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人工知能「Watson」に足りないのは、スタートアップ発のデータだった!:佐俣アンリ×IBM〜生きたデータが、ぼくらのビジネスをエンパワーする

世界屈指の人工知能である、IBMのWatson。しかしこのWatsonは、単なる人工知能ではなく、実は多様性をもった「存在」なのだという。そして、そんなWatsonの視線はいま、スタートアップに向き始めている。そこで、独立系ヴェンチャーキャピタリストとしてスタートアップの最前線に立つ佐俣アンリが、Watsonがなんたるかを確かめるべく、日本IBMの中林紀彦との対話に臨んだ。

 
 
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TEXT BY TOMONARI COTANI
PHOTOGRAPHS BY SHIN-ICHI YOKOYAMA

佐俣アンリANRI SAMATA
1984年埼玉県生まれ。ヴェンチャーキャピタリスト。慶應義塾大学経済学部卒業後、リクルート メディアテクノロジーラボにてモバイルコンテンツの事業開発、またリクルート初のソーシャルアプリの事業立ち上げを担当。同社退社後、クロノスファンド、EastVenturesに参画。クロノスファンドとしてフリークアウト、ハイパーインターネッツ(CAMPFIRE)、みんなのマーケット、カンムの立ち上げを創業から一貫して行う。また、個人としてラクスルを創業からのサポートも手がける。2012年5月、ヴェンチャーキャピタルファンドANRI立ち上げ。

中林紀彦NORIHIKO NAKABAYASHI
ソフトウェア事業 ビッグデータ&アナリティクス アーキテクト。データベース関連ソフトウェアのプリセールス・エンジニアを経て、製品のマーケティングマネージャを担当。データサービスに関するエバンジェリストとしても活躍。2014年よりスタートアップ企業の抱えるさまざまな課題をデータ分析およびそれに関わるテクノロジーの観点から支援を行う。また、データサイエンティストとして先進的なアーキテクチャを取り入れた顧客のデータ分析を多方面からサポート。共同インキュベーション テクニカル・メンター、筑波大学大学院 客員准教授。

佐俣 今回、中林さんと対談をするにあたって、グーグルでWatsonについての記事をざっと読んだんです。「Jeopardy!(ジョパディ!)」というアメリカのクイズ番組で歴代最強のチャンピオンに勝ったり、医者にリコメンデーションしたりといった、非常に優秀な人工知能であることは元々知っていたのですが、どうやら、それ以外の用途もあるみたいですね。

中林 そうなんです。実はWatsonというのはブランド名で、何かを明確に指すわけではないんです。仰っていただいたような人工知能としての側面のほかに、検索エンジンでもありますし、データ処理のアーキテクチャ自体を、Watson Foundationと呼んでいたりもします。利用するみなさんにWatsonとはどんなものかを定義してもらうのもよいと思うので、だから今日は、佐俣さんと対話をする中で、Watsonのひとつの輪郭を出せればいいなと思っているんです。

佐俣 そういえばIBMさんって、自然言語処理のテクノロジーをずっと探究していましたよね。1990年代にチェスのチャンピオンに勝ったディープ・ブルーとか。その集大成がWatsonだと、まずは捉えればいいのでしょうか。

中林 そうですね。簡単に言うと、人工知能の部分と解析の部分、その両方のソリューションで成り立っているのが現在のWatsonです。仰られた通り、いまアメリカでは、医療の分野で実用化されはじめています。医者が患者と対面して診断している際に、どういう診断をするべきか迷ったとき、自然言語で「こういう症状なんだけれど、どうすればいいかな?」って訊くと、ものすごい量の論文や症例にアクセスし、最も適切な答えを瞬時に返してきます。

あとは金融の分野では資産運用的なところで、例えば「娘を大学に行かせるにはどれくらいかかるか」と訊けば、「こういうケースだとこれくらい、こういう場合はこの程度」といったカタチで見積もりを教えてくれます。要は質問に対して、自分がもっている知識というか、バックにある膨大なデータから最も適切な答えを返してくれるわけです。

いまIBMでは、そういったWatsonの機能を、スタートアップの方々にどんどん使っていただきたいと思っているんです。

佐俣 BluemixというプラットフォームにWatsonが実装されたのは、そのひとつの取り組みというわけですね。

中林 はい。クラウド上での開発環境やアプリの実行環境を提供する、いわゆるPaaS(Platform as a Service)として、現在IBMではこのBluemixに力を入れているのですが、そこに提供されているサーヴィス(API)のなかに、Watsonの機能もラインナップされることになりました。つまり、アプリの開発にあたって、自然言語処理/解析に関係するものや人工知能的なアプローチをしたいと思ったときに、気軽にWatsonのテクノロジーを活用してもらうことができるようになったわけです。

佐俣 BluemixにおけるWatsonの「サーヴィス」というのは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

中林 まずは「質疑応答サーヴィス」です。「ジョパディ!」に出演したときのように森羅万象を知っているわけではなく、現時点では医療と旅行の分野の知識に限られているのですが、英語で答えると、何かしらの答えを返してくれます。

それ以外には「顧客モデル化サーヴィス」といって、誰かが書いたテキストを解析して、その人のプロファイル等を分析する機能もあります。

あとは、「言語識別サーヴィス」と「機械翻訳サーヴィス」ですね。現在は10言語を読んで、何語で書かれているか識別する「言語識別サーヴィス」と、ある言語で書かれたテキストを、他の言語のテキストに翻訳する「機械翻訳サーヴィス」が利用可能です。さらに、婉曲表現、例えばニューヨークのことをThe Big Appleと表した場合でも、前後のコンテキストを見極めて適切な処理を可能にする「概念拡張サーヴィス」も備えています。

佐俣 確かにそれらのサーヴィスを、ゼロからコーディングするのではなく、機能をブロックのように組み立てて重ねていけるのは、アプリやプロダクトの開発コストや期間を大幅に削減できると思います。

中林 Watsonがもつケイパビリティは、膨大なデータを非常に高速で解析処理して、答えを返してくれることなのですが、その機能を、スタートアップの方々の優れたアイデアを実現していくときのツールとして、どんどん活用していただければと思っています。

正直IBMは、1990年代のITバブルのときも、2000年代にゲームが伸びたときも、そのマーケットにうまく入り込むことができませんでした。最近になって、IoTをはじめ、次に来るマーケットがある程度見えてきているので、今度こそいち早く優秀な方々と一緒にさまざまなことをやり始めたいと思っているんです。

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