日本報道検証機構は2012年8月以降、約2年間、主要各紙の訂正記事を調査してきた(参照=【旧GoHooアーカイブ】訂正報道一覧、訂正報道の月別ピックアップ)。これまで新聞は、訂正記事を対象となった記事と同じ面かそれに近い面に載ることが多く、掲載面が固定化されていなかった。しかも、大半が紙面の片隅に小さく載るため、読者が訂正の有無を確認することは容易でなかった。誤りの理由を示すのも、重大な誤報や取材源や配信元の通信社に原因があった場合など、例外的な場合に限られてきた。「確認取材を怠っていた」などとメディア側の落ち度を明示したものは、ごく稀だった(例=【旧GoHooコラム】「誤りを訂正する良い見本を示した」朝日新聞)。
新聞社が運営する無料のニュースサイトにも、紙面上の訂正記事が載ることはめったにない。電子版の記事に至っては、誤りがあっても上書きや差し替え、削除を行うことが日常茶飯事になっている(例=【GoHooレポート】生活の党 「小沢氏除き全員民主入り」は誤報)。
読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞のデータベースは、紙面上で訂正を出した場合は元の記事に明記しているため、訂正の有無を検索することは可能だ。他方、毎日新聞のデータベースは訂正を出した記事を上書き修正しており、訂正の有無が確認できない仕様になっている。産経新聞のデータベースは、実際に出した訂正記事のうち一部しか登録しておらず、網羅していない。
一方、海外の新聞は、かなり前から訂正記事の集約、可視化に取り組んでいる。「新聞記者は歴史のデッサンを最初に書く人間。新聞は必ず過ちを犯す。犯した過ちははっきり認めるべきです。ワシントン・ポストでは必ず決まったページ(2面)に訂正記事を載せています」―これは今から35年以上も前、1978年にワシントン・ポスト編集主幹(当時)のベン・ブラッドリー氏が立花隆氏の取材に答えたものだ(立花隆『アメリカのジャーナリズム報告』)。米国を代表するニューヨークタイムズやワシントンポストは、毎日、紙面上の決まった場所に目立つ扱いで訂正欄(corrections)を設け、誤報を「可視化」している(参照=写真)。「誤りの連絡を歓迎する」とわざわざ連絡先も明記している。ニュースサイトにも同様のページがある(参照=【The News York Times】訂正記事ページ)。ロイター通信などは、電子版記事に誤りがあった場合に、単に上書き修正するだけでなく、見出しも含めて訂正を明記している(参照=【ロイター通信日本語版サイト】訂正記事の検索結果、【AP通信】訂正記事一覧ページ)。
日米主要紙の訂正の数の違いも顕著だ。当機構が全国紙の東京本社版の訂正記事を収集してきた結果、読売、朝日、毎日は1か月あたり10本前後、産経は2~3本程度しかないことがわかった。他方、米紙ニューヨークタイムズは、1日あたり10本前後、コンスタントに出している。ざっと30倍だ。これだけの大きな差は、単純に「米紙の誤報が日本よりも多い」というだけでは説明がつかないはずだ。日本の新聞が誤りがあっても訂正を出していないものが多く、埋もれた誤報が相当数あるとみられる。訂正せずに、続報で「軌道修正」するケースも少なくない。この約2年半、GoHooで明らかにしただけでも、訂正されていない誤報はたくさん存在する(参照=旧GoHooサイト)。
つまり、訂正報道のあり方は、単に訂正記事の位置や扱いといった掲載方法の問題にとどまるものではない。ファクトチェックの体制、外部からの指摘を受け入れ迅速に対応する仕組み、訂正を出すルールや基準、自発的・積極的に訂正を出す仕組み作りという問題こそが重要だといえる。
(楊井 人文)
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(初稿:2014年12月7日 02:05)