勝利濃厚の自民党、日本国民は安倍首相に何を負託するのか?

Bloomberg News
選挙運動で訪問した福島県で手を振る安倍首相(2日)

メディア各社が実施した最新世論調査が正しければ、安倍晋三首相は14日投開票の衆院選でまたしても地滑り的な勝利を収めそうだ。

そうなれば、ここ3カ月の間に政界に垂れ込めた不透明感はほとんど払拭されることになるだろう。安倍氏は9月の内閣改造でしくじった。これで同氏の能力に新たな疑問符が付き、支持率が低下した。自民党内でも1年以内に首相のリーダーシップに対抗する勢力が出てくるとの観測が高まった。

報道機関はどこも似たように自民党が勝利すると予想しており、大部分は自民が議席数を伸ばし、公明党と合わせて3分の2の過半数を維持するとの観測を伝えている。予想通り自民党が勝利すれば、安倍氏が記憶に残る中で最も安定した力強いリーダーの一人だという見方が復活し、向こう4年にわたって政権を担う明確な道筋を安倍氏に提供するだろう。

ただ、こうした選挙結果は安倍氏が強い影響力を使って何をやりたいのかという以前からの疑問をあらためて想起させる。「アベノミクス」の次の行き先はどこになるのか。どのくらいの政治資源をアベノミクスに振り向けるのか。また、軍事力の増強や憲法改正など、戦後日本の平和主義をじわじわ切り崩す挑戦的な試みにどのくらいの力を注ぐのか。

ここ数週間の世論調査ではアベノミクスに対する国民の支持が低下しているが、安倍氏は今回の選挙がアベノミクスの是非を問う国民投票になるという表現を好んで使っている。ただ、同氏は今回の選挙戦で、最後までやり遂げるという総括的な公約からさらに踏み込み、自身の優先項目のありかを明確にするという行動にはまだ出ていない。アベノミクスで最も重要かつ現実的な部分――日銀による異次元の金融緩和――は継続するだろう。これはアベノミクスの第1の矢だ。では、機動的な財政政策と長期的な債務削減を組み合わせた第2の矢と、構造改革を推進する第3の矢はどうだろうか。

海外のエコノミストらは、コーポレートガバナンス・コードの改善や労働市場の柔軟化などの構造改革に真剣に取り組む必要性を、安倍氏に繰り返し訴えてきた。ただ、安倍氏はこれまで、権力の絶頂期にいるときでさえ、小規模なイニシアチブを取る以上の熱意を示してこなかった。安倍氏が権限を武器に農業の既得権益を打ち破るという歴史的な行動に踏み切り、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉をまとめあげれば、米国政府は心から同氏に感謝するだろう。しかし、安倍氏はこうした動きに対する国民の支持を取り付ける努力を、今回の選挙キャンペーンで行っていないようだ。

財政政策も厳しい挑戦になる可能性がある。すでに安倍氏は来年まで消費税率引き上げを延期するという政治的に容易な決断を下し、衆院解散・総選挙に踏み切った。具体性に欠けるが、安倍氏は2020年までに日本の財政を均衡させる方針を維持することも誓った。エコノミストらは、巨額の歳出削減とさらなる増税を組み合わせた政治的に痛みを伴うパッケージがなければ、財政均衡の実現性が危うくなると考えている。安倍氏は今週、膨大な財政赤字を管理する能力が厳密に監視されているという冷徹な警告を受けた。格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが1日、増税延期を理由に日本国債の格付けを引き下げたのだ。

選挙戦ではアベノミクスを争点にしているが、安倍氏は有権者の関心を経済政策からそらしかねない他の困難な問題にどれくらい焦点を当てるのか。米国政府が安倍氏に期待しているのは、米国がアジア太平洋地域を警備しやすくするために日本の軍事規制緩和を前進させることだ。衆議院で3分の2の議席を獲得できれば、安倍氏の長年の夢だが国内で大きな議論を呼んでいる憲法改正に踏み切る可能性が残されるだろう。

投開票までまだ10日あり、予想が外れることも考えられる。世論調査では多くの有権者がまだ支持政党を決めていないと回答した。日本政治の逆説は安倍氏の支持率が低下し、同氏の政策に反対する勢力が増えることだ。自民党が大勝するとすれば、それは同党の強さだけでなく野党の極端な弱さからももたらされる。この予想が人気のない政策綱領を掲げる人気のない首相が地滑り的勝利を収めるというものならば、今後1週間で有権者の態度が急変するだろう。世論調査が示唆するように、投票率が極端に低くなれば安倍氏率いる自公連合にさらなる勢いをもたらすものの、必ずしも政策が支持されたことにはならない。

原文(英語):A New Mandate For Abe — But for What?
http://blogs.wsj.com/japanrealtime/2014/12/04/a-new-mandate-for-abe-but-for-what/




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    • 「野党の圧倒的な弱さもあり、安倍さんは選挙に勝つのかも知れません。そして勝った後、政権に勢いが出てくるのかも知れませんね。しかし、それも一時的ではないでしょうか。何分、日本の経済・財政問題は依然として残ったままですし、最も政権に勢いのあった時期でも安倍さんはこれらの諸問題に積極的に向き合う姿勢を見せませんでしたし。問題が解決されないと元の木阿弥に戻るのも時間の問題ではないでしょうか」・・・って言いたいのではないでしょうか。

    • 結局、「安倍が勝っても政策が支持されたわけじゃ無いんだよ~!」という以外に何が言いたいのかよく解らん記事だな。WSJってこんな低レベルな記事出すほどレベル下がってるの?日本の政治を動こう言う前に、自分とこ何とかした方が良くない?

    • 一番やりたかった憲法改正

      国民主権を奪取

      自衛隊から戦争隊にし
      徴兵制度をめざすことは間違いなし

    • 第三の矢なんて簡単なこと。
      東南アジアに武器を輸出すればいいだけ。
      ベトナムを除く東南アジアの国々は中国から武器を輸入している。これは何を意味するのか?
      答えは中国によるASEAN諸国の軍隊の兵站への侵略。
      そんな暗雲たちこめる東南アジアの軍事情勢に一筋の光が差し込んだ。
      それが、安部政権下で行われた武器輸出三原則の見直しである。
      その先駆けとしてUS2がインドに輸出される。
      さらに、オーストラリアへの潜水艦技術供与(私は大反対)なども今後催されている。

      なんだかんだいって日本は、朝鮮戦争特需は例外として、軍需産業に経済的に頼ることなく発展してきたという世界的にも稀有な存在である。
      ここで、軍需産業振興という切り札を切ることが出来るかどうかで今後の日本経済の行方はだいぶ違ってくるだろう。

    • Oppai is justice.