真剣勝負と笑顔あふれる“泥の祭典”女性も子供も快走! 5年目を迎えた「野辺山シクロクロス」の魅力とプライド
今年で5年目を迎えた「野辺山シクロクロス」。第1回には400人だった参加者が、今大会では1162人(2日間延べ人数)にまで増え、来場者は延べ2500人を数える国内屈指のシクロクロス大会へと成長した。エリートカテゴリーでワールドクラスの熱戦が展開される一方、家族連れやカップルでの参加が多いアットホームな雰囲気もこの大会の特徴だ。11月29、30日に野辺山高原の滝沢牧場(長野県南牧村)で展開された“泥の祭典”を、もう一度写真と共に振り返ります。
(文・写真 平澤尚威)
親子で4年連続参加 「2人で走りきりました」
国内で数少ないUCI(国際自転車競技連合)公認レースとしてその地位を確立した野辺山シクロクロス。しかし、シクロクロス競技を普及させることもまた、大会を開催する大きな目的だ。
主催者であるラファ・ジャパンの矢野大介代表は「野辺山そのものが魅力的なので、奥さんや子供を連れて家族で来られる」とアピールする。確かに、子供が遊べるアスレチックやトランポリンなどの遊具が用意され、食べ物もおいしい。もちろん、レースに参加すれば、もっと楽しめる。
今年は参加者のうち女性が100人近く、また小学生や幼児も合わせて100人近くにのぼった。矢野さんは「女性と子供が多いのが、一番誇らしいことです」と、5年目の成果に胸を張った。身近で敷居の低い大会であることは、参加者や観戦者にとって魅力であるとともに、主催者にとってはプライドなのである。
親子2人で滋賀から参加した池辺哲夫さんと寛介くんは、4年連続の野辺山シクロクロス参加で、初日はシングルスピードのカテゴリーに出場。降り続いていた雨はこのレースの最中に止んだが、コースはドロドロ。哲夫さんは「コースはずっと泥、という感じ。2人で一緒に走りきりました」と、親子での参加を楽しんだ。寛介くんは「去年の泥区間の方が走りづらかった」と頼もしいコメントだ。2日間とも参加した2人が泊まったのは、会場の滝沢牧場が提供している、馬小屋2回の宿泊施設。シクロクロス会場で走って、泊まって、また走るという2日間を楽しんだ。
「野辺山が一番いい」
初日は雨に見舞われ会場は泥だらけだったが、第2日は青空が広がり、気温も上がった。会場から見える八ヶ岳連峰の山々や雲ひとつない青空は、ゆっくりと見とれてしまうほど美しい。そして澄んだ空気や、早朝のキーンとした寒さも清々しい。
この日、東京から参戦した横関正司さんは応援の荒木理恵子さん、愛犬のルークくんと一緒にレースを観戦していた。横関さんは初日に3カテゴリーへ出場したが、過酷なマッドコンディションだったため、レース後はしばらくウェアを着替えることもできないほど消耗してしまい、2日目の出場はキャンセル。「昨日の泥で心を折られました」と笑った。第2回に出場して以降すっかりハマり、荒木さんも毎年応援で一緒に訪れているのだとか。「他のシクロクロス大会にも参加していますけど、野辺山が一番いいです」とお気に入りだ。
L2カテゴリーへ出場した野垣直果さん、小野芳恵さんは3度目の野辺山シクロクロス。「これまでで、昨日(初日)が一番きつかったです」と野垣さん。小野さんは「今年は立体交差をうまくクリアできました」とうれしそうに語った。2人は、応援していた仲間たちに「重いから持ってみて」と、びっしり泥のこびりついたバイクを手渡して驚かせながら、レース後の充実感を味わっていた。
どのレースにもあふれるワクワク感
選手と観客の一体感は、シクロクロスの大きな魅力だ。観客はカウベルを鳴らし、選手たちへ力いっぱいの声援を送る。参加者たちは苦しそうな表情を浮かべつつ、時に笑顔で声援に応え、力走を続ける。
同じ日のスケジュールのなかで、国内最高峰となるUCI公認レースも、仮装して楽しむシングルスピードのレースも行われる。真剣に勝負に挑む人や、とにかく楽しもうとする人など、モチベーションはそれぞれ。ただ、どんなレースの時も、カウベルの音と歓声、ワクワクするような雰囲気が会場にあふれている。
「野辺山にまた足を運んでもらいたい」
2010年の第1回大会から主催してきたラファ・ジャパンの矢野代表は、2日目の好天に「暖かくてホッとした」と胸をなで下ろした。泥んこになったコースについては、「これはこれでいい。本場のベルギーにもこういうレースがある」と前向きに受け止めた矢野さん。「野辺山シクロクロスを通じて、野辺山の魅力を知ってもらい、また足を運んでもらいたい」と、地域に貢献したいという強い思いを語った。
反対に、地元から大会への協力も頼もしい。会場である滝沢牧場の支援に加え、近隣の商工会などから70人ほどのボランティアが集まった。ホテルなど宿泊施設の従業員も、参加者を受け入れる週末は忙しいものの、平日は手伝いに参加してくれた。そして当日の大会運営は、UCIの公式審判から高い評価を受けたという。
“常連”海外選手に学ぶ日本のシクロクロスシーン
今年は招待選手として、U23イタリアチャンピオンのジョエーレ・ベルトリーニとアリスマリア・アルツッフィ(ともにセライタリア・グエルチョッティ)が出場し、2日間ともアベック優勝を遂げる大活躍をみせた。しかし、他にもティモシー・ジョンソン(アメリカ、キャノンデール・Cyclocrossworld.com)、ザック・マクドナルド(アメリカ、シクロクロス プロジェクト2015)という、国際舞台で走っている選手が自主的に来日し、大会を盛り上げた。
彼らは日本のレースに何度も参加しており、矢野さんはこうした“常連”海外選手が、野辺山シクロクロス、そして国内シクロクロスシーンにとって重要な存在だと捉えている。
「ティム(ジョンソンの愛称)やザックは、走りだけでなく、サービス精神がすごい。『今年も行くよ』と自分からエントリーしてくれた。日本で走りを見せてくれれば、観客としてもうれしいし、応援したくなる選手がいればシクロクロスのファンが増える」
もちろん、ティムやザックが喜んで野辺山へやって来てくれるのは、大会の魅力に加え、オーガナイザーとの信頼関係があるからだ。
2日目のキンダーガーデンクラスで2位になり、ゴール後に悔し涙を流した男の子がいた。きっと彼は1位を目指して来年、再び野辺山のスタートラインに並ぶに違いない。そしてこの2日間、シクロクロスの醍醐味を満喫した大勢の野辺山フリークたちが、来年もこの会場に笑顔で集うことだろう。