IBMのスパコン「Watson」が“作った”料理、その味は?
ITmedia エンタープライズ 12月5日(金)9時31分配信
「今日の夕飯、何を作ろうか……?」と悩む自炊派や、「夕食なんでもいいよ」と言って奥さんに怒られている“お父さん”に朗報だ。コンピュータが料理のレシピを教えてくれる時代は、すぐそこに来ているかもしれない。
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人間の話し言葉を分析し、データを蓄積することで自ら“学習”するスーパーコンピュータシステム「Watson」。この開発を手がけるIBMは、Watsonを活用した料理のサポートアプリケーション「Chef Watson」を開発。この英知を料理に活用する動きを進めているのだ。
Chef Watsonは膨大な料理のレシピデータを基に、ユーザーが提示する材料やイベント(ランチ、冬、クリスマスなど)といった条件に合ったレシピを提示してくれる。どの食材の組み合わせが良いかを分析し、未知の組み合わせと味わいを提案するという。
このChef Watsonと一流シェフがタッグを組んだらどんな料理ができあがるのか――。そんな“おいしい”実験が、東京・西麻布にあるフランス料理店「レフェルヴェソンス」で開催された。
●Watsonが“作った”料理とは?
今回、Chef Watsonと料理を作ったのは、レフェルヴェソンス エグゼクティブ・シェフの生江史伸氏。出てきたメニューは食前のカクテルからデザートまでの5品だ。いずれも、日本の素材と季節感を重視したメニューという。
もちろん記者は5品とも食べたのだが、はっきり言ってしまえば、どれもおいしすぎた。Watsonが提示する100以上のレシピの中から、生江氏が料理を選び、日本人向けに食材や調理温度などをアレンジしたものだという。Chef Watsonはアメリカのフードマガジンのデータに基づいているため、「一部、日本にない材料などもあった」(生江氏)という。
Watsonが提示したレシピとはいえ、一流シェフが監修したんだからおいしいのは当たり前……そう思う人もいるかもしれない。しかし、Watsonとコラボレーションしたことで、生江氏にも思わぬ気付きがあったという。
●「違うシェフの下で働いた感じ」
Watsonが提案したメニューは、生江氏にとって“意外性があった”そうだ。「肉料理ではホースラディッシュのソースをWatsonから指示されましたが、この店に来てからほとんどホースラディッシュという食材は使ったことがなくて。他にもカブにインゲン豆やレタスを合わせるとか、自分では考えつかない組み合わせが出てきて楽しかったです」(生江氏)
生江氏はイベントの依頼を持ちかけられた当初、「人工知能と人間の感情が重なり合うのか」という点に疑問を持っていたそうだ。しかし日常生活にテクノロジーが溶け込んでいる現状を考えると、違った考えに至ったという。
「コンピュータ対人間、というような対立的な発想ではなく、両者が一致団結してよりよい社会が実現できるのではないかと考えるようになりました。料理というのは経験則でしかレシピや調理を思いつかない部分があります。今回Watsonを使ってみて、違うシェフの下で働いたような感覚で新鮮でした」(生江氏)
●コンピュータがクリエイティブな思考を支援
Watsonが目指しているのは、経験的な知識に基づく“コグニティブ”(認知的)なコンピューティングシステムだ。今回の取り組みについて、日本IBMでWatsonの戦略を担う元木剛氏は、Watsonで人間の複雑な思考を再現することを目指し、人間の認知能力を拡大していく試みだと話す。
元木氏によると、コグニティブ・コンピューティングによる認知能力は4段階に分けられるという。百科辞典的な知識を活用する“アシスト”、モデルを作って推論する“理解”、証拠に基づいて専門的な判断をする“意志決定”、新しい知見を発見し、価値を生み出す“発見”だ。Chef Watsonによるレシピ検索は、新たな食材の組み合わせを提案する点で「発見」というレベルの行為だ。
「Chef Watsonは既存のレシピから得た無限の組み合わせによって、新たな味を導き出せます。コンピュータによって、料理という創造的な活動を支援することが目的です。人間が必要なくなると考える人もいますが、コンピュータは万能ではありません。人間の行動を支援するエージェントとして、今後はあらゆるものに組み込まれ、人間との対話を通して活躍するでしょう」(元木氏)
最終更新:12月5日(金)9時31分
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