
庄司真美|ライター
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「世界でもっとも気持ち悪い男」に聞く 自分や身近なものをコンテンツ化して 世界に発信する方法(3)
「世界でもっとも気持ち悪い男」に聞く 自分や身近なものをコンテンツ化して 世界に発信する方法(1)
「世界でもっとも気持ち悪い男」に聞く 自分や身近なものをコンテンツ化して 世界に発信する方法(2)
彼女がいる風のセルフィーを掲載した自身のコンテンツが世界中で拡散されて、2013年には、イギリスのガーディアン紙で「世界でもっとも気持ち悪い男」の称号を得たライターの地主恵亮さん。前回に引き続き、今回も「ひとりデート」発案者として、今や日本だけでなく世界でも広く顔を知られる地主さんに、自分や身近なものを素材にコンテンツを企画し、世界に発信する方法を伺いました。
地主恵亮(じぬし・けいすけ)
ライター。1985年福岡生まれ。2009年より人気ポータルサイト「デイリーポータルZ」で執筆。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に『昔のグルメガイドで東京おのぼり観光』(アスペクト)がある。
"顔出しOK"のライターとしてのこだわり
実は"彼女の手"は地主さん本人の手。
──そもそもライターとしてのスタート地点は?
地主:20歳くらいの頃、ウェブの制作会社でアルバイトしてまして。そこで、カツラメーカーのメルマガを書いてたんです。そのときの上司が新聞社系列の出版社出身の編集者だったため、記者気質で原稿にはかなりうるさかったんです。そのおかげで、文章の書き方がかなり鍛えられましたね。当時、最終的に掲載されたものを見たら、僕が書いたのは「です。」ぐらいしか残らないほど修正されていたこともありました(笑)。
──メルマガの内容はどんなものだったんですか?
地主:「ハゲはモテない」をテーマに、3人の丸の内OLをゲストに招いて、ハゲている男性を罵るというくだけた企画記事でした。そもそもそのハゲ担当のモデルとして、若干おでこが後退し始めていた僕に白羽の矢が立ったんです(笑)。それが自ら顔を出して体を張って、おもしろいコンテンツをつくる今の原点ですね。
──その後、デイリーポータルZに寄稿し始めたのを機に人気に火がつくわけですけど、Twitterのフォロワーやファンを増やすコツってあるんですか?
地主:Twitterに関しては、まず、まじめなことを書かない。それから、宣伝だけじゃなくて1日1ツイートは、身近で見つけた変な画像をアップしたり、おもしろいことをつぶやくようにしています。そもそも、その日のランチを公開したりするのは、パリス・ヒルトンみたいな有名人がやるから有効なわけで、僕が同じことをしても通用しないということを「デイリーポータルZ」Webマスターの林さんから言われました。とはいえ最近は、出版したばかりの『妄想彼女』のことばっかりツイートしていて、フォロワー離れが心配ですね(笑)。
──顔出しの記事については始めから抵抗はなかったんですか?
地主:全然なかったですね。たまに周囲で「顔を出すのはちょっと」っていう方もいますけど、お前の顔なんて誰も見ちゃいないよ! と思ってしまいますね(笑)。気にしすぎかと。僕なんて住所までネットでさらされてますけど、誰も家に来てくれませんよ(笑)。
なにより、顔出し記事の方がネットではウケがいいらしいんですよ。これも「デイリーポータルZ」の林さんからアドバイスを受けたのですが、顔を出さないとオリジナルコンテンツとして説得力が出しにくいんです。それからもう1つこだわりがあって、記事上でワイワイしているところを絶対に見せないということです。実は撮影中、たまに知り合いを呼んで楽しく撮影したりすることもあるんですけど、知り合いは記事に出さずに、1人でストイックにやっている体裁にこだわっています。リア充の話をしましたけど、やはりそれってユーザーにとって鼻につくことだと思うんです。だから、僕の記事では、何か食べてる時以外で、ほとんど僕の笑顔はありません。やはり、おかしなことをまじめにやるのが一番おもしろいと思うからです。
見せ方、書き方へのこだわり
──「デキるサラリーマン風」などの演出をまじめに追求していますよね。
地主:おかげさまで、「~風」の演出シリーズは好評でして(笑)。見せ方のパターンとしては、「デキるサラリーマン」の場合、スーツ着用で六本木ヒルズなどを背景に写真を撮り、はじめはいかにもそれらしく演出するんです。そして徐々に「それはやりすぎだろ!」という感じに発展させています。「~っぽい」だけで終わるとおもしろ味が生まれないので、なるべくそれをオーバーに見せていく構図ですね。
たとえば、まずはカフェのテラスによくあるウッドテーブルにMacBook Airを置いて、ノーネクタイのスーツ着用でノマドワーカーを演出します。ちなみにデキる風に見せるアイテムとして、MacBook Airは恰好の小道具になりますね(笑)。次のカットでは、その傍らにビジネス書や哲学書などの難しそうな本を置いて、次第にそれらを高く積み上げます。さらに、デキる男は疲れているだろうということで、栄養ドリンクの空き瓶をたくさん散りばめてみたり。最終的には目の下にくまを描いたりもします(笑)。そうやってちゃんと笑えるオチに向かって進行しています。
──書き方にもたたみかけるような工夫がありますよね。
地主:ネットユーザーはあまり文字を読まない人が多いので、たとえば、「俺はバカだ」とか何度もたたみかけるように書いたりしています。それが独特のリズムを醸しているかもしれません。こうやって日々バカなことを真剣にやっているからか、ある日、ファンレターにカウンセリングの割引券が入ってたことがありました。きっと病気かなにかと思われたんでしょうね(笑)。
──セルフ写真を撮るとき、こだわっている部分はありますか?
地主:基本的にそこまでカメラの設定はいじらない方なのですが、なるべく引きの写真を撮って、どんなシーンなのかを明確にしています。引きの写真を撮るときは誰かに頼むこともありますが、Bluetoothをつかってスマホのシャッターを押せるアイテムがあるので、それで確認してから一眼レフで撮ったりもします。
でもやはり、ネットユーザーはあまり文字をじっくり読まないという想定のもと、なるべく写真をおもしろくするというのが一番のこだわりですね。だって、僕の記事が海外のメディアで紹介されたとき、僕は日本ではライターの肩書きなのに、フォトグラファーとして紹介されてるんですよ(笑)。つまり、海外では文章の評価はゼロということです。
──自分だけでなく誰かの演出やプロデュースでも活躍できそうですよね。最後に、今後の抱負などをお聞かせください。
地主:アイドルのプロデュースとかぜひやってみたいですね。モデルを起用してなにかを演出することにも興味があります。ただし、20代前半の女性限定で(笑)。というのは冗談ですが、まずは書かかせていただける媒体をもっと増やしたいですね。そして、僕のつくりだした記事や写真を見て、「バカだな、こいつ」などと言って、国や人種を問わず、少しでも大勢の人に笑っていただけたら本当に嬉しいですね。
(庄司真美)
- 妄想彼女
- 地主恵亮(じぬし けいすけ)鉄人社