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【「戦後日本」を診る 思想家の言葉】
網野善彦 中世に資本主義の源流見いだす
かくして網野は、中世を「重商主義」の時代だ、こう定義したのだった。その後商品は次第に神や仏、巨木の下などの神聖な場所をはなれ拡大してゆく。それは「都市」を生みだし、そこに集い売買する者たちは暴利を貪(むさぼ)ることから「悪」の烙印(らくいん)をおされ差別すら生まれてしまうのだ。
この結論に達したとき、網野は思いだした。これで高校生の問いに答えられる。なぜなら彼ら余計者、つまり悪人たちを助けるために親鸞は「悪人正機(しょうき)」を叫び、一遍は彼らとともに遊行を行ったからだ。鎌倉仏教誕生には、重商主義、資本主義の始まりが関係しているのだ。
こうして網野史学は、ポストモダン思想を代表する新しい歴史観を生みだした。高校生の些細(ささい)な質問が、網野史学という壮大なドラマを生みだしたわけである。