1ドル=120円台まで円安が進んだ。07年7月以来、約7年4カ月ぶりの水準だ。円安はこの夏から加速した。

 景気と金融政策で日米の方向性が対照的になったことが一因だ。景気回復が続く米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げの時期を探っている。一方、日本経済は4~6月期、7~9月期とマイナス成長が続く。日本銀行が10月末に追加の金融緩和を決めると、円安の動きがさらに強まった。

 追加緩和の理由を日銀は「原油価格の下落は物価を下げる要因となり、デフレマインドの転換を遅らせる恐れがある。デフレ脱却に向けた日銀の決意を示す必要がある」と説明する。

 本来、原油価格の下落は、エネルギーの多くを輸入に頼る日本にとってプラスであることは、日銀も認めている。しかし、日銀は「2年で物価上昇率を2%に上げる」ことに目標を置いている。円安が進めば、輸入品の価格を押し上げ、物価全体の上昇にもつながるため、日銀の目標にはかなう。

 円安にはマイナスの副作用も伴う。追加緩和に反対した佐藤健裕・日銀審議委員は最近の講演で「円安が輸出の回復を後押しするかどうかは不透明感がある」「円安は今回の景気回復の牽引(けんいん)役である非製造業にとりマイナス要因」と指摘している。

 内閣府の景気ウォッチャー調査からも円安への警戒が読み取れる。

 「円安の影響から燃料費や原材料の高騰を原因とする値上げの話が出始め、消費の冷え込みが懸念される」(北関東のスーパー)「価格改定できない一方、原材料価格の上昇は加速しており、このままでは減益になる」(中国地方の食品製造業)

 海外からの旅行客の増加など明るい面も指摘されているが、そうした声は多くはない。

 日本では歴史的に、円安より円高に対する警戒感が強い。民主党政権時代に1ドル=70円台の円高となり、産業界から悲鳴が上がった。

 そのことを指摘しながら、安倍首相は現在の選挙戦で「(円安で)環境は大きく変わった。日本で投資をして、雇用をつくっていこうと変わってきた」と、円安の恩恵を強調している。マイナスの側面については、「副作用が出て来ている」と触れる程度だ。

 日銀の物価目標は、原油安のメリットを打ち消し、円安のマイナスものみ込むことまで正当化できるのだろうか。経済の実態に即して対応する柔軟さを政府と日銀に求めたい。