学会で日本に行っている間、全然更新していませんでした。
前回までは経済活動における中間層の重要性、少子高齢化と富裕高齢層などについてお話しました。
今回は、かねて予告していた通り、マクロ経済理論、特にケインズモデルを中心とした金融政策の話をしたいと思います。
まず、ケインズモデルというのは、いわゆる「ニューディール政策」的な財政出動を中心とした経済政策です。
まぁ、この辺はWikipediaでもそれなりに解説されているので、そちらもご参照ください。
ケインズモデルの分析ではIS-LM分析という考え方を用います。
この考え方では、経済政策によって金融緩和つまりマネー流通量の操作と財政出動、投資、消費、輸出入が連動し、実体経済、つまり賃金や物価が調整されると考えます。
このモデルの問題点は、行動経済学や厚生経済学などのミクロ経済的視点でいうところの個人のインセンティブや行動をモデルに組み込んでいない点です。
社会学的に考えれば、経済活動だけで人間社会の複雑な動きを規定できるという経済至上主義に懐疑的なので、そもそも経済だけ見ていても経済は動かせないと思ってしまうのですが、この議論はまた別の機会にしたいと思います。
個人の行動は経済理論とりわけ古典的マクロ経済モデルが想定している以上に複雑で、それこそ「神の見えざる手」と言わざるを得ないような難しさを含んでいるのですが、マネー流通量で実体経済が動かせる、という考え方では、そういった複雑な人間の行動や心理は捉えられていません。
したがって、現在の経済学者の中で、ケインズモデルの有効性を支持しているのはもはや超少数派、化石みたいなものでしょう。
さらに言えば、冷戦期の反共政治と80年代の金融自由化を通じて発展した新自由主義的経済政策がケインズモデルを計画経済として「断罪」してきたことも手伝って、少なくともアメリカではケインズモデルを支持する経済学者は、一部のミクロ経済的な応用を行う応用的ケインズ経済学者を除いてほぼ皆無ではないかと思います。
日本ではしかし、アベノミクスがそうであるように、ケインズモデルは未だに経済政策の中心をなす理論のようです。
金融緩和政策と公共投資を中心とした財政出動を主軸とした経済刺激策はニューディール政策そのものですよね。
三本の矢と、まるで毛利なんとかのようなことを言っている安倍首相ですが、肝心要の第三の矢である構造転換は全く期待できそうもないので、とりあえず金融政策と財政出動に頼り切っているといのが現状ではないでしょうか。
ちなみに、アベノミクスというか日本の経済政策はケインズ+新自由主義(ネオリベ)の二本立てなのですが、ネオリベについてはまた別の機会にお話ししたいと思います。
さて、古典的ケインズモデルの基本であるIS-LM分析は金融市場と実体経済が連動していることを前提としています。
(拙い図ですみません。。。)
この図が示しているのは金利(縦軸)と国民所得(横軸)の活動なのですが、マネー流通量が①から②に動くと、投資・貯蓄なども連動して緑の点が右上に動くのですが、市場は均衡を保とうとするので、それが赤点の場所に動き、最終的には全体的な経済活動量が増える、ということです。
今起こっていることは、マネー流通量は増えたけれど、それが投資に回っていない、企業活動が活発化していない、したがってお給料も増えない、という問題です。
前回まででお話したように、現在の経済の本当の問題は金融市場と実体経済が連動していないことなので、このモデルが機能することはないのです。
先日また日銀の黒田総裁が緩和をさらに続けると言って、株価が大きく値上がりはしたようですが、株価がにわかに上がったところで一般消費者の購買力が増えるわけではありません。
株価上昇による利益は金融機関を含める株主に還元されるのであって、労働者にはほとんど還元されない、つまりお給料は上がらないからです。
このように、もはやまともな経済学者なら誰も使わないような古典理論を持ち出して、マネー流通量を増やし続けても、実体経済に何もポジティブな影響をもたらさないことは火を見るよりも明らかです。
さらには、アメリカのFRBはこれ以上の緩和は行わない方針ですから、円安が更に進めば物価が上がり、消費をさらに減退させることになります。
日本経済はお先真っ暗ですね!
財政出動と金融緩和が駄目だとして,では何故今アメリカは出口政策をとっているのでしょうか?そもそも量的緩和による物価上昇は認めているようですが,何故労働財にだけ適応されないと考えているのですか?
いいねいいね
アメリカは現在、量的緩和の中止、ゼロ金利政策の撤回、財政改善の3つを進めようとする動きがありますが、それはWSJなどが指摘するようにイージーマネー、つまり急に増えたお金のツケが回ってくる危険があるからです。ただ、アメリカの場合、これまでに買い貯めた分の国債の利子で毎年1000億ドルが入るので、今後も「ステルス量的緩和」が続くとみられ、実質的には量的緩和が続くようなものです。
さて、量的緩和の物価上昇はあるのに、賃金に適応されない(というか非常に限定的効果という意味ですが)と私が考えるのは、いくつかあります。
まず量的緩和で市場にお金があふれ、それが金融市場に回っていきます。その利益は金融市場に還元されますが、賃金に反映させるかどうかは、経営層の判断次第です。一時的に量的緩和で株価が上がっても実際の経済はまだ不安定なままですから、そうそう安易に賃金には反映させられません。また、量的緩和によって円安が進むので、輸入コストのために原材料費が上がり、それを物価に反映させているわけです。しかし、実際に消費している層の賃金が上がっていないので、ものを買う人が少ない。だから、一時的に物価が上がっても、これをインフレとして維持し続けられるようには思いません。スタグフレーションにならなければいいですけれど。。。
いいねいいね