4日のニューヨーク市場で円相場が一時1ドル=120円25銭まで下落し、2007年7月以来7年4カ月ぶりの円安水準を記録した。日銀が10月末に追加金融緩和に踏み切って以降、10円強の円安が進んだ。日本の巨額な貿易赤字や米景気回復によるドル買いなど、円売り圧力は構造的に強い。輸出企業にとっては採算が改善するものの、家計や中小企業には食品や資材など輸入品の値上げを懸念する声もある。
4日の外為市場は1ドル=120円目前で足踏みが続いたが、同日夜の欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁の記者会見中に円売りが出て120円台前半をつけた。ドラギ総裁の量的緩和を巡る発言が市場の想定内にとどまり、相場がユーロ高円安となって引きずられるようにして対ドルでも円安が進んだ。
円相場は今年夏まで102~103円台で推移してきたが、8月以降は下落基調が強まっている。円売り圧力が強まった要因は主に3つある。1つは日銀の大規模緩和だ。10月末の電撃的な追加緩和でその後の約1カ月でさらに10円も円安が進んだ。原油安によって物価上昇率が鈍っており、市場にはさらなる追加緩和観測もくすぶる。
2つ目は日本が抱える巨額の貿易赤字だ。14年1~10月の日本の貿易収支は11兆円を超す赤字で過去最悪の水準。商品や原材料を輸入する際に円を売って外貨を調達する必要があり、貿易赤字は根強い円安要因になる。
3つ目の要因は米国の景気回復でドル買いが強まっていることだ。米国は10月に量的金融緩和を終了し、来年半ばにも事実上のゼロ金利を解除して利上げに踏み切るともみられている。投資マネーは金利の上昇が見込めるドルで運用しようと、円を売ってドルを買う動きを強めている。
円安になると企業にとっては輸出品や海外事業の円換算での収益が膨らむ。多くの輸出企業の想定レートは1ドル=100~105円。120円の水準が続けば、トヨタ自動車など主要20社の15年3月期の営業利益は約8000億円の上振れ要因となる。大和証券は120円なら上場企業の今年度の経常増益率は13%(従来予想は8%)に拡大すると予測する。
円安による輸入コストの上昇リスクは、原油価格の下落が緩和している。ガソリン価格は20週続けて前の週を下回る。SMBC日興証券によると、ドバイ原油が1バレル65ドルで円相場が1ドル=118円なら名目国内総生産は1.8%増えるという。
中小企業や内需型の非製造業には円安の恩恵は小さい。原油安でも部品などの輸入コストは膨らむためだ。大和総研によると、13年1月以降の1年半で円安によって企業の経常利益は約3兆円押し上げられたが、うち2兆円は大企業製造業で非製造業は0.8兆円、中小製造業も0.2兆円どまりだ。製造業が生産拠点を海外に移しており、輸出そのものも伸びにくくなっている。
家計にとって負担増となるリスクもある。食用油は15年1月から大手3社が値上げする。ニチレイフーズは来年2月から家庭用の冷凍食品の出荷価格を上げると表明。内閣府によると、消費者心理の指数は物価高で10月まで3カ月続けて前月より悪化した。企業の収益増が賃上げや雇用拡大につながって消費を押し上げる「円安の好循環」が働くかが重要になる。
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