これまで航宇研は、米国航空宇宙局(NASA)と接触してきた。現在NASAの関心は月から火星へと移行しつつある。月探査は「何を今さら」と思われる領域なのだ。閉鎖を考えていた月探査部署に韓国という顧客が現れたのだから、NASAとしては棚からぼた餅も同然だ。
だからといって、NASAがおまけをくれたり、技術移転や協力に乗り出したりするわけではない。宇宙技術とは、そう簡単なものではないのだ。NASAが探査機を製作して、われわれには多少の仕事が与えられるだけだ。探査機の製作にコストがどのくらい掛かるのかも今は分からない。
ただ確かなことは、3年後に現政権の任期が終わる前に、われわれが「国政課題」として月探査機を初めて打ち上げるということだ。NASAが製作した探査機に太極旗のマークが付けられることだろう。発射体(ロケット)も韓国製ではなく、他の国のものになる。これはすでに国家間の契約が済んでいる。
目標年度の2020年には、計1兆5000億ウォン(約1590億円)が投入された「韓国製ロケット」が登場するだろう。開発日程を数年前倒ししてこれを改良し、NASAの二つの探査機を打ち上げるのがわれわれの「月探査計画」だ。
ついに航宇研の関係者は本音を吐いた。「目標があるということは構成員たちを刺激し、奮闘させます。しかし、私たちには、実は探査機よりも月までこれを運んでいく宇宙輸送技術がより重要なんです。こうした技術開発に集中せず、いわゆる念仏よりも祭壇に上がる食事に関心を注いでいる外部の雰囲気に揺さぶられないか心配です」
「月探査」関連の初の予算が国会で審議されている。来年には410億ウォン(約43億円)が必要となる。野党は「朴槿恵のメモ予算」と騒いだ。子どもたちのための無償給食と保育には「金がない」と言い切った政府が、むなしい月の航空ショーには税金を使うというのだ。よもやすると、殺伐とした国民の常識も「1960年代に到着した月に今さら行ってみたところで一体何になるというのか」「羅老(ナロ)号の打ち上げの時のように花火のようなショーでも見せようというのか」「膨大な資金が投入されただけで、本当にわれわれの経済の助けとなるのか」といった側に傾いているに違いない。
航宇研では、野党議員の元を訪れて「月探査予算を政権レベルで見るのではなく、科学技術予算として考えてほしい」と説得するようだ。しかし、航宇研のメンバーでさえ「2020年には月に探査機を着陸させなければならない理由」について確信を持っているわけではない。
だとすれば、朴槿恵大統領が月探査について、直接国民を説得しなければならない。乗り越えるべき技術的課題と天文学的なコストを甘受しながらも、われわれの将来のために必ず進むべき道であるならば、そうするべきだろう。1961年にケネディ大統領が「われわれは月に行くことに決めた。それは易しいからではなく、難しいからだ。知識と平和に対する新しい希望が宇宙空間に存在する」と演説したようにだ。しかし、そうではなく、「メモ予算」といった批判だけが飛び交うならば、今すぐにでも取りやめるべきだろう。