のぞき趣味?ダークツーリズム問う 立命大で研究会
戦争遺跡や災害の地を訪ねる「ダークツーリズム」が注目されている。負の記憶を学び、継承する新しい観光の形とされる半面、他人の不幸を消費するかのような後ろめたさもつきまとう。立命館大(京都市北区)でこのほど、観光学や社会学の研究者らが「ダークツーリズムという問い」と題した研究会を開き、その功罪や定義をめぐって議論した。
ダークツーリズムは1990年代に欧州で提唱され、アウシュビッツやチェルノブイリを訪ねる旅などが例に挙がる。日本でも、批評家の東浩紀さんらが福島第1原発と周辺の「観光地化」を提唱する中で知られるようになった。
研究会で、宮城学院女子大准教授の市野澤潤平さんは、がれきの前で写真を撮る行為を例に挙げ、それが学習の一環か、単なる記念撮影かは「個々人の体験の中身による」と指摘。何がダークツーリズムなのかという定義が曖昧な中、他人の苦しみを「のぞき見に行く」という行為自体のダークさに本質があると持論を述べた。
また、「学習やボランティア目的のツアーより、普通の観光の方が復興への経済効果が高い」というジレンマにも触れ、インド洋津波で被災したタイのリゾート地、プーケットは被災の記憶を消し去る選択をしたと解説した。
東京大死生学・応用倫理センターの岡本亮輔さんは、「死をめぐる旅」をキーワードにカトリックの聖地巡礼を分析した。聖人たちの遺物が観光客にとって単なる「展示物」になる中、徒歩巡礼が脚光を浴びている点に注目。スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラの巡礼路には旅の途中で亡くなった人のモニュメントが無数にあり、「巡礼は自らに訪れうる死を疑似的に経験する体験型ダークツーリズムだ。宗教が死を説いても誰も聞いてくれない時代を象徴している」と述べた。
日本の戦跡の変遷に関心をもつ関西大教授の山口誠さんは、鹿児島の知覧特攻平和会館や福岡の大刀洗平和記念館が近年人気を集める一方、長崎の原爆資料館や沖縄のひめゆり平和祈念資料館は入場者数を減らしていることに言及。「戦跡(の評価、忘却、再発見)は社会的に構築される。『ダーク』の概念にも恣意(しい)性、政治性が含まれることに注意すべき」と指摘した。
立命館大准教授のデ・アントーニ・アンドレアさんは「90年代以降、観光学が大きくなる中で、複雑な現象を単純化するために作られたターム(専門用語)がダークツーリズム」と述べ、安易に研究分析に使われることを懸念した。
研究会は立命館大人文科学研究所の主催で、約40人が参加。報告者を含め10人の学者が意見を交わした。
【 2014年12月05日 17時38分 】