて言う)異次元緩和は真珠湾攻撃のアナロジーではないか、と思った。昭和16年の12月8日(現地7日)に帝国海軍がハワイの真珠湾にいた米国艦隊を奇襲攻撃し大損害を負わせた事件である。いうまでもなく本格的な日米の戦闘がこれによって火ぶたを切られたわけである。 一般にいわれているのは、山本五十六をはじめとする軍の要人で実際の指揮を執る人々においてはそもそも対米戦で勝ち目はないと見切っており、どうしてもやるなら緒戦で相手に大損害を与えて有利な講和に持ち込むべし、と考えていたということである。そして結果的にはその大戦果に酔って調子に乗り行きつくところまで行ってしまったのが太平洋戦争の結末である。 もともと当時の国力差は大きいものがあり、留学などを通じて当時のアメリカを知っていれば、到底勝てると思わなかったのだろう。そして問題の核心はエネルギーをはじめとする資源であり、産油国でありその他の資源も豊富な米国に対し最終的に戦争によって「勝利」するというのがどういうイメージを持っていたのか戦争する当事者がきちんと定義していなかったことが最大の問題である。アメリカの占領など到底無理で、まさにせいぜい「有利な講和」を目指すということが初めから共通の認識になっていれば(まあ当時そのような考えは「腰ぬけ」とか言われたのかもしれないですが)きちんとした「損切り」によってあそこまでひどいことにならなかったのではという気はする。 安倍政権下の異次元緩和も一種の奇襲作戦である。言い方を変えれば、それによってもたらされる「最終的勝利」のイメージが本来は事前に用意されている必要がある。しかし国力の決定的な差を前提にすれば、その目標は単なる絵空事(たとえばアメリカ占領)であるか、所詮は時間稼ぎ(例えば有利な講和)であるかにすぎないことが明らかだ。当時も勝利のイメージの共通の認識がないか、あるいは意図的に国民を欺いていたのかどちらかであろうと思われる。 アベノミクスでも同様だ。第三の矢は何処にもなかったことがそれを表している。そしてその第三の矢の不存在を糊塗すべく解散総選挙にでた現政権には大きな問題がある。アベノミクスの成果を問うというのは聞こえはいいが、所詮は真珠湾攻撃の戦果をもって戦争継続の可否を問うというようなものである。真珠湾攻撃が元々日本が圧倒的劣勢にあったが故の大規模な奇襲でありそれゆえにあげた大戦果であること、そして安倍政権下における大規模緩和も全く同様に人口問題や既得権等の問題で極めて弱体化している日本の社会や経済があるからこそ、このような無謀ともいえる作戦に出ざるを得ないのだという認識が必要だと思う。 大規模緩和が長期的に成功するためのポイントを改めて考えてみる必要がある。 一つは、国民の気分を良くすることである。確かに一部の産業や一部の資産所有者にとって極めて有利な施策であり、企業がその利益をベースに富を増やす施策をとっていけば次第に全体が豊かになっていくだろう。残念ながら、一部の輸出企業の収益が社会に還元されるまでには相当時間がかかる。まず、過去の円高で相当痛めつけられた輸出企業がちょっとぐらい円安になったからと言って国内に生産拠点を戻すことはない。企業収益が上がってもなかなか分配しないし、分配も比較的株式の保有比率の低い日本の年金や個人に対してはインパクトが比較的低いのではないか。ワタクシたちのように投資に関係する仕事をしているとそれなりにインパクトはあるものの、国民全体からはいまいち所得や支出に影響するような気分の良さが見えていない気がする。 もうひとつは、「時間稼ぎ」を利用して構造改革にでることであった。その一つの表れが消費税増税と歳出削減による財政再建である。同時に高齢化社会の問題を踏まえた税と社会保障の一体改革が必要だという認識が共通にあったはずだ。もともと「消費税増税」と大規模緩和は同じ次元で論じるべきだったと思う。つまり大規模緩和をやった以上消費税増税は不可避であったはずだ。人口問題に手をつけるためには若者の「希望」が重要であり、老人の既得権や不平等な年金、投票制度こういったものに手をつける必要がある。ところがあろうことか、最高裁が何度も「違憲状態」としている選挙定員のもとで総選挙をやって自らの正統性を主張しようとしている現政権は、到底きちんと改革に取り組む気持ちがないこと、さらにいえば日本の将来について真剣に考えていない、あるいは考える能力がない、ということが明らかである。 いずれの点でも大規模緩和を長期的な日本の復活に結びつけるポイントが満たされていないように思える。 今回の選挙で安倍政権はまた勝利を得るだろう。きちんと消費税即時増税と公共事業を含めた歳出削減という正論を述べる政党がないのだから、本来あるべき姿を描いていた人々が投票する先がないのである。投票しなければおそらく大本営発表に浮かれる人々や利害関係者のわずかな支持だけでも、現政権が支持される結果となるのだ。 太平洋戦争当時から見れば日本は豊かな国であるが、人口問題など世界的にきわめて不利な状況を抱えている。当時のエネルギーの不利と同様の極めて構造的な問題である。その弱点によって追い込まれた日本にとって、起死回生を期して真珠湾攻撃のように奇襲によって時間を稼ぎ有利な講和(意識や行動の変化)に持ち込むことはまだ理解できないでもない。しかしその後きちんと講和への取り組みをきちんと行わないままで泥沼の長期戦へ突入し、日本は壊滅した。今回の異次元緩和と総選挙の組み合わせも結局は日本が同じことを行こうとしていることを示している。壊滅的な長期戦への、その分水嶺が今回の総選挙であると思っている。 |
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