先ほど体育館から出てきてからまだ一時間ちょっとしか経っていない。練習が終わる時間ではな
かったが三人は体育館へ向かう。実験の結果に驚き、早くその効果を宮森で試してみたくてしょ
うがないのだ。練習が終わっていなかったら部員ごと実験の対象にしてしまえばいい。そう思って
きたのだが近づくにつれ人の気配がないのが分かる。静か過ぎる。嫌な予感が走り出してとまら
なくなり飛び込むようにして体操部の練習フロアの方へ入る。無人だった。握った手が湿り気を帯
びる。ペンダントやピアスなどのアイテムについてはもちろん、最後に聞いた『組織』とやらのこと
も聞いておく必要があった。このままでは状況を完全に把握していない分、登った梯子を外され
るような事態になりかねない。
教職員の更衣室へ行ってみる。宮森はジャージ姿だったと言う事は帰宅していれば一目瞭然の
場所でもある。宮森のロッカーの中には何もなかった、まるで未使用の空きロッカーのように。着
替えた後なのだから無くなっていると言えば納得できなくもない。が、それなら着ていたジャージ
はどうしたのだろう。もっと決定的な証拠を求めて職員用の下駄箱に行くことにした。さっきのロッ
カーも同じだが、教職員用の下駄箱など生徒がウロウロするような場所ではない。舞と祥子に付
近の見張りをさせる。物色をしながら花梨は自分が求めている物が決定的な証拠よりももっと具
体的な行動の指針となるべききっかけを探していることに気が付き始めた。期待に似た物を込め
て宮森の下駄箱の蓋に手を掛け開ける。上履きがあり、靴がなくなっている。花梨の顔は晴れな
かった。これぞまさに帰宅後を示す明快な証拠と言えるのだが。
間違いないのは職員室ぐらいだが生徒が入って物色できるような場所でもない。どういう口実が
いいか思案に暮れながら職員室に向かっていると先生が一人出てきてそのまま階段を駆け下り
ていった。確か一年のときに祥子の担任だった先生だ。生徒に厳しい教育をする以上、先生の
行動もきちっとしていた。そのため先生が廊下を走り、階段を駆け下りると言うような行動はとる
はずがないし、花梨も過去に見た記憶はない。職員室の引き戸は廊下を横切って階段の真正面
に位置している。飛び出した先生は花梨が同じ階の廊下を近づいて来ていたのに気が付かなか
ったようだった。嫌な予感がする。花梨は職員室のドアをノックし開けると、信じられないことに誰
もいなくなっていた。通常、生徒が学校内にいる時間に職員室が無人になることはない。多分何
か急ぎの用事があってさっきの先生が鍵をかけずに出て行ったのだろう。そう思うことにした。電
気もつけっ放しなのですぐに帰ってくるはずだ。花梨は舞と祥子に先生が帰ってきたときの足止
めにさせて、中に入ると鍵を掛けた。教員室は本館の二階にあるので、そこより高い位置にある
ところからは丸見えである。そのため外から見えないように物陰から物陰に隠れながら宮森の机
に向かってしゃがみながら歩き始める。
ぎくっとするような臭いを嗅ぎつけた。あの臭いだ。愛液。何でこんなところで。花梨は目が回るよ
うな感覚に囚われた。ふと見るとさっき駆け下りていった先生の机の横だった。椅子には半分渇
き始めている愛液が付着していた。先生が職員室で、一人きりだったとはいえ下手すれば外から
見えてしまうような場所でするのか。驚きのあまり声も出ない。受話器が机の上に転がっていた。
受話器が戻っていないことを知らせる警告音がかすかに聞こえる。
(テレフォンSEX?)
まさかそんな。赤面とともに慌てて自分の考えを否定した。さっきから連続して起きる納得の行か
ない現象の数々とこの異常事態が、偶然ではありえないと言うごく常識的な考えによってまとめ
られ筋立てられるのが怖いかのように頭の中で否定し続ける。逃げたくなってどうしようか迷って
いるうちに帰ってきたと思われる先生と舞と祥子の声が聞こえてきた。
「あら、どうしたの?」
「え?…あ、あの…鍵が掛かっているんですけど…」
舞と祥子はさっきの先生とは違う女性がきたのでちょっとびっくりして答える。
「そんなことないでしょ…っち…本当だ…向こうのドアは?」
引き戸に手をかけて強引に開けようとする。舌打ちまでした。舞と祥子は思わず目をあわせてし
まった。
「閉まってました…けど…」
「変ねぇ…で、何用?」
「あ…ええ、あの…ウチの先生の返すものがあって持って来たんですけど…帰っているなら机の
上にでも置いておこうと思って」
舞がしどろもどろに答える。
「あっそ…ちょっと待ってて。鍵借りてくるから」
二人の返事も聞かずにその先生は階段を掛け下りていく。
二人はそんな後姿を見ながら気味の悪さを感じずにはいられなかった。先生が舌打ちやつっけ
んどんな受け答えなど有り得ない。それ以上に二人にとって今の女性は見覚えがない。
《ねぇ…あんな先生いたっけ?》
祥子が小声で舞に聞く。
《見た事ないよね…》
先生として当たり前のように声をかけてきたが、全校集会でも一度も見た事がない顔だった。優
しい笑顔が却って不気味に思える。
《さっさと退散した方がよくない?》
刈り上げたようなショートヘアがやたら決まっていて、教員の普段着ているものとしてはちょっと
素敵過ぎるようなスーツを見事に着こなしている。
《ウン…》
普段なら不気味さより性欲を感じてしまうであろう容姿である。でも言葉では言い表せない何か
がおかしい。直感のようなものを二人は感じていた。祥子は鍵の掛かっている引き戸の隙間に手
をかざすと中にいる花梨に言う。
「花梨、先に行くよ。なんかヤバそうなのが出て来たから」
「花梨の部屋の前で待ってるね」
舞も続けて言う。
(ちょっと何よ、そのヤバそうなのって!って…いったぁ〜)
花梨は外でゴタゴタやっている間に宮森の机まで移動してきていた。引き出しを開けながら外の
様子に耳をそばだてていた花梨は見張りの勝手な行動に動揺し思わず隠れていた机の中で頭
を打ってしまう。慌てて花梨は宮森の引き出しの中から手当たりしだいに横に掛けてあった鞄に
詰める。職員室とは室内でつながっている隣の会議室へ転がるように移動しドアから廊下の様
子を伺うと、ちょうど駆け下りていった先生が鍵を開けたところだった。
三人は寮に続く渡り廊下の前で出会った。舞と祥子はワザワザ遠回りをして来たようだ。花梨が
ちょうど合流しようとしていたところへ一足早く体操部の見覚えのある顔の四人が当たり前のよう
に会釈をしながら通り過ぎようとした。花梨はさりげなく宮森の私物を背中に隠し話し掛ける。
「あれ?今日練習は?」
「宮森先生に急用が出来たとか言って途中で終わったの」
「急用?」
「ウン良くわかんないけどねぇ〜」
と言って他の部員に顔をめぐらす。
「なんか見たことない人が先生に話し掛けてすぐだったよね」
「いきなり着替えて終わりにしろとか言って出て行っちゃった」
「見た事ない人?どんな人?」
舞が割り込む。
「え、え〜っとね、ショートヘアですごく綺麗な人なんだけど、先生じゃないと思うよ」
「さっきの人じゃない?」
舞が祥子に向かって言う。さらに詳しく聞くと服装や顔の特徴まで一緒だった。とにかく部員達は
普段から監督者のいないところでは絶対に練習をするなという指導が行き届いているので、すぐ
に練習をやめて帰ってきたとのことだった。花梨はさっきから頭の中で否定しながらも妙な説得
力を持って勝手に形作られる仮説にまた一つしっかりした支柱が加わる音を聞いた気がした。
寮の部屋に戻った三人は職員室からの戦利品を前に謎解きを始めていた。本当なら職員室の
様子をもう少し詳しく調べたかった。体育館で宮森を逃して以来こっち、後手後手に廻ってしまっ
ている状況を何とかしたかった。しかし宮森の失踪と関わっている謎の人物も校内にいるような
のだ。部活動の時間が終わって、生徒が帰ってき始めている寮内の方が安心できる。
「で、花梨は見たの?例の人」
「んん。私が出るときは階段を降りていった先生…え〜っと一年の時祥子の担任だと思ったけど
…その先生が鍵を開けてたよ」
「え?何であの先生が鍵持ってんのよ…」
祥子が突っ込む。
「だって、開けっ放しで出て行った張本人でしょ?閉まっていると知っている訳ないのに鍵持って
いたって、変じゃない?」
教員も職員も普段は職員室に限らず学校の鍵など持ち歩かない。必要な時は管理室に借りにい
くか、管理室の職員が行なうようになっているはずだった。それなのに後からきて鍵が掛かって
いる事を知らないはずの先生が鍵を持ってきていたというのはどう考えてもおかしい。舞と祥子
が会ったという人物と関係があると思われるがハッキリしたことは何も分からない。気を取り直し
て宮森の私物あさりを再開するも、出てくるものがまた理解しがたい物が出てきて三人の上に暗
雲を垂れ込めさせる。
「財布、定期、鍵…っと」
帰ったはずなら何でこんな物が残っているのか。
「多分これは家の鍵だと思うけど、これが残っているのもおかしいでしょ」
舞は指先をキーホルダーのリングに通しくるくる回しながらいう。
「あと何が残っている?」
花梨が鞄を持っている舞に聞く。
「んーっと…携帯、化粧道具…ハンカチ…に…何だこれ?電卓…?…それと辞書…変なのぉ…」
電卓に見えた物は電卓にしてはやけにキーの数が多い。しかしメールボードや電子手帳にして
はカナのキーがないし、そのためとしてはキーの数が少なすぎる。辞書もやけに古い国語のミニ
辞書で初版は花梨らが生まれる5年も前になっているものだった。古臭いと言う以上に体育関係
の教師が持つ物とは考え難かった。
「ちょっと…これ携帯じゃないよ!」
携帯と思われる物体をいじっていた祥子が出し抜けに言う。確かに外見は携帯に似ているが画
面に普通ならあるはずのバッテリー残量表示やらアンテナなどが立っていない。画面の大きさも
一昔前の小さなサイズ。キーを押しても反応がないし、キーそのものも数字以外に変な記号が印
刷されていて、普通の携帯にはないものだった。通話開始終了するためと思われるキーもない。
「何これ…まさか…ペンダントやピアスの類と同じへんてこなアイテムじゃないよねぇ…」
舞が気持ち悪そうに言う。そう言われると急に他の計算機っぽい奴ややたら古い辞書もそう言う
ふうに見えてくる。
「組織…か…」
花梨が誰に言うとなく呟く。
「何の組織かまでは聞けなかったけど、先生がその組織の一員でペンダントを奪われた事を何ら
かの方法で知った組織が先生を回収に来た…更衣室や下駄箱は帰宅を装えたけど、他の先生
の目がある職員室までは出来なかった…って言うかしようと思ったけど…」
舞と祥子に出会ってしまったという訳だ。それにあの愛液と飛び出していった先生の行動は、こ
の組織に関する仮説と多分無関係ではないだろう。電話を通してあの先生を篭絡し職員室を無
人化させる。その間に宮森の私物を調達しようとしたのか。
「だって目を離したのは一時間ちょっとよ?そんな短い間にそれだけの事をやるって…」
舞も似たような事を考えていただけに否定したくて反論せずにはいられない。舞の反論には答え
ず花梨は黙って宙を見詰める。言っている花梨本人も確証があって言っている訳ではない。思い
の丈を口から出したに過ぎないのだ。
次の日宮森は休みだった。昨日の帰宅途中に事故にあって入院したとのことだった。しかし、宮
森を見舞ったという話は先生から聞かない。同じ職場にいる人間が入院するまでの酷い怪我な
ら見舞いに行ってもよさそうなものだ。生徒の中には入院先を尋ねる者もいたが、相当酷い状態
らしく親族以外の面会が出来ないと言われ教えてもらえなかったのことだった。体操部は宮森が
赴任するまで指導していた先生が代行することになった。
それから三週間。何かアプローチがあった訳ではなく、三人もアイテムや宮森の言った組織とい
う言葉が醸し出す異常で危険な香りが薄まっていく事を否定できなかった。当然ながらその間は
アイテムも封印していたし、催眠による淫乱化誘導も控えていた。しかし、そうなってくると結局な
んだったのかと言う取り越し苦労をさせられたような被害者意識がでてきて、抑えていた好奇心
の方が言いようのない恐怖心に勝ってくる。三週間も放置しておけばたいていの後催眠暗示は
効力を失う。体操部に刷り込んだ意識は薄れ、部室の占有に関することは全てご破算と見てい
い。その他大勢のペットたちも花梨らの影響下から抜け出ているようだった。
唯一の例外は弥生である。彼女は副会長の高坂由希を見るたびに自慰をしてしまい、夜も自慰
をするように刷り込まれていたので三週間のべつ幕無しであった。何のアプローチもないならこち
らから調べるまで。そう決めていた三人は唯一校内で宮森とのつながりを持つと思われる弥生に
再度尋問しようとしていた。しかしいくら後催眠暗示がほとんど毎日発動しているからとはいえ、
果たして弥生を催眠状態に落とすキーワードまで生きているという保証はなかった。ペンダントを
使えば間違いないだろうが、できれば使いたくなかった。なるべく訳の分からない要素は排除し
たい。さらに言えば、こちらにアプローチがないからと言って弥生にもないかとは言い切れなかっ
た。怪しい道具を使って堕とされたと言う事を差し引いても、全寮制の学校のどこかで先生が誰
にも知られずにレズ行為におよび、生徒を調教までしていたのだから。まずは自分達が埋め込
んだキーワードが生きているかと言う事を確認する必要があった。花梨は舞と祥子を弥生の部
屋に行かせた。花梨がいきなり行って万が一にも失敗するのは、やり直しの事を考えるとまずい。
舞と祥子は待ってましたとばかりに引き受けた。三週間お預けを食らっていたのだ。溜まった性
欲の前に失敗するかもと言う心配をする気配は微塵にも感じさせなかった。
(うまく行かなかったらレイプでもするんじゃないかしら?)
駆け出していく二人の後姿を見ながら、別の意味で心配になった。今夜は帰ってこないかもしれ
ない。文句を言う気にもなれない。
翌日の朝、祥子はベッドにいなかった。花梨は少し呆れた。本当に帰ってこないとは。授業開始
時刻間際になっても祥子は戻らない。夜通しやった挙句に体力が尽きてズル休みか。花梨、祥
子、舞の三人はお互いクラスが違うので授業に出て来ているかは判らない。花梨は授業の合間
に彼女らのクラスを見に行くが本当に休みのようだった。授業が終わり放課後になっても、部室
にも寮の部屋にも顔を見せない。昨夜から行方不明。全寮制の学校で。先生に知らせた方がい
いかも知れない。組織が絡んでいる可能性もある。しかし最後に見たときの彼女らの目的も言及
させられる恐れがあり、それも出来なかった。だいたいから組織の話など、知った経緯からしてで
きる訳がなかったし、したところで返ってくる反応は考えるまでもない。
さらに翌日の朝にも祥子は部屋に戻っていなかった。今日見つからなかったら絶対先生に言おう
と心に決め、落ち着かない一日が終わった。帰り支度をしていると、教室の入り口に舞と祥子が
現れた。
「か〜りんっ」
「あ!あんたたちどこ行ってたのよ?!心配した…ん…」
駆け寄り喜びのあまり思わず叫んだ花梨の言葉が凍りつく。二人とも宮森がしていた例のピアス
にそっくりのものをしていた。違うと言えば石の色ぐらいだ。彼女らのは青で、宮森のは赤だっ
た。
「そのピアスどうしたの?」
「あ、これ?言わなかったっけ」
「ほら、前に外出したとき、かわいーから買って来たって言ったじゃん」
(かわいい?小学生の工作並の出来よ、外見だけは)
「知らないよ。でもなんで二人しておんなじ物を買うわけ?」
惚けて花梨は続ける。
「ちょっとしっかりしてヨ、花梨んー」
「やりすぎたんじゃないの?」
爆笑しながら二人がお互いの違う点を説明するのを聞いていて鳥肌が立った。
(この二人にはかなり強い幻覚暗示が埋め込まれている…!)
どう見ても同じ物なのに、彼女らの説明はまったく違うものだったからだ。あまりに見事なので、
自分の方がおかしくなっているのではと思うぐらいだった。
(…さらわれていた…?いよいよ来たのか…)
「早く、部室いこ」
自分の考えに没入していた花梨に向かって祥子が言う。とんでもなく嫌な予感がしたが、何がど
うなっているか見極めたいと言う欲求が強い。気が付かない振りをして鞄を手に教室を出た。
「ちょ、ちょっとどこ行くのよ?部室でしょ?」
花梨の教室がある二階から部室に行くなら階段を下がって一階の仮校舎へ続く渡り廊下に出な
ければいけないのに、二人は花梨の手を握ったまま、何の疑いもなく階段を上がろうとする。
「いいから、いいから」
笑いながら何の説明もせずにぐいぐい引っ張っていく。二人がかりで引っ張られてはどうにもなら
ない。花梨は抵抗するそぶりを見せながらも何か変化の予感がして好奇心が掻き立てられる思
いがした。三階に出ると廊下の突き当たりに向かってどんどん進んでいく。突き当たりにあるの
は近代的な学校には不釣合いに映る畳張りの作法教室がある。今の時間なら茶道部と華道部、
それに舞踊部が使っているはずだ。
作法教室は音楽室や理科室のような特殊教室を二つ合わせたぐらいの広さを持ち、全面畳張り
で四等分できるように床と天井にあるレールに沿って折りたためる可動式のパーテションが備わ
っている。部活動のときは舞踊部が二コマを使い残りの二つを茶道部と華道部が使うと言った具
合だった。パーテションが閉まっているときに奥のパーテションから入り口への通行を可能にする
のと、作法の教授に必要な舞台装置の一部として教室の両側に木の廊下があり入り口へつなが
っている。
そんなところへ行ってどうすると言うのだろう。疑問と好奇心が綯い交ぜになった気持ちのまま、
花梨は黙って引っ張られていった。音楽室にあるような防音の両開きのドアを開けると、花梨の
予想通り和服に身を包んだ女生徒が三十人以上と各部の顧問がいた。まだ活動時間が始まっ
て間もないこともあり生徒全員がちょうど着付けを終わり、着替えに使っている準備室から出てき
てパーテションを用意しようとしたところだった。礼儀作法を基本中の基本に置くこれら部活動の
参加者に遅刻者など考えられない。突然の闖入者に、全員の目が一斉に三人に向けられる。
「なんですか、あなたたちは。部外者は出て行きなさい」
ざわつく声が高まる中、茶道部顧問の相瀬静香が叱り付ける。相瀬に限らず、いずれの顧問も
二十代中頃から後半の年齢で礼儀作法や華道、茶道、舞踊など特殊技能を教えるには若干心
許ないように見える。しかしそこは名門私立の教師陣の一翼を担うだけあり師範とまでは行かな
いが、いずれもその道での有段者である。ついでに言えば容姿も平均以上だ。教職員の採用条
件に容姿端麗と言う不文律の項目でもあるのかと思わせるほど、この学校には美人が多い。顧
問の三人はその中においてはあまり目立つほどではないが、外に出れば平均以上の容姿を持
っている。いたずらに胸を強調するようなだらしない着付けをしているものは皆無で、いずれも慎
ましやかな大和撫子然とした感じで和服がさまになっており、普段着よりよほどセクシーに映る。
「え、あの、え〜っと…」
《ちょっと、どういうことよ。何とかしなさいよね!》
引っ張られて来た花梨は当惑して両側の二人に目を向け小声で文句を言う。
「…あれぇ…なんでこんなとこにいるの…?」
舞と祥子の二人も花梨以上に当惑している。そうしている間にも相瀬の目に険悪で冷たい炎が
燃え上がるような気がした。
「…すいませんでした」
花梨はなんで謝らなきゃいけないのか分からなかった。あとずさって後ろ手にドアの取っ手に手
をかけ、出ていこうとしようとした時、なんの前触れもなく作法教室に備え付けられている四台の
ビデオデッキを備えたテレビ、いわゆるテレビデオの電源が入った。真っ青な画面がいきなり映し
出されたので、花梨らを捕らえていた視線は一斉にそれらのテレビ画面へと向けられた。視線の
圧迫感がなくなったことも手伝い、好奇心のまま一緒になって花梨らの注意もテレビの方へ向い
た。
「っ!?」
いきなり大きなヘッドフォンのようなものを被せられた。後ろに注意を向けていなかったため、閉
まっていると思っていたドアがいつのまにか開いて、入ってきた人物が花梨ら三人に被せたのだ。
反射的に振り向くと、そこにいたのは宮森と弥生、それに例のショートヘアの女性だった。見ない
ようにしようと思ってもどうしても注意が彼女の方へ行ってしまう。前に見た時同様、素敵なスー
ツを着こなし、ブランド物ショルダーバックを携えている。
「ひさしぶりね」
にやりと笑う宮森の笑顔が無気味に思えてならない。面会謝絶扱いにされそうな傷跡はどこにも
なく、実に綺麗な物だった。三人とも花梨らが被せられたものと同じヘッドフォンのようなものを被
っている。ヘッドフォンと言っても耳を覆っているものはなく、普及品のヘッドフォンにありがちな黒
い人工皮革で包まれた緩衝材のリングが耳を囲うように位置して、両側のリング二つをバンドで
固定しているため、最初ヘッドフォンかと思ったのだ。何か音のような振動のようなものが伝わっ
てくるが、気になるほどのものではない。宮森の横にいる弥生の目には生気がなく、あのペンダ
ントの影響下にあると思われるような顔つきになっている。花梨が続けて何かを言おうとすると、
宮森は伸ばした人差し指を口にあてて静かにするように促し、握っていたテレビデオのリモコンを
教室内部に向ける。同時に別の手で後ろのドアの鍵をかけた。安物のデッキにありがちな鈍くや
る気のなさそうな動作音が一斉に四台のテレビデオから響くと、真っ青だった画面が黒くなり、オ
ートトラッキングが開始されたような画面になった。
「宮森先生まで、何かあったのですか?」
宮森の存在に気がついた相瀬が問い掛ける。邪魔されたと言う感情以上のものがその目に宿っ
ている。顧問の女性教師陣も宮森とはほぼ同じ年齢層である。彼女らだって外に出れば必ず男
が振り返るような容姿を誇っているが、この学校に来るとその美貌が薄れてしまう。その一番大
きな原因が宮森である、と多くの女性教師は思っていた。その上、人気があるとなれば潜在的な
嫉妬も集まろうと言うものだ。そう言うものがこう言う時にはどうしても出てしまうものなのだろう。
宮森の存在に気が付いた生徒の中にさざなみのような動揺が広がる。和服姿の自分自身を過
剰に意識して顔を赤らめるものや、隣同士で囁きあったり、さっきまでの凛とした統一感は完全
に失われていた。当の宮森は微笑を浮かべるだけで一向に反応しない。その微笑が人をバカに
したような薄笑いのように感じ、一番近くにいてイライラしていた華道部顧問の松嶋志保がさも迷
惑そうな表情と声の調子を隠しもせずに宮森に言う。
「すいませんが用事がないなら…」
その言葉が終わらないうちに、真っ黒だった画面が虹のようなパターンになり雑音が聞こえ始め
た。雑音は砂嵐画面によくある耳障りな雑音と言う感じではない。音量も充分ではっきり聞こえる
がもっと軟らかく雑音のようでありながら心地よく響くといった感じだろうか。とにかく花梨にはそう
聞こえた。一度その雑音発生に言葉を切りテレビに注意を向けていた松嶋が、また振り向き訳が
分からないと言った表情を交えて続ける。
「…ないなら…で、…出て…あ、…いやぁ…」
宮森を見詰めていた目は宙を彷徨い、自分自身の体に現れた突然の変化に混乱しているようだ。
教室全体の雰囲気がじっとりと湿り気を帯びてきた。明らかに聞こえるような、長くけだるい感じ
の溜息がそこかしこで上がり始める。
「ちょっと…なに…っあぁ…あぁ〜〜…」
宮森は無言で松嶋の前に行くと、耳から首筋そして着物の上から胸の部分へと手を滑らせた。
「たまらなくエッチな気持ちでしょ?ほら…」
着物の上から胸をゆっくり揉み始める。潜在的な敵愾心から感情を爆発させようとしていた松嶋
は、その気持ちが完全に消えていないだけに例えようのない屈辱を味わっていた。(なんでぇっ
…この変態!…気持ちいい…違うッ!)
「ぃやめ…て…ああ!…いやぁ…」
宮森は松嶋の後ろに回ると両手で胸を揉み始め、首筋、うなじ、耳などを舌と唇で愛撫し始め
た。
(気持ち…いい…もっと…欲しいぃ…やめてぇ!違う!欲しいの…違う!!)
そのような状態になっても松嶋は有効な抵抗が出来ない。
「脱いじゃいなさい…」
(な、何を!…嫌だ…気持ちよくなりたい…違うッたら!…い、嫌だっ・・・手が勝手にぃ!…でも
欲しいから…だめぇ!)
「もっとエッチになりたいのね…」
かすかに残る理性が最後の抵抗を試みるが、それも虚しく体は勝手に着物を脱いでいく。帯が
ずり落ち前が開く。
「あら着物着るのに下着を着けたままなんてダメじゃない?」
(やめてぇ!!…早く…違う…触って…舐めてぇ…)
「相瀬先生?ちょっとこっちに来て下さるかしら?」
声を掛けられた相瀬は着物が皺になるのも構わずに座り込み、着物の隙間から手を差し込んで
自らの体をまさぐっていた。宮森は半裸状態になった松嶋の裸体を愛撫しながら、胸も直接刺激
し始めた。
(だめぇ…!…もっと、して…でも、やめて…ほしいぃ…きもちいい…いやぁ…)
「あん!…あああ、あ、あ、あぁ〜」
まだ若干の理性が残るものの、口はもう遠慮なく声を上げ始める。呼ばれた相瀬はずるずるだら
しなく歩いてきた。もう目には理性の欠片も残っていないようだ。
「着物に不釣合いのパンティなど脱がしてしまいなさい」
だらしなく快感に歪んだ顔つきで相瀬は無言で膝まづくと薄いピンク色のパンティに両手をかけ
た。しっとり濡れ中身が丸見えになりそうな状態のパンティ。いやらしい匂いが漂ってきそうだ。
(だ、だめぇ…相瀬…先生…やめてぇ…早く…舐めてぇ…)
松嶋の気持ちは混乱の極みであった。相瀬はパンティを降ろすと、そのまま口を松嶋の快楽三
角地帯に顔を埋めると音をたてて舐め始めた。
「ああああ〜〜〜〜いい〜〜〜ぃ……」
松嶋は快楽に身を委ねた。腰が抜けそうになった松嶋を宮森は支えて座らせてやると、松嶋は
勝手に大股開きになって相瀬の舌を受け入れる。このころには立っていた生徒達もほとんどだら
しなく座り込み、着物を脱ぎはじめ自慰を始めたり近くにいる者同士で抱き合い始めたりしていた。
溜息だけでなく喘ぎ声も混じり始めた。畳と乱れたり脱ぎ捨てられたりした和服が擦れる音と快
楽の声が入り乱れ始める。花梨と宮森ら闖入者以外、正確に数えると顧問も含めて34人の和
服の女体が淫靡な熱に浮かされたように乱れている。松嶋を放置して戻って来た宮森は快楽の
坩堝と化した状態を見るや軽く舌打ちをする。
「たまぁ〜にいるのよねぇ…反応が悪い奴が…」
よく見ると悶えている女性達の端っこの方で座りながらも震え縮こまっている一人の女性の姿が
認められた。舞踊部顧問の桐生愛美だった。宮森は横にいたショートヘアの女性の方を向くと、
「お願いできるかしら…恵美さん?」
恵美と呼ばれたその女性は軽く微笑んで桐生の方へ近づいていく。
顔を真っ赤にして両手がもぞもぞ動いている。必死に頭を振り襲っている快感を否定しているよ
うだ。
「我慢しなくてもいいのよ…気持ちよくなりましょ…さ、脱いで…」
小刻みに震える右手が帯を無理やりずらそうとするが、左手は着物のあわせた部分を握り押さ
えている。顎を引き下唇を噛み締め頭を振り続ける。恵美が後ろから抱えるようにして桐生の両
乳房を着物の上から揉む。
「はぁん!…いやぁ…やめて…やめてください…」
「何で?気持ちいいでしょ?ほら…」
「あ!…ああ…い、いやぁ…お願い…止めてぇ…」
テレビデオから流れている映像と雑音のおかげで、欲情させられ性欲も刺激されているようだが、
他の女性と違って自分を失っていない。何とか込み上げて来る熱い快感を抑えようとしているの
がよく分かる。
「フッ…抵抗は無意味よ…ふふふふふ」
恵美は意味ありげな視線をこちらに向けるとショルダーバックから緑色のキャップがされた細長
い半透明の容器を出した。粘性の強いローションのような物が入っているように見える。上着を
脱ぎブラウスの両袖を上腕まで捲り上げると、ローションの溶液とは別に小さなスプレーボトルを
取り出し両手から肘の辺りまで噴霧して満遍なく馴染ませる。
「…ったく…恵美ったらすぐ手ぇ抜くんだから…」
その様子を見ていた宮森が呟く。
「見てなさい…面白い物が見られるわよ…」
スプレー液を馴染ませた両腕を軽くふって乾かすような仕草をすると、恵美はキャップを外し容器
の中の粘液を自分の左手のひらに空けていく。すぐに溢れ始めるが粘性が強いのか床に滴り落
ちずに手の甲を伝い手首の方へゆっくり流れていく。容器を1/3のほど空けたところで、容器を
床に置くと右手を左手に合わせローションを両手全体に馴染ませて行く。指から指へ糸を引くほ
ど粘性が強かったのに両手で馴染ませ始めるとすぐに滑々になったような手つきになる。恵美は
その手を桐生の額に伸ばしマッサージをするように顔全体にローションを広げていく。右手と左
手が小さな桐生の顔の上を滑るように走る。見る間に桐生の顔はローションで照かりを帯びてく
る。それと同時にさっきまで羞恥と嫌悪の表情に緊張が雁字搦めになっていたような顔つきが弛
緩していくのが分かる。着物のあわせの部分を依然握っている桐生の左手に恵美の右手が重な
る。ちょっと揉むようにしてやると脱力して下に落ちてしまう。
「ね…気持ちいいでしょ?」
「気持ち…いい…気持ち…」
どす黒い赤から浮かされたようなピンク色に桐生の顔が染まっていく。切なげな吐息が小刻みに
漏れ始める。恵美の手があわせの部分から侵入し乳房を揉み上げ始める。
さっきまで必死に堪えていた桐生が発情した雌に変わっていく。その変化をまざまざと見せられ
た花梨はたまらなくなった。
「せんせぇ!しっかりしてぇ!!」
思わず叫んでいた。だがその叫びも虚しく理性が飛びかかっている桐生の表情に変化は出な
い。
「無駄よ…もう聞こえないわ…」
宮森が後ろから囁く。桐生はどんどん自分で着物を脱ぎ出し恵美の愛撫を嬉々として受け入れ
始めた。
目の前で起こっている事態は驚愕に充分値するのだが、花梨にとってはそれよりも自分の体に
起こり始めている変化に戸惑い混乱を大きくしていった。さっきからなんだかすごく欲情している
ような感じなのだ。変化が読み取れるのは微妙な顔の表情のみだが、舞や祥子も同じような影
響が出てきているようだ。こんな光景を目の前で見せられているから当然、と自分では思い込む
ようにしているが違うような気がする。あのビデオの再生とこの事態が関係あるのは間違いない
だろう。そしてその影響が花梨自身にも出ているのか。だが視覚的に影響されて欲情している以
上に体がものすごく敏感になっているようだ。ちょっと体を動かして服が擦れるとそれだけで、ゾ
クっとするような快感が走る。気を抜いていると声を出してしまいそうだ。だが不可解なことに花
梨らは確かに視覚的影響以上に欲情している気はするものの、目の前で繰り広げられているよ
うに忘我の末に淫靡な悦楽に堕落し翻弄されてしまうような気配は見られなかった。
淫楽の宴とかした畳張りの巨大な教室から聞こえるのは、もはや喘ぎ声のみとなっていた。説明
不可能な快楽とそれを否定できずに暴走する欲望が彼女達を狂わせ、全員が畳に寝転び体を
突き抜け続ける快感に悶えていた。クラブの制服代わりになっている生徒の和服はお世辞にも
良い物とは言えないが、こうなると洋服が乱れるより遥かに嫌らしく映る。まだ全裸になっている
ものは少ないが、ほとんどのものは反物が帯で体に止められているだけと言うような半裸状態に
なり、自慰や同性愛の快感に酔いしれ、教室全体を包む喘ぎ声のボリュームも上がっていった。
「何でこうなっているか分かる?」
さも面白くて仕方がないというような声色で後ろから宮森が花梨に囁いた。自分でもはっきり分か
るほどに下着が湿り気を帯びながら、それにすら構っていられないほど欲情していた花梨はいき
なり声を掛けられたので、真っ赤になってしまった。そんな花梨の心境を見透かしたかのように微
笑むと、宮森は振り向いた花梨に黒いマッチ箱のような装置を見せた。飾り気も何もなく真っ黒な
プラスチック製と思しきその装置は一番広い一辺の上の面に四角く切り抜いたようなボタンらしき
ものがあるだけだった。
「それは…」
「いい?見てて」
宮森はそう言うと装置をもった腕だけをちょっと曲げると、後ろで自失状態のまま突っ立っている
弥生に向けた。ボタンを押す。
“キィン”
耳鳴りのような音だ。生気を失っていた目に光が戻っていくのが手に取るように分かる。そして目
の前に広がる説明不能な光景が視界に飛び込んで目を見開く様も。顔は真っ赤になり言葉を失
って手を口にあてたまま凍りついてしまったようだ。ようやく宮森の存在に気がついたように言う。
「せ、先生…これって…どういう…」
宮森は相変わらず華麗な微笑を絶やさず、さっと後ろに回ると肩を抱く。
「すぐに分かるわ…」
「え?…」
宮森は状況が飲み込めずにいる弥生のヘッドセットを素早く外す。
「先生?」
普段では考えられないような乱暴な仕草にちょっとびっくりして宮森のほうを振り返る。しかし目を
合わせる間もなく変化が現れてきた。
「あ、…は…はぁ……」
目がうつろになると半開きになった口からは気だるそうな溜息が漏れる。肩は小刻みに震え、変
化を押さえようとするかの如く足はしっかりと閉じスカートが股に挟まり震えと漏れ始めたあえぎ
声の演出により淫靡に見える形を浮かび上がらせる。宮森は微笑みながら引き寄せるとセーラ
ー服の上着の裾から両手を服の中に突っ込む。弥生はそんな宮森の教師としてあるまじき行為
にまったく抵抗を示さない。もう既に潤んだ目は在らぬ方を向き押し寄せる快感に身を震わせて
いる。
「あん!…ぁ、あ、あ、あ、ああぁぁ〜〜ぁふん……ぅっく…」
その手の動きの慣れたことは尋常ではなく服の上からでもはっきり分かるほどだった。花梨ら三
人はその光景を見てますます濡れた。
「欲しいでしょ?オナニーしている子と抱き合っていらっしゃい」
そう言われた弥生は畳張りの床で悶えている女性たちを見据えると、千鳥足で近づき無作為に
抱き上げると激しいキスと抱擁を始めた。
「ほらほら、オナニーしている子は近くの女の子と抱き合うともっと気持ちよくなれるわよ!」
宮森は両手を打ちながら声高に言う。まるで体操部での指導中のような口調だ。しかし先ほどの
弥生と同じように一人で悶えていた女性たちは貪るように最寄りの女性を抱き寄せ、より深い快
楽の海へ没していった。桐生の相手をしていた恵美が戻ってきた。顔の周りや腕は愛液だか汗
だか分からない物によって照かっている。桐生は女生徒の顔の上に股を広げ舐めさせ、自分自
身もその生徒の蜜壷を貪っている。恵美は宮森と目を合わせると歪んだ微笑をかわし、そのまま
作法教室から出て行く。さっきよりかなり喘ぎ声が大きくそして激しくなっている。何度も絶頂を迎
える叫び声のようなものが聞こえるが止まることがない。絶頂に達して脱力してもすぐに悶え始
めるのだ。作法教室にはいつしか汗と愛液の混じったような香りが充満し始めていた。花梨は自
分の愛液が腿を伝い始めているのが分かった。パンティが吸収しきれないほど濡れているのだ。
しゃがみ込むか、この場を辞して処理したかったがあまりの異常事態と興奮のため体が動かな
かった。
「すごいでしょ」
微笑みは満面の笑みへと変わり、花梨に囁く。
「一体…なんで…こんなことが…」
「出来るのかってこと?」
言葉をやっと紡ぎだしている花梨の後を宮森が受ける。花梨は無言で頷く。
「さっきのヘッドセットはあのビデオから流れている音波の洗脳作用の部分を中和する働きがあ
るの」
「…洗脳…中和…」
わざわざその単語を使ったようにそれら単語に抑揚が付いて聞こえ、花梨は絶句してしまう。
「んふふふふふ…そう、あのペンダントとピアスと似た効果があるのよ」
宮森の話ではビデオから出ているの音波はしっかりとした脳生理学に基づき、女性のみを選択
的に確実に淫乱化させることができるという。そして、画面のパターンはその効果を補助するた
めの作用があるという。あくまで補助なので、音波が中和されている以上画面だけを見てもあま
り効果がないとのことだった。
「でもあなたの下着、濡れちゃっているでしょ…」
花梨は図星を指された以上のショックで顔の赤みをさらに深くした。
「何で先生がそんなものを…」
「先生は表の顔。本当は人材斡旋会社の人間よ」
「人材…?」
人材斡旋と表現した自分の言葉におかしさを感じたのか、軽く微笑むと、
「女性を専門に需要のある市場に斡旋しているのよ」
「それって売春…」
目の前にいるのは人気人望そして美貌でもナンバーワンの宮森。優しく、思いやり深くて、愛の
ある厳しさで生徒を指導することで人気の高い先生。その人が売春斡旋業者。一連の事件で怪
しいとは思っていたが、あまりの展開に舌が口の中で張り付いてしまっているようだ。
「あらやだ、売春だなんて人聞きの悪い。斡旋先で性行為が必ずしもあると言う訳じゃないのよ、
愛玩対象や人体実験の対象になる場合もあるし、私たち自身の財源にする場合もあるわ」
恐ろしい事を平気で口にする。花梨ら三人は固まってしまった。
「さっきのローション…、発情ローションって呼んでいるんだけどね」
わざと切ったような間を空け花梨たちの顔を見ながら続ける。
「あれなんかはウチが経営する会員制エステクラブで使用されている物なの。上流階級の奥様
やお嬢様方はみんなあれで虜になるわ」
エステにローション。付き物のようなものだ。当たり前のように塗りたくられたローションは客であ
る女性たちの心を蝕み欲情させ無批判で暗示を受け入れるようにさせると言う。そして自らの地
位や経済力、人脈など全てを捧げるようになるとの事だった。
「この間のペンダントはもちろん彼女たちのピアスもこのリモコンも、そして今流れている洗脳ビデ
オもみんなうちが開発した秘密兵器と言うところかしら。あなたにこんな事を言うのはね、協力し
てもらいたいからなの」
宮森の言う『あなた』という言葉とそのイントネーション、花梨に向けられた視線に引っかかる。そ
れは花梨だけでなく舞いや祥子にも同じ印象を与えたようで、二人は身の危険を感じたようであ
った。しかし宮森は気づいた様子がなく、種明かしが出来る快感に酔い始めているようだった。宮
森の話では非合法な需要を満たすための人材斡旋の組織があるという。そこでは集められた科
学知識と無尽蔵に近い経済力で、その目的の達成のためのあらゆる機器が開発されていて、今
日使ったのはほんの一部だと言うことだった。それだけ強力な機器を持っていても先生と言う身
分である以上、生徒どうしの横のつながりを監視するには立場的に限界がある。やっていること
は完全に犯罪なのだから、こう言うつながりを甘く見ると思わぬところで足を掬われる可能性が
ある。そこで生徒の立場で宮森の目、耳、手足になって欲しいと言うことだった。それには人心を
操ると言うことに興味があり、それなりの技術を理解していて、しかも実行経験がある人間が必
要だった。宮森は組織からそう言う人材を探してから調達行動を起こすように指示されていた。し
かし潜入先の女子高は筋金入りのお嬢様学校。商品調達としては魅力のある畑だが、そんな人
材などいるはずがないと諦めていたのだ。だが去年の文化祭で花梨を見たとき、その年齢に似
合わぬ技術に舌を巻いた。催眠エンターテイナーとして充分食べていかれるだけの技術を持って
いたのだ。宮森も催眠技術やそれによる洗脳には精通していた。その知識と経験から見ても、こ
と催眠に関しては宮森自身と同等レベルか、それ以上と思わせるものが花梨の技術にはあった。
宮森は餌を蒔き体操部にモーションを掛けさせるように仕向けた。部員のメンタル面が弱いと言
うことにしておけば絶対に掛かって来ると言う確信に近いものが宮森にはあった。予想通り花梨
は宮森のところへ来た。宮森は自分自身でテストの第一段階を行わせ、体操部の部員で第二段
階のテストをさせ、最後のテストとして弥生をけしかけたと言うのだ。ここまでネタばらしをされると
さすがに花梨も落ち着きを取り戻し、もはや先生ではない相手に元来の図太さが出てきた。さり
げなくポケットの中にペンダントがある事を確認し、宮森に視線を走らせながら一瞬だけ後ろにい
る舞と祥子に目配せをする。宮森は演説に酔っており、花梨の方を向いていない。
「最終的にはこちらの期待以上のことをやってくれたわ。今まで結構な数の人間を相手にしてき
たけど完全にしてやられたのは今回がはじめてよ。久しぶりに奪魂の石の餌食になったわ。個人
的には悔しいけど組織の人間はさっきの恵美も含めてあなたには期待しているのよ」
「そんな無茶苦茶な事に手を貸す訳ないでしょ!」
「あら、それなりの見返りはかなり期待できるわよ?高校生のバイトでは逆立ちしても及ばない金
額のね」
「バカにしないでよ、私のは単なる趣味よ!自認してやってんだから、お金のために…そんな恐
ろしいことの手伝いなんて出来るわけないじゃない」
「あれほど見せたのに立場が分かっていないようね…」
これ見よがしに宮森の手が花梨のヘッドセットに伸びようとする。
「させるもんですか!」
言うが早いか舞と祥子が後ろから宮森に襲い掛かり、両手を一本づつ二人で押さえ込む。その
タイミングに合わせ花梨は宮森のヘッドセットをはたき落とした。さらにバランスが崩れた拍子に
祥子が足を払って座り込ませる。
「あいた…やぁ〜ねぇ…乱暴にしないでぇ。髪は女の命でしょ?」
まるで効いていないという感じで、小ばかにしたような視線を花梨に送りワザと逆撫でるような台
詞をはく。花梨ら三人は愕然となった。リングに隠れてて見えなくなっていたのか、中和作用があ
ると説明されたピアスと同じ物が宮森の耳たぶに付いていた。
「気がつかなかった?」
宮森はそう言うとこれ見よがしに頭を振って自分の耳を見せた。間違いない、あの赤い石が入っ
たピアスだ。
「まだまだ若いわね…あなた、私がテレビ画面の映像があるにもかかわらずまったく欲情してい
なかったことに気が付かなかったの?」
「いい気にならないでよ、とりゃいいのよ、そんなモン。祥子!」
花梨は足を伸ばして座り込んだ宮森の両足の上に乗る。舞は宮森を羽交い絞めにして、手の空
いた祥子がピアスを外そうとする。
「動かないでね。先生でなくなったあんたにかける思いやりはないわよ」
宮森はそう言う祥子を一瞥すると無言のままニヤニヤしている。三人にはそれが不気味でならな
かったし、腹立たしい仕草でもあった。祥子は片方を難なく取るともう片方へ行って取ろうとする。
祥子は膝立ちで畳の上をいざり寄って行ったためその音ですぐにわからなかったのだが、方向
的にテレビデオのほうを向いていた舞が最初にそれに気が付いた。今までパターンを映していた
画面が消えてしまった。雑音もなくなった。間もなく巻き戻しを始める音が室内に響きだした。同
時に祥子の手に二つ目のピアスが落ちた。
「お疲れ様。あれね、30分テープなのよね」
勝ち誇った声を隠しもせずに宮森が言う。用意がよすぎる。花梨らがいくら足掻いても百戦錬磨
の宮森には敵わないのか。絶望感が三人の心を支配し始める。しかしまだペンダントがある。二
人を巻き込むようなことになってしまうかもしれないが、どこかで隙を見つけてこの状況を覆さな
ければ。花梨は一生懸命表情に表れないように気を使いながら頭を回転させる。弱くなった縛め
を一瞬の隙を突いて外す宮森。こう言う事には慣れているのか、誰にでもできる身のこなしでは
ない。巻き戻しをしていたテープが止まるが、相変わらず淫乱化された女性たちは快楽に埋没し
ている。
「最後まで曝されたら少なくても3時間は正気に戻らないわよ」
頼みもしない解説に三人が振り返る。スーツの内側に手を伸ばすとペンのような物を取り出す。
「これで相瀬先生たちの正気を戻してみましょうか…んふふふふ」
花梨の方を振り返りもせず5m以上はなれた相瀬先生の方へ歩いていってしまう。花梨はポケッ
トに手を忍ばせ隙を伺っていたが、宮森がこちらを見なかったのと、離れてしまったので用心の
ため行動を起こさなかった。ポケットのペンダントは最後にして唯一の切り札だ。失敗したらシャ
レにならない。相瀬はまだ松嶋と抱き合っていた。出所のわからない水分に全身のほとんどを濡
らし、見開いた目に狂気の光りをたたえお互いの体を貪り合っている。宮森はそんな二人に声を
掛けようとした時、舞と祥子が後ろ手にドアの鍵を開け逃げようとする。
「そこ!動くな!!」
あまりの怒号に舞と祥子は凍りつく。文字通り固まる。彼女らは体を犯している硬直が驚愕によ
るものでない事をすぐに悟る。驚きのまま表情すら動かせていない。
「彼女たちに付いている青い石のピアスはどんな命令でも必ず従うようになる、いわばリモコンの
アンテナみたいなものね」
宮森は持っていたペンのような物を二人に向ける。花梨の角度からはペン先に変化が生じたか
は見えなかったが、二人の顔の周りが赤い照明で照らされたようになった。すぐに消されたが、
見たところ広範囲に調節されたレーザーのような感じだった。
「ペンダントの改良版。効果は微妙に違うけど遠隔制御力と指向性それに即効性に優れている
わ。ペンダントは1m以内にいないと効果が薄いのよ。でもこれなら8mまで大丈夫。照射範囲も
調節できるし・・・ね」
嬉しそうにその光を花梨の方に向ける。顔を逸らし腕で光りに対して影を作るように構える花梨。
こんな指向性の強い光が狙っていたら、片手をポケットに突っ込んで待機していることなどできは
しない。その上、嘘か本当か知らないが有効範囲が1m以内と聞かされてしまった以上、無茶な
行動に出られなくなってしまった。花梨は自分の指に赤い光りが反射していないのを確かめると、
ゆっくりと指の間から様子を伺う。宮森は相瀬と松嶋を立たせていた。ドアの方は舞と祥子がま
だあのままの姿勢で硬直している。悪いことにドアノブを握ったまま硬直しているので、花梨にと
ってドアに鍵が一つ増えたような具合になっていた。相瀬と松嶋の二人は立たされてもお互いの
秘部を触りあい、体を舐めあい愛撫しあう動作が止まらない。そんな二人の顔にあの赤い光りが
一瞬だけ照射され、なにやら宮森が囁いている。
「……ぃいやぁ――――!!」
「……やめてぇ――――!!」
二人は同時に絶叫を上げる。だが求め合う嫌らしい動きは止まらない。
「どうお?いい気持ちでしょ、お二人さん?」
「み、宮森先生?何を…」
「い、いやぁ…とまらないぃ…!」
「もっと気持ちよくなるわよ…」
「いや…あん…だめ…あ、相瀬、先生…やめてぇ…」
「松嶋先生も…ああん!…そんなとこ触っちゃいやぁ…いい…いやぁ……」
くちゅくちゅと嫌らしい音が余計に二人の狂気と性感を刺激している。口では喘ぎ声の合間に、何
とか逃れようとする意思の声が出るものの、体は刺激された分余計に激しい動きになる。
「ほら見て…周りを…」
快楽と羞恥と嫌悪に歪む二人の顔に驚愕の表情が加わった。自分たちの愛弟子が全裸で恥ず
かしい事をしているのだ。声を失う二人。
「すごくエッチでしょ…ほら見ているとオナニーしたくなっちゃうわよ…生徒のエッチな姿をみてオ
ナニーがしたい…もう我慢できない…」
二人の顔が急に赤らむと、お互いの手が解け立ったまま自分たちの体をまさぐり始める。
「いっ、いあぁ…そんなぁ…」
「はぁ…ああ…なんで気持ちいいのよぉ…!」
「ああ…こんなの…初めて…とまらなぁい…」
「いやぁ…もうとめてぇ…」
正気だけ保ちながら体は生徒たちの絡みを見てオナニーをしてしまい止められない。それだけに
留まらず強烈な快感と否定しがたい性欲が彼女たちを襲っている。その事実が教師としての正
気を蝕んでいく。気が狂いそうな呻き声が喘ぎ声の中に混じり始めていた。
「まだまだよ…相瀬先生に松嶋先生、ドアのところを見て」
恥辱にまみれた二つの顔が無理やりドアの方へ向けさせられるような動きで向く。その先にはさ
っき硬直させられたままの舞と祥子がいる。動かない体の中に閉じ込められた舞と祥子は心の
中で必死に体を動かし、ドアノブを回して逃げようとしていたが、悲しいぐらいに体が動かない。
動作が簡単なだけにそのもどかしさは発狂せんばかりのものだった。
「あの二人に大人の快感を教えてあげましょうよ…」
腕を組んだまま恐ろしいほどサディスティックな響きの声で言う宮森。自分の体をまさぐっていた
二人の先生はにわかにその動作を止め、足を引き摺るようにしてドアの方へ向かってしまう。必
死に自分の歩みを止めようとしている様が表情からも伺えるが、まったく無意味な努力だった。そ
れどころか、ドアで固まっている二人に近づけば近づくほどあそこが熱く滾り、もうどうしようもな
いほど性欲が突き上がってきて走り出しむしゃぶりつきそうになるのを必死で止めるのが精一杯
だった。松嶋は祥子を、相瀬はドアノブに手をかけていた舞の体に辿り着く。舞と祥子の顔はさっ
き硬直されたままの表情を保っている。自分ではいくらやっても動かなかった体が、松島と相瀬
が触れると触れたように簡単に動く。
「た、高野さん…ごめんなさい…気持ちよくしてあげるから…違うのよ…イカせてあげる…ああん
…からだが…勝手に…」
相瀬は変に表情を歪めながらも舞のブラウスのボタンを一つ一つ外して行っている。目は据わり
息は荒くなっている。その横で同じく松嶋も口元を引きつらせながら祥子のブラウスを脱がし始め
る。宮森は依然花梨から5m以上はなれ、二人の教師に呟く。
「エッチな気持ち…興奮してきた…小生意気なガキをめちゃめちゃにしてやりたい…」
「ぁぁああ〜〜いやぁ〜〜〜」
「あ…だめぇ…」
とたんに抑えていた衝動のような強い性欲が堰を切り、松嶋と相瀬は舞と祥子のブラウスを引き
破く。
「麻生さん…気持ちよくしてあげる…だめぇ!…からだが…ほら…こうして揉むと気持ちいいでし
ょ…違うの!…なんでぇ…うれしいの…」
松嶋の言葉も表情も混乱の極みであった。嫌悪の表情が出たかと思うと淫様になり、祥子の胸
をブラジャーの上から揉む。そしてその動きを見て汚らわしいものを見たかのように目を背ける
が顔が嬉しそうに歪んでしまう。相瀬は顔を複雑に痙攣させながら舞の下半身に抱きつきパンテ
ィの上から震える指で舞の割れ目の上をなぞっていた。松嶋と同じように二つの相反する感情が
正気と狂気4:6ぐらいの割合で攻め苛んでいる。
「そしてあなたたちも逃げる以外は自由にしてあげる、でも性感帯の感度はいつもの千倍よ…ほ
ら…逃げたくないでしょ…」
宮森はまた赤い光を今度は舞と祥子の強張った顔の上を走らす。とたんに弛緩して崩れたかと
思うと、狂気に冒され始めた先生たちの愛撫に反応して甘い吐息を漏らし始める。舞と祥子のパ
ンティはとたんに湿り気を帯び、だらしなく両足を開き更なる愛撫を求めているかのようだ。
「せんせぇ〜舞の…舞の…ぬがせてぇ…」
「私のも…なめてぇ…先生…はやくぅ…」
(お、お願い…先生と呼ばないでぇ…私…もう…止まらないの…気持ちよくしてあげる…欲しいの
よ…もう…だめぇ…)
苦悶と快楽を求める淫靡にな表情が混ざり合い、涎を垂らしながら相瀬は舞のパンティに手を掛
けずり下げる。パンティの下から舞の陰毛が見えると相瀬は我慢ならないといった表情が強くな
りそのまま口を押し付け啜り始める。片手で舞のお尻を支え、もう片方の手は自分のお●んこを
かき回し始める。既にパンティを下ろした松嶋は祥子の鬱蒼とした茂みに顔を近づけ指でぬるぬ
るになったあたりを弄り始めている。
「せ、…せん…ああ、…言っちゃ…だめぇ……先生が……教えてあげる…」
(先生なのに…生徒の…おいしそうぉ…なめたぁい…先生だから…して上げなきゃ…気持ちよくさ
せてあげなきゃ…)
指で押し開き、襞に指を走らせたりクリトリスを刺激したりしている。そして長く伸びた松嶋の舌が
祥子の『内臓』を舐め上げる。
「はぁう!」
一瞬体を突っ張らせたかと思うと祥子は一気にイッてしまった。
「麻生さん…大丈夫?…もっと舐めさせてね…おいしいわ…駄目だったら!…もっと気持ちよくし
てあげるんだから…違うの!…ああ…おいしいぃ…すごくおいしい…」
松嶋は祥子のお●んこを広げた舌で舐め上げたり細く伸ばして突付いてみたり、混乱しているセ
リフとは裏腹に生徒の女性自身を弄ぶ。祥子もイッたばかりなのにすぐに反応し悶え始める。横
では相瀬がシックス・ナインの体勢になっていた。一度舞をイカせた後、我慢ならなくなって自分
の恥ずかしい部分を生徒の口に押し付けてしまった。舞も逃げる以外の動作が自由になってい
たので、先生と違い葛藤がない分、猛然と相瀬のお●んこを舐め始める。
「あっあっあっあっあっ…高野さん…いい…すごい!…もっとぉ…もっとぉ…」
相瀬はここにいたってもう自分の正気が口から漏れることもなくなっていた。生徒のお●んこを弄
り、嘗め回し、同時にその生徒に自分の恥ずかしい部分を舐められている。そしてすごく気持ち
いい。祥子と相瀬の体勢に影響されたのか、祥子と松嶋も同じ体勢に変わって、愛撫に激しさが
増した。
(駄目…このままじゃ…)
「さぁ、もっともっとよくなるわよ…」
宮森がそう言うだけで四人のボルテージが上がる。
(やめなきゃ…でも…気持ちいいし…)
「先生は生徒を大人の女にしてあげなきゃいけないのよ…イカせて上げなさい…」
(そうだ…イカせなきゃ…)
「イカせればあなたたちも開放されるわよ!」
宮森はまたレーザーポインターのようなもので赤い光を四人に向けた。今度は一瞬ではなく、そ
のまま照らし続ける。とたんに相瀬と松嶋の動きが激しくなったかと思うと、舞と祥子はエビゾリ
になって失神してしまったようだ。
淫靡な攻め苦が繰り広げられている間、花梨は身動きが取れないのと同じことだった。ドア付近
で四人がやっているので、完全に塞がれているのと同じ。何度か目を盗んで宮森に近づこうとす
るものの、常に花梨を視界の端に入れているかのように決して花梨を4m以内に近づけさせなか
った。これだけ距離を置かれているとさすがに一っ飛びとは行かない。それに、いつあの光で照
射されるとも限らない。常に両手はフリーにしておかなければならず、ペンダントを用意すること
もできない。
「さて…どうする花梨ちゃん?そのポケットに入っているペンダントをどうやって使う?」
にやりと笑って宮森が花梨のほうを向きながら呟く。ポケットに入っていることを見抜かれていた。
それだけで花梨はどっと冷や汗が出る思いだった。
(もう、こうなったら…!)
一か八かで飛び込んでやろうと思った矢先、花梨の目の中に決意の光を感じたのか宮森はいき
なり大きな声で松嶋、相瀬を呼び機先を制した。失神した舞と祥子の横で同じくぐったりしていた、
二人はのそっと起き上がって宮森の方を見る。最初に淫乱化されていた時より眼つきははっきり
しているものの、その中身は不浄な光が宿っていた。機を外された花梨もその二人の目つきを見
て肌が粟立った。
「あの子、いけないものを持っているから取りあげて」
宮森が花梨を指差す。最初こそ鈍い動きだったが、二三歩進むとと普段と変わりないような動き
になる。無言無表情で正確に花梨が逃げる先を妨害してくる。捕まえようとはしない。両手を広げ
とうせんぼしてくる。腕の下をくぐりぬけようと思ったが、赤い光りが花梨の視界をよぎる。はっと
して後ろへ飛び退く。
「正気に戻ってよぉ!」
「………」
横に飛んで妨害を避ける。そのままスライディングしようかと思うとその先にまた赤い光が走り縮
こまる。効果的な妨害方法と、予想できない赤い光に行動を規制され動きの無駄が多くなる。壁
際に追い込まれ、仕方なしに一人を突き飛ばそうと飛んだ瞬間下半身に横から抱き付かれてし
まった。花梨はポケットに手を突っ込むが一歩遅く差し込んだまま松嶋と相瀬に抑えられてしまう。
無駄と知りつつも、もがき喚くが二人ともまったく無表情のままだ。
「面白いわね…何しようとしたの?んふふふふふふ…」
余裕の笑みで宮森が近づいてくる。もう1mも離れていない。
「松嶋さん…その手のポケットの中に入っているわ。取り出して」
花梨はペンダントを握ったままポケットに突っ込んでいるが、そこへ松嶋の手が侵入して来た。絶
対離すものかと握りを強くするが手首を握られそのまま強引にポケットから引きずり出される。も
のすごい力だ。握りこぶしの間からペンダントの鎖がたれている。
「離しなさい」
冷たい目つきで宮森が言う。
「それとも、こっちの方がいい?」
光を消した状態のペンライトのような物を花梨の目の前にちらつかせる。どうにもならない。怒り
と悔しさが花梨の中を駆け巡り、つばを吐きかけたくなった。それを見越してあの赤い光が非情
にも花梨の顔を走る。
「あら、汚い真似はやめてよね…手を広げればいいのよ…ね…」
さっと目を閉じたものの、遅かった。右手の握る力が薄れてくるのが分かる。いくら力を入れよう
としても、勝手に開いていく。ペンダントは花梨の握りこぶしの中から滑り落ちてしまった。
「目を閉じれば遮断できると思って?」
宮森の声にはますますサディスティックな響きが加わる。ぎゅっと瞑って真っ暗になった視界がほ
のかにどす黒い赤みを帯びていく。花梨は必死になって顔をそむける。
「無駄なことはしないの・・・ほら開けると気持ちいいわよ」
ものすごい葛藤が花梨の中で巻き起こる。葛藤なんか起きるわけないのに、目をあけて見詰め
なきゃいけないような気が段々強くなっていくのが花梨自身を混乱させる。
「開けなさい」
ストレートに言われ、自分でもびっくりするほど素直に開いてしまった。その目の前にペンダント
がぶら下がっている。視界がぐらっと揺れた気がした。途端に体が熱くなる。一瞬赤い光がペン
ダントを通して照射される。びっくりしてまた目を閉じる。
「さて、かわいい花梨ちゃんはもうたっぷり欲情しちゃっているんでしょ?…」
欲情と言われただけで、あそこに『ジュン』と来たような気がする。
「ペンダントは精神剥奪より催淫効果の方が強いのよ…それにこっちの光まで見ちゃったんだか
ら…相乗効果で自分を失わないまま淫乱になっていくわ…」
両手が自由になったので、薄っすらとまぶたを開けると前に宮森はいなかった。はっとして振り返
るが遅く、宮森は背中から花梨の胸を服の上から揉み解す。
「はぅ!…っく…ぁああん…」
「さっき言ったでしょ?花梨ちゃんには協力者になってもらいたいって・・・忘我の快楽に身をゆだ
ねられちゃうと不都合なのよ・・・屈服してもらわないとね・・・!」
最後は恐ろしいまでの重みと冷たさを伴なっていた。普通だったらこれだけ冷や汗をかかされる
ような経験をさせられれば体の火照りなんか残っている訳ないのに、普段では考えられないほど
体が反応してしまう。まるで体中の性感帯が触られているところに集中しているかのように、胸を
揉まれているだけなのにそのリズムに合わせて体中に強い快感の波が広がる。花梨のパンティ
の内側ではまた熱いものが溢れ始めて、花梨はたまらず座り込んでしまった。
「あらあら、こんなんでイッちゃわないでよ…まだまだ楽しんでもらうんだから…」
宮森は花梨の後ろの回り、上着の裾から両手をさし込んでブラジャーのホックを外すと開放され
た乳房を自慢の手技で揉み始めた。花梨は自分でも情けないと思いながらも力が入らない自分
の体を呪っていた。上げたり回したり摘んだり包み込んで揉んだり押し上げたり、爪を立てて乳
房全体をじらすように刺激したりと、種類ではなく完成度において花梨の経験した事のないレベ
ルだった。最初こそ感じない振りをしようと思っていたが、いざ宮森の愛撫が始まると力が入らな
くなって、どうしようもなく、ただ湧き上がり走り回る快感に奔流に身を任せる事しか出来ず、あっ
という間に花梨はイカされてしまった。頭が爆発したかと思えるような、これまでに経験した事の
ないような絶頂感だった。濃密な霧が頭の中と言うか心の中に横たわったようで、全てに対して
反応が鈍くなっていく。ぐったりする間もなく宮森の片手は胸を離れ、花梨の一番熱くなっている
部分に侵攻してきた。今ではパンティはもちろん、スカートや畳までもシミを作っているのではと
思わせるような分泌量で花梨の愛液は溢れ出していた。
腿にヒヤッと冷たい感覚が走る。
“ジョキ”
音と共にパンティが切られた。切られたと分るまですごく時間がかかったような気がした。そして
分かったあとでも、それをショックに感じることが出来なくなっていた。それより濡れた布がなくな
った開放感のほうが遥かに大きかった。催促の言葉が出そうになるのを止めるのも必死だ。何と
か隙を見て形勢を逆転しなくてはと思う気持ちが一なら、このままもっと気持ちよくしてもらいたい
という気持ちが九もあることを花梨は情けないながら認めざるを得なかった。そしてその不条理さ
も快感になっていき、体中が熱くなって秘部からは再び愛液が溢れ始める。宮森の愛撫はどん
どんエスカレートしていく。花梨の頭の中にものすごい勢いで卑猥な行動を促す感情が巻き起こ
る。さっきまで分裂していた心の中がSEXの真っ最中のような感情で満たされ始める。
「…してぇ…はやくぅ〜…」
思わず口走ってしまった。さっきよりも速いテンポであらゆる技が繰り出されてくる。花梨はまたど
んどん昇っていく。
「あっあっあっあっあっあんっ…なぁ!…あぁ…あ、あ、い、いいき…」
あと少しと言うところでまた止まった。
「止めないでぇ!もっと、もっと、続けてぇ!」
「本当に続けていいの?」
花梨に理性は残っていなかった。
「してっ…お願いぃ…早くぅ…」
(早く…)
「……」
「はぁう!……」
宮森の手が花梨のお●んこに伸びて、ぬるっと言う肉体的感覚を残して一気に花梨を昇天させ
た。花梨の頭の中で黒い爆発が起こった。爆発で生じた暗部はまだ小さいがいつまでも霧散せ
ずに花梨の心にイメージとして残っているように花梨は感じた。息が上がって脱力しきった花梨
の耳に宮森が囁く。
「あなたの心を闇が支配したときあなたは生まれ変わる………あなたの服は脱げないわ…でも
気持ちよくなるには脱ぐしかない…でしょ?」
「はぁ…はぁ…う…ン…」
「脱ぎたいんでしょ?」
「…はぁ…はぁぁ…は…い…」
「切り裂くしかないわ…ほら…ハサミを貸してあげる…」
(脱ぎたい…脱げない…切るしかない…・切るしか…切る…し…き…)
虚ろな目で出されたハサミを見詰め、手に取ると自分の制服の上着にハサミを通していく。
じょきっ、じょきっ、じょきっ、じょきっ、
「そう…切れば切るほど気持ちよくなる…気持ちいい…」
どんどん興奮が高まりハサミの動きが速くなっていく。気持ちいい。それしか考えられなくなった。
じょきっ、じょきっ、じょきっ、じょきっ、じょきっ
体の前に無残な切り口をさらして花梨の服は切り開かれた。ハサミを置くと腕を通して既に外れ
ていたブラジャーと一緒に脱ぎ捨てる。
「スカートも脱ぎたい…邪魔くさい…鬱陶しい…脱ぎたくてたまらない…早く…脱ぎたい…」
宮森が上半身裸になった花梨に囁く。花梨は虚ろな目つきで急に鬱陶しくなったスカートを見つ
めている。花梨はもぞもぞと腰を浮かしスカートのホックを外すと振り解くようにスカートも脱ぎ捨
てた。既に一部が切断されていたパンティもスカートにくっつく形で一緒に脱げた。花梨は一糸纏
わぬ姿になった。
「裸になってすごく気持ちいい…今だったら自分でも気持ちよくなれるわよ…ほら…あそこがジン
ジン言っている…まだ欲しいんでしょ…しなきゃ…気持ちいいわよ…」
(なりたい…気持ちよく………ぁ!っかはぁ…)
言われるがまま伸びた花梨の手は、花梨の一番敏感になっている部分をいじり始めた。赤い光
は花梨の精神を犯し、言われた通りの事を自分の意思として行動するような感覚を花梨に与え
ていた。性感を極限まで高められ、理性を麻痺させられた花梨は、より気持ちよくなるにはどうし
たらいいか、そのことしか考えられなくなった。
「もと気持ちよくなりたいでしょ?」
「なり…た…いぃ…」
「私の言うとおりにすればもっと良くなるわ…こっちを見て…」
オナニーで昇り掛けていた花梨は虚ろな瞳をあけた。花梨の心に巣食い始めた暗部はいまや半
分以上にまで広がり、視界には関係ないはずなのになんとなく歪んで見えるようになっていた。
何か小さな赤い光が点滅しているように見えた。
「この光をようく見るのよ…」
バッ!!
巨大なフラッシュのような光が花梨の目の前で爆発し、そして花梨の意識も飛ばされ暗黒の中に
落下していく。
***
「藤崎さん、藤崎さん、起きなさい」
「ん、ん〜〜〜…あ、あれ、先生ぇ、私!やだ、ごめんなさい!」
花梨は自分が宮森の膝枕で寝こけていた事を自覚して飛び起きた。
「いいのよ、ずいぶん疲れていたみたいだから。あまり無理しないようにね…」
宮森のいつものやさしい顔が余計に花梨の顔を赤くした。こう言う時は叱ってもらった方が落ち
着く。それにしても何がどうしてこうなったのかわからない。それほど寝こけていたと言うことなの
か、花梨はどんどん混乱していく。
(ここ作法教室だよね…なんでこんなところにいるんだろ…疲れてたって…なんの事…?)
「もう閉めるけどいいかしら?」
「え?!あ、ハイ、今でます!」
時計を見るともう午後八時を過ぎている。
(こんな時間まで宮森先生を付き合わせちゃったんだ…)
羞恥が花梨の顔をさらに赤くする。
「じゃぁね、おやすみ」
「はい、おやすみなさい!」
ぺこっとお辞儀をすると花梨は寮への渡り廊下のある方へ走っていった。耳に光る小さな青いピ
アスに気づかずに…。
***
それから半年後、全生徒数296人中258人、全教職員数42人中23人が突然失踪行方不明に
なると言う前代未聞の大不祥事が発覚した。残った生徒はそのほとんどが精神を深く病み、公表
できないような性癖に取り付かれていた。同様に残りの教職員は全員、記憶を喪失し幼児退行
化していたため発覚以前の事情がまったく分からないと言う有様だった。
あまりの事態に最初は事件と見なされず何か病原体の感染による事故かと思われ、一時的に隔
離されたぐらいだった。生徒や教職員の調査分析が進むにつれ、一部薬物による精神操作の痕
跡が認められ事件として立件された。
唯一、学校関係者で正常だったのは男性教職員不要論により、ほとんど校内に立ち入らなくなっ
ていた理事長だった。しかし当然ながら捜査の足しになるような情報は持ち合わせていない。保
護者からの要請とは言え、最高責任者が校内事情にタッチしていなかったと言う理不尽さは世間
の理解するところではなかった。
身代金要求があるわけでもなく、失踪した人数が人数だけに目撃情報もあてにならず、捜査はま
ったく進展を見せなかった。発覚から二年が経ち、世間の事件に対する興味が薄れたころ私立
聖華女子高等学院は百余年の歴史に幕を閉じ閉校した。
閉校から三年経った現在でもなお、花梨、舞、祥子をはじめとする行方不明になった生徒と教職
員の所在は明らかになっていない。
完