【FRBウオッチ】史上初、基軸通貨「ゼロ金利バブル」の脅威
12月5日(ブルームバーグ):日本が景気後退(リセッション)に陥って欧州経済も失速しかけているが、米国経済はこうした逆風を克服して景気拡大が本格化する――。米国のエコノミストの多くはこのようなシナリオを描いているが、グローバル危機は基軸通貨国による異例の金融緩和がもたらした国際的な資産バブルに対する反作用であるという事実を見逃している。グローバルバブル崩壊の予兆はまず非基軸通貨国から始まるものだ。
2007年から明確な崩壊過程に入った前回のグローバルバブルも、米国発だった。この時のバブル崩壊に伴う最初の金融パニックは同年8月9日、フランスのBNPパリバによるファンドの償還停止が引き金になっている。パリバは米国で組成されたサブプライムローンを含む不動産担保証券の値が付かなくなり、償還に応じられなくなってしまったのだ。
その一方、基軸通貨国はシニョリッジ(通貨の発行益)を最大限に享受できるため、自ら膨張させたグローバルバブルが周辺部から崩壊過程に入る中で、最後まで強い抵抗力を発揮する。しかしその結果、基軸通貨国でバブルが最大規模に膨れ上がり、最終的にその崩壊で最も大きな打撃を被ることになる。
しかも今回は米連邦準備制度によるゼロ金利政策が既に6年も継続されており、基軸通貨バブルはなお野放しの状態にある。アラン・グリーンスパン13代FRB議長、ベン・バーナンキ14代議長と2代続けて、「バブルは形成過程では認識できないため、破裂後に治療する」という政策を掲げていた。今年2月に就任したジャネット・イエレン15代FRB議長もバブルへの対処方針について、「借り入れコストの引き上げよりも、金融機関に対する監督措置の方が望ましい」と述べ、金融政策によるバブルつぶしの考えがないことを明らかにしている。
過去2回のバブルは利上げで破壊しかし過去2度のバブルの場合、実際には経済データに基づく政策金利の引き上げにより、意図せざるバブル破裂が引き起こされた。グリーンスパン議長が関与したIT株式バブルは、S&P500種で見て2000年3月24日にピークアウトしているが、連邦公開市場委員会(FOMC)は同年5月の最終利上げでフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を6.5%に引き上げ、この状態を翌年1月まで継続してバブルの息の根を止めた。
次いで住宅・金融バブル膨張と目まぐるしい展開になった。この時はグリーンスパン議長が04年6月に始めた利上げ過程をバーナンキ議長が06年2月に引き継ぎ、同年6月に5.25%まで引き上げた。同議長はこの水準を07年9月まで維持して、バブル崩壊を引き起こしている。
この1年余りに及ぶ高金利維持が最もきつかったと振り返る投資家は多い。今世紀に入って2度のバブル破裂は、このように利上げと、それに続く高金利維持政策が引き金を引いた格好だ。もっとも、2つのバブルとも金融当局の手による意図せざる破裂に見舞われたが、利上げにより一定の水準でバブルの膨張が止まった側面も見逃せない。
イエレン議長が引き継いだ負の遺産今回のグローバルな金融大緩和の原点は、08年12月16日のFOMCで決まった事実上のゼロ金利政策だ。史上最強の基軸通貨、ドルの政策金利はこれを境にほぼ消滅。その3カ月後には量的緩和第1弾(QE1)が導入された。この一連の緩和措置を主導したバーナンキ議長はQE3まで実行。今年2月にイエレン議長にバトンタッチしたが、この時点で基軸通貨「ゼロ金利バブル」は世界の隅々まで拡散していた。
どうやらイエレン氏は議長職とともに、史上最悪のバブルの後始末も引き受けたようだ。同議長は7月16日の議会証言で資産バブルについて、「一部の資産価値はどちらかと言えば高めとなっている可能性があり、局所的にバリュエーションの伸長があるかもしれないものの、全般的に株価収益率(PER)や他の指標は過去の標準値から外れていない」と述べている。
7月28日付の当コラムで詳述した通り、金融当局者が局所的なバブルを指摘しながら全般は問題ないと平静を装う時には、過去の例で見てバブルは既に崩壊過程に入っている。イエレン議長は実態以上に過大評価されている株式について、具体的に「ソーシャルネットワーク株やバイオ関連、小型株」を挙げていた。
小型株の指標となる米ラッセル2000指数 は終値ベースではイエレン議長が就任した翌月の3月4日にピークアウトしていた。S&P500種を構成する業種の中で最も大きく上昇したインターネット小売り銘柄は3月5日に最高値を示現している。
07年10月のピークアウトと相似形イエレン議長が「局所的なバブル」に警告を発してから5カ月経過したが、こうした先行株はさらに下落トレンドを鮮明にし、バブル崩壊の予兆はいよいよ代表的な株価指数にまで広がってきた。
同議長が問題はないと言い切っていた「全般の」株式市場を見ると、先行株に数カ月遅れる形でピークアウトをうかがう構図が浮かび上がってくる。米株価指数であるS&P500種で見ると、イエレン議長が「問題ない」と語った7月16日から2度の下落局面を経てきた。具体的には8月7日まで10営業日で約4%安、10月15日までの18営業日で7.4%安を記録している。
そして10月15日の安値からの上昇局面は12月3日までに11.4%高を記録、過去3年間の上昇局面では最も急しゅんになっている。この上昇率は2002年11月から07年10月9日まで5年間に及ぶ前回の株式バブルの最後の吹き上げ場面と奇しくも同率である。
実体経済から遊離した株価09年3月9日を基点とする今回の株価上昇波動は5年9カ月と、前回より既に9カ月長くなっている。直近の上昇局面が始まった10月15日を、07年10月9日にピークアウトした最後の山の基点である07年8月15日に重ねてチャートを作成すると波動がかなり相似していることが見て取れる。
さらにタイムスパンを広げると、米国が主導した金融バブル は20年にわたり3回繰り返されていることが明確になるが、今回はその中でも最も急激に膨張している。
その一方で、米国の実体経済は年を追って成長力が弱まってきた。インフレを控除した実質国内総生産(GDP)の前年比でみると、明確な下降トレンドを描いている。
時代錯誤の金融政策こうして人間に例えれば基礎代謝量が減退してきた中で、金融政策当局は経済がまだ若者であるかのように、マネーをジャブジャブに供給すれば経済成長が加速するなどという過去の学説に基づく金融政策をとってきた。この学説は80年以上も前の大恐慌を研究したベン・バーナンキ教授が編み出したものだ。その後、FRB議長に就任し自ら実行することになろうとは夢にも思わなかっただろう。
しかし、経済という生き物は刻々と変化する。80年以上も前の米国経済にはまだ青年の若さがあり、金融政策の助けを借りることなく大恐慌を克服し、第2次世界大戦を経て基軸通貨国に上り詰めている。
基軸通貨ドルは当初、金との交換性を維持していたが、対外収支の悪化に伴い維持できなくなり、1971年8月15日に金との兌換(だかん)を停止。その後、金の制約を外したフィアットマネー(法定不換紙幣)として、グローバル経済の拡大に寄与してきた。フィアット(fiat)には「勝手な布告」という意味もある。米国の対外収支赤字の無節操な拡大とともにドルの垂れ流しが始まり、世紀末から今世紀に入って巨大バブルの膨張と崩壊を繰り返すに至った。
成長の限界点でバブル膨張このバブル膨張が米国の実体経済の老齢化と符節を合わせているところは興味深い。ドルのフィアットマネー化は節操のない財政と金融政策につながり、経済成長力の減退とともに、行き場を失った資金が投機に注ぎ込まれ、バブルの源泉になった。
先進国ではどこも成長の限界が見えてきており、中でも日本が最も先行している。その日本の中央銀行である日本銀行はバーナンキ議長のQEをさらに拡大したQQE(量的・質的緩和)を実行。10月末には債券購入量を一段と膨らませているのだから、その副作用は想像を絶する。次回は米国のQEと対比させながらQE/QQE複合バブルの限界点を探る。
(【FRBウオッチ】は記者個人の見解です)
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更新日時: 2014/12/05 07:48 JST