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今だけの空を見上げて

2014-12-05

異能バトルは日常系のなかで 鳩子氏について

 だいたいTwitterで書いた通りの話で、付け足すこともあんまりないんだけど、あんまりにもあんまりな読みが視界に入ったので。

 啓蒙行為への情熱とか別に持ってないけど、ああいう読みとは距離を取りたいということの表明くらいはしておく。これを読んだ誰がどう思うかは知らん。そういう意味では、正しく自慰行為と思ってもらって差し支えない。

 寿くんの言ってることはひとつもわかんないよ!

 寿くんが良いって言ってるもの、何が良いのかわかんないよ!

 わかんない! 私にはわかんないの!

 (中略)

 内容もちゃんと教えてくんなきゃ意味がわかんないよ!

 教えるならちゃんと教えてよ!

 神話に出てくる武器の説明されても楽しくないよ!

 グングニルもロンギヌスもエクスカリバーもデュランダルも、天叢雲剣も意味不明だよ!

 何が格好いいのか全っ然わかんない!

 他の用語も謎なんだよ!

 原罪とか循環とか創世記とか黙示録とかアルマゲドンとか、『名前がいいだろ』ってどういうこと?

 『雰囲気で感じろ』とか言われても無理だよ!

 相対性理論とかシュレディンガーの猫とか万有引力とか、ちょっとネットで調べただけで知ったかぶらないでよ!

 中途半端に説明されてもちっともわからないんだよ!

 ニーチェとかゲーテの言葉を引用しないでよ!

 知らない人の言葉使われても、何が言いたいのか全然わかんないんだよぉ!

 自分の言葉で語ってよ!

 お願いだから私のわかること話してよ!

 中二ってなんなの? 中二ってどういうことなの?

 わかんないわかんないわかんないわかんない、わかんない!

 寿くんの言うことは、昔からなにひとつ、これっぽっちも、わかんないんだよぉ!

 アニメーヒョンから聴き取りで写したので、間違いや原作との表記の齟齬があったりするのはご容赦頂きたい。指摘と批判は受け付けます。

 

 で。

 前提として、鳩子氏は中二病一般を批難したりはしていない。メタな読みとして拡大解釈することの是非を問う前に、そもそも彼女が問題としているのは中二病の価値のあるなしや恥ずかしいか否かといった事柄ではない、ということは確認しておきたい。

 彼女が主張したいのは極めてシンプルな事柄だ。「主人公と楽しい時間を過ごしたい」。理解したい、と言ってしまっても構わない(当然ながら楽しい時間を過ごすことと相互理解が成立することとは無関係にそれぞれ成立する―――が、それが語られるのは7話終盤であり、この長台詞の時点の鳩子氏の認識としては、それらは直結するものである。そこからの論理の転回こそがひとつの山場なのだから、その正しくなさはまず肯定されるべきだろう)。

 彼女の欲求は主人公の発話を理解したいという一点に尽きる。だから、彼女の台詞は「楽しくない」「意味不明だ」「わかんない」であって、「格好悪い」「おかしい」ではない。特筆すべきは、中二病をやめろという旨の台詞がないことだ。

 ここで問題とされているのは鳩子氏が主人公の語る中二病的ワード/ストーリーの格好よさを理解できないことであって、中二病そのものが良いか悪いかなどは端的にどうでもいい話でしかない。そもそも、鳩子氏の言う「中二病」とは、主人公が語るなんだかよくわからないものに貼られたラベルでしかない。これまでの話で何度も、主人公の―――殊に、「中二病かよ!」というツッコミを期待した―――振る舞いを、そうと気付くことすら出来ず、天然で潰してしまったのは誰だったのか思い出そう。彼の振る舞いを馬鹿にしていいものだと判じられる程度の理解すらできなかった、千冬ちゃんにすら完璧に出来ていることが覚束ない、その事実こそが彼女を苛み続けてきただろうということを認識しておく必要がある。

 たとえば仮に、彼女だけがおかしくて、作中の中二病的な振る舞いを皆がやっていてそれを鳩子氏だけが理解できない世界だったとしても、話は全く変わらない。何なら、鳩子氏だけが中二病で、主人公の語る普通の話の面白さが全くわからないとしても同じだ。彼女にとっての懸案はひとえに幼馴染の発話が理解できないことであり、彼と彼女のどちらが一般的な尺度から異常だと判じられるか、彼と彼女のどちらが多数派に属するか、などは全く問題ではない。これは二者の間で閉じたプロトコルの話であり、僕が以前、中二恋を引き合いに出したのもそのためだ(中二病、というか邪気眼の話をする上での基本中の基本であり、被ったとわざわざ指摘するような話でもないのだが、まあ)。

 このように考えた時、立て板に水の、流暢すぎて悪意的を通り越してギャグに聴こえすらする、中二病の類型に対する批判などは非常に示唆的だ。そうやって一息に喋り続けてしまえる程に、彼女は彼が語った「わからない」ものごとを記憶し、理解しようと努力していた、ということが理解される。意味のわからない、楽しくない、でも好きな相手の語ってくれた話を、彼の語り口まで含めて覚えている、なんてことができるだろうか。中二病さえなければいいのにとか、中二病をやめてくれないかとか、そんなことは一言も漏らさずに、ただ一人で理解を試みる、などという行いが、常人にできるものだろうか。

 僕は七話〜八話での話運びを肯定はしないし、それどころかここで明確にハンドリングを誤ったと考えている(僕の脳内のさいつよな異能日常を実現する理路はもう存在しない!)。だが、ここで垣間見えた彼女の一途さはとても好ましく、尊いものに思えた。仮に今作の物語を忘れても、僕は鳩子氏というキャラクターのあの叫びを忘れないだろう。幼馴染の少女が発火した、あの瞬間の光だけは。

 

 このような見地に立った時、あの長台詞をメタな中二病への批判であると、大多数に向けて開かれた言葉であると、そう判断することは肯定しがたい。あれは櫛川鳩子が安藤寿来ただ一人に向けて放った言葉であって、僕や君や彼ら大勢に向けた言葉ではない。そのような観方は、彼女の気高さを嘲笑うものだろう。

 馬鹿にされているのは僕でも君でも中二病の人々でもなくて、彼女だ。そのことが、僕は許せない。

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