今回は、影絵についてのお話です。
みなさんも小さい頃にやったことがあるかもしれませんね。
僕も幼稚園のお芝居か何かで演じたことがあるはずなのですが、あまりよく覚えていません。ただ、楽しかった記憶の残滓みたいなものが残っていたのか、テラスで日光を浴びながら朝食を満喫していたら、なぜか狐の影絵をやりたくなってしまいました。人差し指と小指を立てたまま中指と薬指を親指にくっつけるアレ。
そのときは数分ほど影と戯れていたら気が済んだのですが、どうにも収まらないので、まとめてみることにしました。
木馬座とかかし座
日本で影絵と言えば藤城清治さんが創った、人形などを使った総合的な影絵の「木馬座」さんが有名です(ケロヨンですよー)。ただ、今回の僕の興味は上記のとおり「手影絵」という、手を光にかざして動物などを投射する方なので、そちら寄りの内容になっているかもしれません。ケロヨン可愛いですけど。くるくるかっぽん。
コブクロの「蕾」で話題になった劇団「かかし座」さんは「手影絵」の集団です。「蕾」はリリー・フランキーが福田和也さん、坪内祐三さん(残念ながら柳美里さんは外れちゃいました)と一緒に出している扶桑社の『en-taxi』という雑誌に連載していた小説『東京タワー』の映画主題歌として作られた歌でした。僕は若造なので7年前のことをあまり覚えていませんが、両親が運転する車の中でコブクロがよくかかっていたことだけは耳に残っています。
ちなみに先日『en-taxi』の最新号が出たのですが、重松清さんがちばてつやさんに10000字インタビューをするという超絶アツい内容なのでぜひ読んでみてください。
抱腹絶倒しちゃうかも。先述の木馬座を理解するのに役立つ動画。ケロヨンが可愛いです。昔を偲ぶのに良いかもしれません。メロディーが妙に耳に染み付いて病み付きになるのでご注意くださいw くるくるかっぽん。
劇団「かかし座」クリスマスepisode1 ダイジェスト編 - YouTube
「かかし座」の作品ではみにくいアヒルの子(the ugly duckling)が好きなのですが、はてブロの仕組みなのか(公式が配信してるからかもしれません)、なぜか引用できないのでダイジェストとして編集されたクリスマスムービーをどうぞ。手を使った影絵でここまで表現できるものかと驚くこと間違いなし! 気に入った方はYouTubeで他の動画も観てみてくださいね。
最古の影絵の本
さて。世界における現存最古の影絵の本が出たのは1859年のこと。イギリスのヘンリー・バーシルという人がつくった『手影絵(Hand Shadows)』という本でした。中国では紀元前200年頃から神降術の一種として(こちらは人形を使っていたので「手」影絵ではありませんが)影絵が行なわれていたそうなので、本自体はどこかにあったのかもしれませんが、とにかく「現存」という点ではこの本が最古です。当時はすべて銅版画で制作されました。現在はニューヨークのドーバー社という出版社から復刻されています。翌年には続編も出ました。
原文はここに掲載されているのですが、せっかくなので訳してしまうことにします。
……と思ったら、和訳してくれているサイトを見つけたので、引用させて頂きます。
(訳文)
前書き
ウィルキーの絵「壁のうさぎ」を見たことのある人には、私の影絵がどこから着想を得たか説明する必要はないでしょう。でも、この影絵を作り出すのにどんな痛みがともなっていたかは、だれも知ることはないでしょう。なぜなら、その痛みは私の指だけが知っていて、うれしいことに、私の指たちは口をきかないからです。私の「鳥」が羽ばたくまでには何百回もの練習が必要でした。今でも私の左の小指は「おじいさん」の思い出にわくわくします。「男の子」ができるまでには、私の両手の親指は二十回以上も挫折を経験しました。それでも、今では、「あひる」や「ろば」に鳴かせたり、犬の「トビー」にしっぽを振らせたり、「うさぎ」に口をもぐもぐさせたりするのは、私にとってとても簡単なことになりました。
もちろん、これらの影絵は「一回やっただけで」完全にまねのできるものではありません。でも、どの絵も、指をどんな位置に置いたらいいか詳しく描きましたから、難しいものでも数分もあればできるようになるでしょう。空想力のある子どもや、影絵が気に入った親は、ここに描かれている絵だけにとらわれる必要は全くありません。ほんの少しの空想力といくらかの我慢強ささえあれば、新しい影絵を作ることができるはずです。また、作るつもりのなかったものができてびっくりすることも多いでしょう。
影絵の本は今までにもありました。しかし、私の本が今までの本のどれにも似ていないことはすぐ分かってもらえるでしょう。この本の絵のいくつかはもう何年も前に私が描いたものです。美術学校に通っていた時に描いたものもあります。私のアトリエの壁に映し出して、同級生たちに好評だったものもあります。それらの影絵を私自身が考え出したことを、私の昔の同級生たちはよろこんで証言してくれるでしょう。
ヘンリー・バーシル
(原文)
PREFACE
I need not explain how these Shadows were suggested, to any one who has seen WILKIE'S picture, "The Rabbit on the Wall." But by what pains they were invented can never be revealed; for it is known to my tortured digits alone, and they, luckily for me, are dumb. I calculate that I put my ten fingers through hundreds of various exercises before my "Bird" took wing; my left little finger thrills at the memory of "Grandpapa"; and my thumbs gave in no less than twenty times before "Boy" was accomplished. Yet now how easy it is to make the "Duck" to quack, the "Donkey" to bray, "Toby" to wag his tail, and the "Rabbit" to munch his unsubstantial meal.
Of course the Shadows are not to be reproduced perfectly, on "one trial only"; but I believe that in each case I have drawn the due position of the fingers with such care, that the most difficult subject may be accomplished after a few minutes; nor need ingenious youth or parental fondness confine their endeavours to the sketches contained in this book. With a little ingenuity and some patience, new shadows may be produced; and not unfrequently figures appear that one never dreamed of attempting.
Other Books of Shadows have been published; but it will be seen at a glance that mine bears affinity to none. Some of my sketches were made years ago, others when a student at the Academy. Indeed, the Shadows have often been displayed on the walls of my studio, much to the amusement of fellow-students, who would, I am sure, at any time bear witness to their originality.
HENRY BURSILL
日本における影絵
影絵は日本でも古くから親しまれる遊びでした。主に江戸時代の本や錦絵などの資料で言及されています。国利の『有ケ多気御代ノ蔭絵』には実際に影絵を投射する絵が掲載されていたり、西鶴の『西鶴置土産』には影絵の流行の様子が書かれています。また、広重などの絵師も影絵を描いていたようです。
東京都立図書館のサイト、江戸/東京デジタルミュージアムというページ上にアーカイブと説明があるのでご参考下さい。
「名所絵で有名な初代広重が描いた影絵で、おもちゃ絵の一種です。宴会などの席で人間が手や足、または小道具を使って雁や猫の格好をし、障子に映る影法師を楽しみました。(上記東京都立図書館のサイトより)」
終わりに
いかがでしたか?
僕は調べてみるまで影絵には子供の遊びみたいな印象を持っていましたが(ナメててすみません)、実際のところ全くそんなことはなく、21歳の大学生がたのしむ芸術表現としても十二分に通用する知的な遊びであることがわかりました。
影絵というのは子供に始まって大人になるまで楽しめ、さらにはその大人が子供たちに見せることで循環する伝統的な表現媒体なのかもしれません。
en-taxi 43号 2014年秋 (ODAIBA MOOK)
- 作者: 坪内祐三
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2014/11/26
- メディア: ムック
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