2014年12月03日 (水)

特集・はやぶさ2 生命の起源探る旅へ

1203_01_kisha2.jpg4年前、世界で初めて小惑星の微粒子を地球に持ち帰った日本の探査機「はやぶさ」の後継機、「はやぶさ2」が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。
「はやぶさ2」の特徴は? そして、どこに、何をしにいくのか、科学文化部の岡田玄記者が解説します。

打ち上げはH2Aで

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「はやぶさ2」を搭載したH2Aロケット26号機は12月3日の午前0時ごろ、種子島宇宙センターの組み立てが行われた建物から出され、専用の台車でゆっくりと、およそ500メートル離れた発射地点へ移動しました。
天候不良によって2度にわたって延期された打ち上げでしたが、この日は、JAXA・宇宙航空研究開発機構と、打ち上げ業務を担当する三菱重工業が天候や機体の状況などから打ち上げを最終決定し、4分30秒前から、コンピューターによる機器の最終チェックが行われました。
そして、打ち上げの5秒前に1段目のメインエンジンに点火され、午後1時22分、ごう音とともに発射台を離れました。
補助ロケットや1段目を切り離して上昇し、打ち上げからおよそ1時間47分後に、「はやぶさ2」を予定の軌道に投入。
打ち上げは成功しました。
H2Aロケットの打ち上げは、これで20機連続の成功となり、成功率は96パーセントを超えました。

 


エンジンは耐久性アップ

「はやぶさ2」は、4年前、世界で初めて小惑星の微粒子を地球に持ち帰った「はやぶさ」の後継機として開発されました。

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箱型の本体は、高さが1メートル25センチ。
2つの円形の通信用アンテナや太陽電池パネルが取りつけられているほか、動力源の「イオンエンジン」は、初号機より推進力や耐久性が増しています。

 

 

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随所に「ものづくり」の技

機体の開発には、日本のものづくりの技が、随所に生かされました。
探査機の心臓部とも言える電気回路を支えたのも、「現代の匠(たくみ)」の技でした。1203_05_kiban.jpg
 

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はやぶさ2の飛行や制御をつかさどる電気回路の「基板」には、無数の部品が、「はんだ付け」によって、取り付けられています。
その作業の多くは、宇宙機器メーカーの技術者、斎藤克摩さんが行いました。
基板の数にして115枚。
多いものでは、1枚当たり2000箇所の「はんだ付け」を行いました。
斎藤さんはこの道26年、ことし「現代の名工」にも選ばれた職人です。

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「はんだ付け」は、300度余りの熱で溶かした合金で、部品を基板に接着する技術です。
探査機は、ロケットで打ち上げるため、できるだけ軽く仕上げなければなりません。
このため、基板に使うはんだの量も、極力少なくする必要があります。
一方で、ロケットの打ち上げは、ジェット機をはるかに上回る振動に見舞われるうえ、250度という極端な温度変化にさらされるため、強度の確保も重要です。

名工の“はんだづけ”

こうした厳しい条件をクリアする斎藤さんの技のいったいどこがすごいのか。
実際に「はんだ付け」の作業を見せてもらうと、一目瞭然で違いが分かりました。
斎藤さんの「はんだ」は均一かつ必要最小限の量が使われています。

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一方で、3年目の技術者にも同じ材料ではんだ付けしてもらいましたが、「はんだ」の量が多すぎたり少なすぎたり、いびつな形になってしまいました。
はんだ付けを検査する担当者は、「秀逸なものは『富士山の裾野(すその)』のようなきれいな形になる。斎藤さんだとあっという間だ。同じ会社に80人くらい技術者がいるが、いちばん上の資格を持つのは斎藤さんただ1人だ」とその腕を絶賛していました。

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自分の技術を伝える後進の指導にも力を入れる現代の名工に選ばれた斎藤さん。
6年という長旅に出る「はやぶさ2」について「初号機はさまざまな困難やトラブルに見舞われながらも立ち直って帰ってきた。はやぶさを支える技術は、まさに日本が誇るものづくりの象徴だ。無事にミッションをこなして帰ってきてほしい」と話し、楽しみにしていました。

はやぶさ2のミッション

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「はやぶさ2」は初号機と同じように、小惑星を探査して採取した石や砂を地球に持ち帰る計画ですが、その目的地は異なります。
「はやぶさ2」が目指すのは、「1999JU3」と呼ばれる、太陽を中心に、主に地球と火星の間の軌道を回る小惑星です。
この小惑星は、「はやぶさ」が着陸した「イトカワ」とは異なるタイプで、水や有機物を含んでいます。
生物の体をつくるタンパク質の元であるアミノ酸も有機物で、地球上の生命は、こうした小惑星の有機物がもたらされたことで誕生した、というのが有力な説の1つです。
「はやぶさ2」はこうした説を検証し、生命の起源に迫ることを目指します。

どのように小惑星へ?

「はやぶさ2」は打ち上げ後、太陽を周回する軌道に入り、およそ1年後の来年12月頃、地球の重力を利用して加速しながら進路を変更し、小惑星に向かう軌道に入ります。

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そして、打ち上げから3年半後の2018年6月頃、目的の小惑星に到着。
その後、およそ1年半にわたって小惑星の近くにとどまり、さまざまな科学観測を行います。

小惑星に3回着陸

「はやぶさ2」は、小惑星には3回着陸する計画で、1回目と2回目に、小惑星表面の石や砂を採取します。
そのうえで、3回目には、これまで行ったことのない小惑星内部の石や砂の採取に挑戦します。
小惑星の表面の石や砂は、太陽にさらされることで成分が変わる「宇宙風化」と呼ばれる現象が起きていますが、内部は風化が起きておらず、太陽系誕生当時の情報がそのままとどめられていると考えられるためです。

新開発インパクタ

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そうした小惑星内部から石や砂を採取するために搭載されたのが、新たに開発された「インパクタ」と呼ばれる装置です。
「インパクタ」は、小惑星の上空から秒速2キロという極めて速いスピードで、金属の弾丸を発射して、人工のクレーターを作ります。
小惑星内部の石や砂は、そのクレーターの中から採取する計画です。
こうして石や砂を採取した「はやぶさ2」は、2019年12月頃、小惑星を離れて地球への帰途につきます。

オリンピック後に帰還へ

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そして、今から6年後、東京オリンピックが終わったあとの2020年12月頃、総飛行距離52億キロの旅路を経て小惑星の石や砂が入ったカプセルを地球に帰還させることになっています。
その際、カプセルは、オーストラリアの砂漠に着陸させる計画ですが、「はやぶさ2」自体は大気圏に突入することなく、再び地球を離れて宇宙へ飛び立つ予定です。

アメリカも小惑星探査へ

4年前、「はやぶさ」が小惑星の微粒子を地球に持ち帰ったことで、日本はこの分野で世界をリードする存在となりました。
アメリカやヨーロッパでは、日本に追いつき、追い越そうと、小惑星の探査計画が次々に立案されました。

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なかでも、NASA・アメリカ航空宇宙局は小惑星探査機「オシリス・レックス」を2年後に打ち上げます。
この探査機は、「はやぶさ2」と同じように水や有機物を含む小惑星から石や砂を持ち帰り、太陽系や生命の起源を探る計画で「はやぶさ2」の3倍の予算をかけて開発が進められています。1203_14_yotei.jpg

小惑星の石や砂の採取は、ロボットアームの先端から小惑星の表面にガスを吹きつけ、小石を巻き上げることで行う仕組みで、前回、「はやぶさ」が集めた小惑星のデータをもとに設計されました。
探査機の主任研究員を務めるアリゾナ大学のダンテ・ローレッタ教授は、「私たちの探査機の設計を決定づけたのは、はやぶさです。はやぶさが小惑星の表面は小石で覆われていることを教えてくれたため、私たちは石の採取方法を変更しました。今回打ち上げられるはやぶさ2と私たちの探査機はよいライバルになると思う」と話しています。1203_18_eisei1.jpg


火星探査への通過点

さらに、NASAは各国との国際協力を進め、2030年代に「有人火星探査」を実現することを目標に掲げていて、その手前にある小惑星を詳しく探査する計画を進めています。
この計画では、直径10メートルほどの小さな小惑星を丸ごと捕らえ、そこに宇宙飛行士を送り込んで、火星を想定した探査の技術を磨きます。
そして、小惑星を資源として利用できる可能性も調べることにしていて、小惑星探査に対する世界の注目は日増しに高まっています。

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投稿者:かぶん |  投稿時間:21:29  | カテゴリ:科学のニュース
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