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神眼の勇者 ― Ragnaløg《ラグナログ》 ―  作者:ファースト

重ガレオン級戦艦 VS 筏(いかだ)

不快に思われる読者様が多数おられますので
『回天』の言葉を消し、
ジェイクのプロポーズにおける台詞も変更しました。
  ◆◆◆

 オサワ島から逃げ出した海賊どもと海賊船を海に沈めたあと、俺はエストの天馬に乗せてもらい、解放直後の王城に戻った。


「島にいた海賊どもを退治していただき、本当にありがとうございます」

 初老の爺さんが、皆を代表して礼を述べてくれた。
 海賊たちに占拠されていた王城で、下働きの奴隷として、働かされていた1人である。
 なんでも、この国の国務大臣であり、国家が機能していたときは、総務関係のトップだったとのこと。
 そう聞くと、そうとう偉い人物のようにも聞こえてくる。
 もっとも、オサワ島を統治していたのは、総人口一万人に満たない極小国家のようだ。
 そんな小さい国なら、国務大臣といっても、たいした権限・権力は無かったと思う。
 人口、1億を超える現代日本に住んでいた俺からしたら、小さい町の市会議員(市議会議員)か村の村会議員(村議会議員)程度の印象ですらあった。

 年配者なので、もちろん相応の敬意は払うけど。

「お食事の用意をさせていただきますので、しばしお待ちを」

 アドルドという名前の老人は、逃げ遅れ、同じく下働きの奴隷として働かされていたメイドたちに指示し、食事の支度をはじめる。
 腹が減っては戦ができないので、ありがたくいただこう。
 島にいなかった海賊たちが、そのうち戻ってきたら、きっと、激しい戦いが待っているはずなのだし。

 ところで、今、この国ではアドルド総務大臣が、実質的にナンバーワンになっていた。
 王族は海賊たちに殺されるか、国外逃亡し、アドルド総務大臣以外の主要大臣も王族同様、島にいないようなので。

 唯一、今もこの島で生き延びている王族――フローラ・レイ・オサワ――は、酷い心神耗弱状態だったので、部屋の一室にて、休養中だし。

 ……逃げられないよう、足に鉄の鎖と鉄球をつけられていたフローラ姫は、発見当初、本当に“惨い”状態だった。
 海賊たちの慰みものにされ続けて、身も心もボロボロ……だったのだ。
 詳細は割愛するけど。

 ……詳しく、述べたくないほど、酷かったので。

  ◆◆◆

 一時間ほど、俺は海賊たちが戻ってきたとき、迎え撃つための“準備”を、俺は仲間たちとしておいた。
 食事の用意が出来たとのことで、一度、王城の“会食の間”に向かう。
 城主である王や王族も利用していたという会食の間は、なかなかに立派だった。
 海賊たちが暴れて壊したと思われる個所は、いくつかあったけど。

 新しいシーツが載せられた長テーブルにて、俺やミリア、カチュア、それにエストやアベルたちが食事をとる。

 ジェイクはいないが、彼のPTメンバーである5人は、テーブルについていた。

 ちなみに、俺が座っていた席は、もともとは、“王”の席だったとアドルド総務大臣から聞いて、内心、恐縮してはいたりする。

「いえ、海賊の長に我が物顔で座られ、王の席を穢されていた時に比べれば、むしろ、亡き国王陛下も喜ばれるでしょう。救国の英雄であられるマコト様に、お座りいただき」

 などと、アドルド総務大臣が言ってくれたので、そのまま座ることにしたけど。

 料理は、タラのポワレや海老の薬草焼きなど、島国らしく、新鮮な海鮮料理であり、味も良い。

「おっと」

 フォークに刺したタラを口に運ぼうとしたら、うっかり、落としてしまった。
 白ワインソースがついていたタラが――俺のズボンの上に落ちた。

「マコト様」
「……ご主人様」

 サッと立ち上がるミリアとカチュア。

 そして、すぐさま俺のそばでしゃがみ込み、ズボンの染み抜きをはじめる。
 給士をしていた、この国のメイドたちよりも素早い反応であった。
 俺に、いつも一生懸命尽してくれている奴隷姉妹ならではの反応だ。

 それはいいのだが――ソース付きのタラが落ち、染みがついた場所が、かなりキワドイ。

 ほぼ股間部位であった。

「い、急いで抜かないと――染みを」
「……ふ、拭き拭き、するです」

 俺の両側に侍り、ほぼ股間部位に当たる場所を、タオルで拭きだす美少女姉妹。
 二人とも、頬を赤くさせつつも、熱心にご奉仕してくれた。
 いや、ズボンに染みが残らないように、ご奉仕として、タオルで懸命に拭いてくれただけだが。


 そのあと、食事を続けていたら――足取りのおぼつかない様子で、フローラ姫が自室から出てきた。


「フ……フローラさま。お、お身体はよろしいので?」

 アドルド総務大臣が心配げな顔でフローラ姫に声をかける。
 光彩の無い目をしたフローラ姫は、王家に長年仕えた重臣である総務大臣の声にも答えない。

「………………」

 美しいが生気の欠けているフローラ姫が無言のまま、長テーブルに近づいてきた。
 フローラ姫の傍には、寄り添うようにジェイクがついている。
 海賊どもに穢され、ボロボロにされていたフローラ姫に思うところがあるのか、ジェクイクは、姫の護衛役と付添いを自ら買ってでていた。

「フローラの姫様も、腹が減っているんだよ、きっと」

 ジェイクが、明るい声で言う。

 食欲が出てきたらのなら、それは喜ばしいことであろう。
 救出直後は、生きる気力もなくしたようなようで、やつれていたのに、なにも食べようとしなかったし。
 生きるための体力、活力をとりもどすためにも、フローラ姫は栄養をとるべきであった。

 …………お腹の子のためにも。

 フローラ姫は――妊婦のように腹が膨らんでいる。
 父親は…………海賊たちのだれかであろう。
 島が占領され、海賊たちの慰め者に堕ちていたフローラ姫は、望まぬ子をその身に宿してしまったのだ――――。

「ひ、姫さん!? な、なにをやってんだよっ!?」

 ジェイクが慌ててフローラ姫を羽交い絞めにした。
 テーブルに近づいた姫が、素早くナイフを掴み――自分の腹を刺そうとしたからだ。

「離し……離して!」

 悲鳴のように叫び、あばれるフローラ姫。

「こんな子! こんな子は!」
「お、落ちつけって! 子供を堕ろすにしても、自分の腹にナイフなんか刺さなくていいだろ! フローラの姫様も、死んじまうぞっ!」

 必死にジェイクが説得する。

「死にたいの! 私も死にたいのです! 今すぐ!」
「……フローラ……姫様」
「こんな……こんな、汚れきった身体で……海賊どもに、肉……ひぐ……肉奴隷……などに……ひ……うぅう……さ、されてしまった私など…………うううう……」

 どうする?

 なんとかフローラ姫を落ち着かせたいけど、方法が思いうかばないぞ。
 口下手な俺では、今のフローラ姫を話術トークにより気を落ち着かせること自信も無い。

「御免」

 トン。

 いつのまにかフローラ姫の傍に近づいていたアベルが、軽く姫の細首を手刀で打った。
 本当に軽く、だ。
 それなのに、フローラ姫が気絶してしまった。

 映画とか、漫画などでよくある気絶手段だけど、この目で見たのは初めてだ。
 ちょっと格好イイ。

 今後、俺も真似を――ん? 《未来視》が…………

  ◆◆◆

「御免」

 トン。

 “俺”が、ゴロツキ風である中年男性の首筋を、後ろから手刀で軽く打っていた。

「痛っ! …………イキナリ何だテメェ?」

 いぶかしげな顔で振りむく中年男。
 どうやら、気絶させるのに失敗したようだ。
 手刀に込める力が弱すぎたのではないだろうか?

 “俺”は素早く動き、またも中年男の背後をとった。

 そして、今度は、さっきより力を込めたように、勢いのある手刀を放ち――

「御免」

 ボキン!

 …………あ…………

 中年男の首が、曲がってはいけない方向に(・・・・・・・・・・・・)曲がって……しまった…………。

 “俺”は後悔しているように、このように呟いた。

「…………しまった………………ヤッちまった……」

 オィィィィっ!?
 なにヤってんだよ未来の”俺“ぇ!?

「仕方ない。誰かに見つかるまえに…………埋めるか」

 スコップのようなものを取り出す“俺”。
 そして――無言で穴を掘りだし始めた。妙に手慣れた様子で。

  ◆◆◆

 な、なんだ今の映像は!?

 お、お、俺が未来で、“加減”を間違え、人の首を手刀でブチ折って……いやがった…………。

 オーマイガッ!

 い、いや、きっと、あの中年男性は、どうしようもない極悪人のはずだ。きっとそうだ。そうに違いない。

 ………………。

 今後、気絶させるために他人の首を手刀で打つのは、控えるようにしよう。

 そ、そんなことより、今はフローラ姫だ。
 アベルが怪我させずに気絶させたので、今は大人しいが、意識を取り戻したら、また、自殺に走るかもしれん。
 なんとかしてあげたいのだが――む?

 フローラ姫を眺めていたら、彼女の【ステータス】が見えてきたぞ。

【フローラ・レイ・オサワ    プリンセス    レベ17

  状態:気絶 

     ※ 想像妊娠中】

 想像……妊娠……中?

 フローラ姫の妊婦用に膨らんだ腹を俺はまじまじと見つめた。

 そういえば。

 想像妊娠は、女性が
 ●子供を強く望んでいる時
 ●子供が産まれるのを強く恐れている時
 という、まったく正反対の心理状況の時に起こりやすいと聞いたことがある。 

 連日、海賊どもに犯されていたであろうフローラ姫は、妊娠への強い恐怖とストレスに襲われていたのは予想できる。
 きっと、妊娠への恐れにより、フローラ姫は“想像妊娠”をしてしまったのだろう。
 実際には、子を宿してなくても、想像妊娠により、腹が膨らんだりすることもあるようだし。

  ◆◆◆

 意識が戻ってからも、フローラ姫は、だいぶ落ち着きを取り戻していた。
 想像妊娠であり、実際には海賊の子供を宿していないことを、俺が教えてやったからだと思う。
 フローラ姫は涙を流して喜んでもいた。
 姫に同情していたミリアやカチュア、それに他の仲間達も、ホッとしていた。
 特に、ジェイクはとても安堵していたようだ。

  ◆◆◆

「…………来ないなぁ」

 俺は今、西の浜辺近くにある灯台で見張りをしていた。
 残りの海賊たちが戻ってくるのを、《神眼》の《遠視能力》で視力をあげ見張っているのだ。
 反対側の浜辺やその近海は、天馬騎士エストが哨戒している。
 北側や南側は崖になっているので、船で戻ってくるとしたら俺の見張っている西側か、エストのいる東側なのだが。

「ま、マコトさん、来ました!」

 突如、“声”が聞えた。
 仲間の1人、【魔法使い】マークの緊迫した声である。

「哨戒から戻ってきたエストさんの報告によるとですが、東側の海から海賊どもがこの島に向け、航海しているようですっ! そ、それも超大型の……重ガレオン級戦艦で!」

 《遠話》の魔法を習得している魔法使いマークの声に、俺は迎撃作戦Bを取ることに決めた。

 空飛ぶ筏による――丸太爆撃大作戦を。

  ◆◆◆

 いかだとは。

 “丸太”など浮力を持つ部材を、ロープや蔦で結びつけ作りあげる水上構造物である。
 船舶(船)として利用されることもあり、海洋いかだなら、遠距離航海すら行える。

 地球で最も有名ないかだ『コン・ティキ号』など、南米ペルーから、約100日の航海をつづけ、8000キロ離れたオセマニアの東ポリネシアにまで、到着している。
 地球にいるとき『コン・ティキ号探検記』という小説を読んだり、映画『コン・ティキ』を見て感動してから、俺はいかだに魅力を感じていた。

 そのいかだが、この島にはいくつかあった。

 特に王城の宝物庫には、巨大ないかだが保管されていた。

 初代国王がこのオサワ島に漂流し、島を発見したさいに乗っていた《王のいかだ》なる、由緒正しい筏が存在していたのだ。
 多少の落ち着きを取り戻したフローラ姫とアドルド総務大臣に頼み、王城解放の報酬として、《王のいかだ》を、俺は譲り受けていた。
 《王のいかだ》は、丸太を組んだだけの簡易タイプであったが、大きさはかなりのものだった。
 長さ13.5メートル、幅5.5メートルもある。

 『コン・ティキ号』とほぼ同サイズであるところも気にいった。

 いずれ、このいかだに、『コン・ティキ号』と同様、小屋を建てたい。
 『コン・ティキ号』は竹製だったようだが――おれは丸太小屋ログハウスを。


 俺たちは今、いかだに乗って“空”を飛んでいる。
 …………別に俺の頭が狂ったわけではないぞ。
 《飛空石》を利用し、《王のいかだ》を空に浮かべているのだ。
 そして、そのいかだを天馬騎士エストのペガサスに曳いてもらい、空を飛んでいるのだ。
 目指すは、島に戻ってきている最中の大型海賊船。


「すげぇ、本当にいかだが空を飛んでいやがるっ!」

 同乗しているジェイクが、興奮し、はしゃいでいた。

 他の仲間達も、
「重ガレオンにいかだで立ち向かうって聞いた時は、正直、無茶過ぎると感じたが」
「僕なんて、『マコトさん、とうとう狂ったか』と思いましたよ」
「でも、空からの強襲なら、アリかも」
「重ガレオン級戦艦には、数十門の砲があるようだけど」
「これだけ高く空を飛べば、大砲の砲弾も、届きようがないし」
 などと、口にしていた。

 ところでマーク君、『“とうとう”狂ったか』って、どういう意味かな? きみ、あとで話があるぞ。

いかだを海ではなく空に浮かべ、天馬に曳かせて航空するなんて…………マコト様の発想力は常人には遠くおよびません」
「…………ご主人様は、天才、です」

 俺を常に持ちあげてくれるミリアとカチュアが、尊敬の目で俺を見てもいた。

「丸太に関連することなら、マコト、君はまさに“天才”だと思う。そう――“丸太の天才”、だ」

 アベルが敬意を込めて褒めてくれた。
 俺としては“丸太の天才”と褒められたのは、微妙、なんだが。
 どうせなら…………剣の天才とか、魔法の天才とか…………呼ばれたい……ので……。

「マコトさん! ほら、あのでっかい武装船だよっ」

 天馬に乗り、筏を曳いてくれているエストが叫ぶ。
 《神眼》を持つ俺には、海賊旗をかがげた、巨大な武装船が見えた。

「全長:約100メートル、最大幅:約20メートル、排水量:1000~200トン、といったところか」

 呟きつつ、なるほど、化物みたいな巨大戦艦だと、俺は戦慄した。

 《王のいかだ》は、いかだにしては、非常に大きいほうだ。
 普通の筏より、何倍もでかい”巨大筏”ではある。
 しかし、海賊どもが乗る重ガレオン級戦艦はさらに数十倍もでかい。

 まともに戦えば、それこそ、砲門の一斉射撃で、木端微塵にされていたであろう。

 だが、はるか上空を飛ぶ、空中筏による強襲作戦なら――勝てるっ!

 相手の砲は届きようがないのだ。
 それに、“武装”なら、数十門の砲をもつ重ガレオン級戦艦にも、決してまけていない。
 なぜなら――このいかだには、大量の“丸太”を積んでいるからなっ!


  ◆◆◆

 戦闘は、圧倒的であった。

 砲の届かない上空からの、一方的攻撃を続けられたからだ。
 丸太を落としまくる丸太爆撃で。

 それも、落としまくっているのは、ただの丸太ではない。

 《爆弾石》の魔法を俺は使えるが、アベルも新しく習得していた。
 筏にあらかじめ大量に積んでいる丸太に、ロープやマル子の蔦などで石を大量にくくりつけてもいた。
 爆弾化した”石”をいくつも搭載した”丸太”を次々と落としているのだ。
 まさに“丸太爆弾”
 “丸太爆弾”による、“爆撃”――”丸太爆撃”なのだ。
 《神眼》を持ち、遠距離攻撃の命中に補正がかかる俺による“丸太爆撃”であった。
 重量物である丸太の“重さ”と爆弾石による“爆発力”を組み合した新型破壊兵器である。

 新兵器“丸太爆弾”による一方的な攻撃――ずっと俺のターンが、続いていた。

 積んである丸太を二人掛かりで抱え、俺に運ぶ役目をしてくれているジェイクたちが、
「うぉぉぉぉぉぉぉおっ!」
「あ、圧倒的過ぎる……」
「じゅ、重ガレオン級戦艦が、もうボロボロだよ」
「……俺たち、このまま無傷で勝てそうだ……」
「あ。船長らしき海賊に丸太爆弾が直撃した」
「こ、この空中筏いかだ……いや、空中“筏”戦艦は、無敵すぎる」
 などと、感想を呟いていた。

 空中筏戦艦――イイね!

 その名前、イタダキます。

 空中筏戦艦による一方的攻撃で、海賊たちの重ガレオン船は、いまにも沈みそうだ。
 あと、数発ぶち込めば、海の藻屑と化すであろう。

「う、渦が!?」

 ミリアが驚きながら指を差した。

 なんだ?

 まだ沈没していない重ガレオン船の周りに巨大な渦が生まれている。
 どこか、禍々しい感じのする巨大渦だ。
 そして――その渦に重ガレオン級戦艦が飲み込まれていった。

 …………何が起きた?

「あれは、闇女神の一柱、『海の邪神クトォリア』を信仰する、闇司祭が使える暗黒魔法だよっ」

 俺の隣でほぼ真下にある海の渦を覗きこみながら、アベルが叫ぶ。

 う、海の邪神? 闇司祭の暗黒魔法?

「暗黒魔法《暗海の渦》――相手の船を沈める攻撃にも使えるけど、不利になったさい逃走用にもなる。クッ! まさか海の邪神クトォリアの闇司祭が海賊側にいたなんて!」
「で、でもアベル。海中に沈んだなら、船も海賊どもも無事ではすまないのでは?」
「あの暗黒魔法は、自軍の船を海中に沈め、そのまま“潜水艦”化させることができるんだ! 空気の膜を張ることで、ね」

 潜水艦だと!?

「どうしようマコト!? このままでは、海賊たちに逃げられてしまうっ」
「大丈夫だアベル」

 俺は自信ありげに言い、アベルの肩をポンっと叩いた。

「……マコト?」
「あんな外道共、俺が見逃すわけがない。俺にまかせろ」
「…………マコト……キミって……やっぱり……素敵だ」

 あ、アベルさん?
 どうして潤んだ瞳で俺を見つめるの?

 やめて、なんだかホモくさいからっ!


 《飛行石》の効力を弱め、徐々に空中筏戦艦の高度をさげた。
 そして、海上に着水する。
 既に大渦は消えている。海賊どもを乗せた重ガレオン船も。

「仕留めてくる」

 丸太をかつぎながらそう言い残し――俺は、筏から飛び降り、海に潜った。
 アベルが習得していた魔法《重力調整》により、俺の体重は一時的にだが数倍の重さになる。
 浮力の高い丸太をかついでいても、沈んでいくことができた。

 《水中呼吸アクアブリージング》の魔法を唱えていたので、海中でも呼吸に問題はない。
 それなりに深い海底を歩く。
 丸太(丸太杭)をかついだまま。
 海に潜った重ガレオンの位置は、《神眼》の透視能力で、つかめてもいた。

 ――む、いた、な。

 気泡のようなモノに包まれ、潜水艦と化した重ガレオンまで数十メートルの距離に近づいた。
 海賊どもには気付かれていないようだ。

 《水中呼吸アクアブリージング》は便利な魔法で、海中で呼吸だけでなく会話もできる。
 魔法も唱えられる。

 俺は、《爆弾石》と《風推進エアスクリュー》の魔法を唱えた。

「発射(GO)っ!」

 潜水艦化した重ガレオンに向け、多数の爆弾石を搭載した丸太――丸太魚雷――を発射させた。
 《風推進エアスクリュー》の魔法により、丸太魚雷が回転しながら海中を突き進む。
 先を尖らせた丸太=丸太杭なので回転により、推進力・貫通力も半端なさそうだ。

「GOGO! 特攻なの! 風精霊と丸太がコンボした魚雷DE特攻アタックなの!」

 《契約》している風精霊――たしか名前はシィル――が、はしゃぎながら丸太を高速回転させていた。
 丸太魚雷は、風精霊魚雷でもあった。

「……動力・風精霊型の丸太魚雷、か」

 海に沈み待機している海賊船のドテッ腹目掛けて、突き進む風精霊付き丸太魚雷を見つめながら、俺は呟いていた。


 丸太魚雷は気泡を楽々と破り、さらには、海賊船に深く突き刺さった。
 コンマ数秒遅れて起きる、大爆発。
 潜水艦化していた重ガレオン船は――海の藻屑と化した。
 乗船していた500人を超える海賊たちと共に。

  ◆◆◆

「これで……フローラの姫様の心も、安らげばいいけど、な」

 筏に上がってきた俺から海賊どもの末路を聞いたジェイクが、ボソッと呟いた。
 フローラ姫も、自分を虐げ、汚しまくった海賊どもがほぼ全滅したことで、心の安静を取り戻せるかもしれない。

 む? 未来視が――

  ◆◆◆

 夜中、王城のテラスに、フローラ姫とジェイクの二人がいた。

「やめろ! 飛び降り自殺なんて、バカな真似をするんじゃねぇ!」
「でも……でも……ジェイクさま」
「姫様! アンタを凌辱した奴らはもう死んだんだ!」
「……それでも……ワタクシ、生きていけない…………こんな……こんな汚れきった私なんて……生きている資格が無い。海賊どもの、に、肉便器なんかに……されていた、穢れた私なんて」
「――俺には姉貴がいたんだけどよ」
「え?」
「俺がまだガキだったころ、村を襲ったオークどもに捕まり、姉貴はさんざん犯されちまった。オークどもの肉便器に……されちまった」
「…………肉……便器……に……」
「街から救援に来てくれた冒険者の人たちがオークどもはブッコロしてくれたけどよ。でも…………オークの子を孕んでいた姉貴は…………正気を失い狂っちまった姉貴は…………」
「ど、どうなされたのですか?」
「…………」
「…………」
「……死んだ……よ。崖から身を投げ出して」
「…………。お姉さまの御気持ち、わかります。ジェイクさまのお姉さまの……死を望んだ、御気持ちは」
「頼むっ! フローラの姫様、あんたは生きてくれっ!」
「………………。でも、肉……便器……であった私には……もう、生きる希望がないのです。だって、もうどんな男性も、こ、こんな穢れた私を、本気で、愛してくれることはない……でしょうし」
「そんなことはねぇ」

 ジェイクがフローラ姫の両肩を両手でつかみ、真剣そのものの顔で
「お、俺が! お、俺でよかったら、姫様、あ、アンタを本気で愛する! 一生、愛するっ!」
「っ! わ、私の過去を知っていて、それでも……愛して……くれるというのですか?」
「ああっ!」
「わ、私は大勢の男たちにより……に、肉便器に……されて……いたんですよ。」
「そんなの関係ねぇっ」
「で、でも。やっぱり……駄目ですわ。に、肉便器にされ多くの男たちから汚され続けたた、私みたいに汚れた女、男性に愛させる資格なんて――」
「多くの男から肉便器にされた? それがどうしたっ! 俺はそんなの気にしねーっ! ああ、誓って、気にしねーよっ!」
「……ジェイクさま……」

 その美しい両目から涙を流しだすフローラ姫。

 ジェイクは、フローラ姫の目を見つめながら
「フローラの姫様――いや、フローラっ」
「は、はいっ」

 ジェイクとフローラ姫はお互いに見つめ合った。
 そして、ジェイクの口から、衝撃的なプローポーズの言葉が発せられる。


「結婚――してくれ」


「ああ、ジェイクさまっ!!!」

 抱き合う2人。

 月の光が降り注ぐテラスで、若い男女が口づけをした――

  ◆◆◆

 イイハナシダナー。

 肉便器、肉便器、言い過ぎだったけど。

 …………しかし、一介の冒険者、それも盗賊が、小国とはいえお姫様のハートをゲットか。
 相当な、成り上がり的・成功ではないか。
 まぁ、ジェイクはイイ奴だし、応援してやろう。

 ポンッ。

 俺はジェイクの肩に手を置き、
「頑張れよ――応援するから」
「? あ、は、はい、マコトの兄貴」
新作『スーパーマッシュブラザーズ』を公開しております。
よろしければ、ぜひ、お読みください!

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所謂、異世界転生もの。現代より異世界に転生したユノウスくんが現代知識で好き勝手に活躍します。第1章は9才まで。第2章は9~10才。第2.5章は9~14才(番外編//

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  • 連載(全82部)
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  • 最終掲載日:2014/08/31 12:00
異世界転移したのでチートを生かして魔法剣士やることにする

ネトゲーマーの大学生、涼宮楓は徹夜でネトゲをプレイし続けた結果、異世界に転移する。チートじみた魔力とスキル群を持って。涼宮楓はこの世界で何を思い。何を為すのか。//

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  • 連載(全76部)
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  • 最終掲載日:2014/11/23 22:57
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//

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  • 連載(全249部)
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  • 最終掲載日:2014/11/22 19:00
マギクラフト・マイスター

 世界でただ一人のマギクラフト・マイスター。その後継者に選ばれた主人公。現代地球から異世界に召喚された主人公が趣味の工作工芸に明け暮れる話、の筈なのですがやはり//

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  • 連載(全654部)
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  • 最終掲載日:2014/12/06 12:00
レジェンド

東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世界//

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  • 連載(全475部)
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  • 最終掲載日:2014/12/05 18:00
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~

 ゲームをしていたヘタレ男と美少女は、悪質なバグに引っかかって、無一文、鞄すらない初期装備の状態でゲームの世界に飛ばされてしまった。 「どうしよう……?」「ど//

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  • 連載(全130部)
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  • 最終掲載日:2014/12/06 07:00
ぼっち転生記

人間不信の男が、異世界に転生し精霊使いとして自由かつ気楽に生きる物語。 魔術が盛んな国の地方領主の息子と生まれた男は、天賦の才で精霊の姿が見えた為、精霊使いに//

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  • 連載(全93部)
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  • 最終掲載日:2014/11/15 14:25
二度目の人生を異世界で

唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。 「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」 これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//

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  • 連載(全234部)
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  • 最終掲載日:2014/12/05 12:00
奪う者 奪われる者

佐藤 優(サトウ ユウ)12歳  義父に日々、虐待される毎日、ある日 借金返済の為に保険金を掛けられ殺される。 死んだはずなのに気付くとそこは異世界。 これは異//

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  • 連載(全100部)
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  • 最終掲載日:2014/12/06 12:00
異世界迷宮で奴隷ハーレムを

ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//

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  • 連載(全207部)
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  • 最終掲載日:2014/11/29 20:23
軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!?

27歳童貞、元いじめられっ子で元引きこもりの金属加工会社員、オレこと堀田葉太は、現代兵器大好きな軍オタであり、銃オタでもあった。自前の金属加工技術を使ってハンド//

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  • 最終掲載日:2014/12/05 21:00
進化の実~知らないうちに勝ち組人生~

柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//

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  • 連載(全39部)
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  • 最終掲載日:2014/11/12 00:34
効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

魔導の極意を目指していた魔導師「ゼフ=アインシュタイン」、炎の魔導を得意としていた彼は、実は一番才能のない魔導をずっと修行していたと知る。しかしもはや彼は老人、//

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  • 連載(全231部)
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  • 最終掲載日:2014/12/03 07:38
境界迷宮と異界の魔術師

 主人公テオドールが異母兄弟によって水路に突き落されて目を覚ました時、唐突に前世の記憶が蘇る。しかしその前世の記憶とは日本人、霧島景久の物であり、しかも「テオド//

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  • 最終掲載日:2014/12/06 00:00
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた

 ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、泊り込みのできる方。月給25万+歩合//

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  • 最終掲載日:2014/11/30 21:00
元大学生の僕は魔術師界の鬼才だそうです

 理系の大学4回生である主人公・春野空(はるのそら)は超常現象によって突如異世界に飛ばされてしまう。彼を待ち受けていたのは、剣と魔法の世界だった。  現代科学の//

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  • 最終掲載日:2014/11/21 19:00
金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~

タイトルと作者名を変更しました。『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。 あらすじ  ある日、主人公である丘村日色は学校の屋上でサボっ//

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  • 連載(全542部)
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  • 最終掲載日:2014/12/06 00:00
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