在庫を減らすためにジャストインタイム納入に切り替えた遠隔地の顧客へのサービスのために、タカタはマレーシアからモロッコ、ウルグアイに至る世界各地に工場を置いた Reuters
ホンダは自動車エアバッグメーカーのタカタとの関係を見直している。タカタは、ホンダなどの自動車メーカーによるこれまでで最大規模の一連のリコールの原因になった。
関係筋によると、売上高で日本第3位の自動車メーカーであるホンダは、他のメーカーからエアバッグ用インフレーターの購入を始めており、タカタにも同様の措置を取るよう求めている。他の日本の大手自動車メーカーもタカタ製部品を使うことを見直しつつある。
タカタ製エアバッグの品質問題は2000年代初めにまでさかのぼる。不良品は破裂して車内に金属片が飛び散り、乗っている人を傷つける恐れがある。この事故で過去6年間に少なくとも2人が死亡し、十数社の自動車メーカーが合わせて1200万台以上をリコールした。米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が調査に乗り出し、タカタも数億ドル規模の損失を計上した。
大手自動車メーカーはエアバッグをどこからどのように調達するか検討に入っており、一部の自動車メーカーのサプライチェーンでは少数の企業がある部品の大部分を供給していることによる、柔軟性のなさが露呈された。
以前にタカタとそのライバルである米TRWホールディングスの幹部を務め、現在はバリエント・マーケット・リサーチ(米ニューヨーク州)の最高経営責任者(CEO)であるスコット・アパム氏は「今や最悪の事態になってしまった」とし、「一つのささいなことが間違った方向に行ったことで、ほとんど全ての人が影響を受けている」と話した。
自動車メーカー別にみたタカタの不良エアバッグの数量(単位:百万)
ホンダの広報担当者は、同社は長年にわたってさまざまなモデルについていくつかのエアバッグ部品メーカーを利用しており、部品納入業者をさまざまな理由によって変えることはよくあることだと述べた。ただ同担当者は、納入業者に関する具体的な情報は出せないとし、多くの場合これらの情報は秘密扱いだと語った。
タカタは、「この問題を非常に深刻に受け止めており、品質管理を強化し、こうした問題を二度と起こさないようにするため、会社を挙げて取り組んでいる」との声明を出している。インタビューの要請には応じなかった。
問題となっているのはエアバッグのインフレーターだ。これはプロペラント(ガス発生剤)の燃焼室などで構成される部品だ。同社のインフレーターは他の大半のライバル企業とは異なるプロペラントを使っている。アナリストによると、このプロペラントは価格が安いが不安定だという。タカタの広報担当者は、同社は最も安全で環境に優しい製品を作っていると述べた。
関係筋によると、ホンダは一部のインフレーターをタカタの代わりに大阪のダイセルに発注し始めた。また、外部のインフレーターメーカーの利用を拡大するようタカタに要求しているという。
一方、スウェーデンのオートリブなどライバルのエアバッグメーカーは、新規のビジネス獲得を期待していると述べている。同社の広報担当者ヘンリク・カール氏は「自動車メーカーは最近、全般に品質に気を付けるようになっているが、タカタ製品のリコールがその一因だ」と話した。ただ、タカタ問題を直接の要因とした新規の受注はまだないという。
エアバッグメーカーはいくつかの企業に集中しており、問題への対応としてライバルが能力を拡大するのは困難だ。オートリブの市場シェアは35%で、以下TRWとタカタが続き、シェアはいずれも20%程度だ。残りの25%は米キー・セーフティー・システムズ(ミシガン州)など中規模メーカーが分け合っている。
関係筋によると、タカタ製品を使っているトヨタ自動車と日産自動車は、タカタに不安を抱いているが、両社が何らかの措置を取るかどうかは明らかでない。
あるモデルの生産が続いている中で部品納入業者を変更するのは難しい上に費用がかかる。一部の自動車メーカーはいくつかの業者から購入しているが、エアバッグを多くの種類に広げていると―10種類以上のエアバッグを装備するモデルもある―バックアップの業者を見つけるのが難しくなる。
だが、インフレーターのメーカーを代えるのは容易だ。インフレーターのシェアが20%以上だとしているダイセルはこれを2020年までに30%にまで引き上げたい考えだ。同社の広報担当者、広川正彦氏は、同社は既にタカタには全体の20%のインフレーターを供給しているが、これも増やしたいと述べた。タカタからのコメントは得られていない。
他のエアバッグメーカーもリコールの打撃を受けたが、タカタほどの規模ではない。タカタは過去2年間にエアバッグ関連の損失を747億円計上した。ただ、この費用は引当金の範囲に収まるという。
同社は1933年にパラシュート用つりひものメーカーとして創業し、後にシートベルトを作るようになった。
ホンダの元幹部、小林三郎氏の回顧録によると、タカタに1.2%出資しているホンダは80年代、タカタにエアバッグを生産するよう提案。当時のタカタの最高経営責任者(CEO)、高田重一郎氏(創業者の息子)はしぶしぶこれに同意したという。
同氏は80年代末から2000年代初めにかけて、一連の買収と事業拡大によって国際的な企業となることを目指した。自動車メーカーがコストダウンのために大量に部品を買い入れ、同じ部品を多くのモデルに使用し始める中で、部品業界は統合されていった。
一部のエアバッグメーカーは、製造過程が危険すぎると判断して、この事業から撤退した。大手のエアバッグメーカー数は90年代の合併・買収(M&A)によって3社にまで減少した。
タカタは積極的な事業拡大によって06年には17カ国に46の工場を持つ、従業員3万5842人の企業になった。総売上高4660億円のうち海外分が80%近くを占める。
しかし、同社関係者や業界アナリストによると、急激な成長は犠牲も強いた。在庫を減らすためにジャストインタイム納入に切り替えた遠隔地の顧客へのサービスのために、タカタはマレーシアからモロッコ、ウルグアイに至る世界各地に工場を置いた。同社はこの遠隔地事業の経営に苦闘し、一方で、日本、欧州、北米の各部門間のコミュニケーションもうまくいっていなかったという。
大量のエアバッグリコールにつながる問題はこの急激な成長期にまでさかのぼる。ホンダによると、トラブルの最初の兆しは、07年に起きた4件のエアバッグ破裂事故だった。ホンダは翌年、北米で約4000台をリコールした。
ホンダとタカタは2年間の調査のあと、タカタの米ワシントン州モーゼスレイク工場の1台の機械がガスを十分に圧縮できないことを発見した。ホンダや、タカタが13年に米当局に出した書簡によると、これによってインフレーターは湿気に弱くなり、想定以上にエアバッグを膨らませる恐れがあったという。
問題はそれにとどまらなかった。同工場では、インフレーターの中にプロペラントが適正量入っているかどうかを自動的にチェックするメカニズムのスイッチが従業員によって切られていたのだ。また、メキシコのモンクロバ工場では、部品を乾燥させておくための除湿器のスイッチが入っていなかった。記録がいい加減だったことから、どの車に不良品のエアバッグが搭載されているのか分からないこともあった。こうした問題が発見されるたびにリコールが増えていった。
10年にはリコールは日産自動車に広がり、次いでトヨタ、マツダにまで拡大した。今年になると、独BMWや米フォード・モーター、ゼネラル・モーターズ(GM)、クライスラーもリコールを強いられることになった。
NHTSAは5月、これまでのリコールでカバーされていなかった一連のインフレーターの破裂についてタカタ関係者と話し合った。この結果、6月にはまた新たなリコールが行われ、公式のリコールがなくても、高湿度地域では一部のエアバッグを交換するという異例の取り決めが結ばれた。