潜水艦映画を9本連続で借りて観てみた。潜水艦映画は面白い、潜水艦映画にハズレ無しいう話はよく聞くし、最近海軍関係の本を何冊か読んで海中の世界というものに興味を持った。
正直言うと艦これにハマってどうのこうのという理由も全くないわけではないわけだが……。
今日の目次
- 潜水艦映画の魅力
- Uボート
- 深く静かに潜行せよ
- 眼下の敵
- 潜水艦イ-57 降伏せず
- U-571
- レッド・オクトーバーを追え
- クリムゾン・タイド
- ローレライ
- イン・ザ・ネイビー
- 潜水艦映画を観る前に
潜水艦映画の魅力
作品それぞれの魅力はもちろんあるのだが、潜水艦映画というジャンルそのものには共通の魅力がある。ポイントはこんなところだ。
無言の交流 : 潜水艦は、外界との接触が限られている。味方なら最低限の通信しかできない。通信トラブルはもはやお約束。敵ならばソナーと魚雷で語り合う。限られた情報から相手の思惑や人物像を思い浮かべて行動するわけなので、感情のほとばしる会話もなく、奥の深い心理描写が魅力となる。「眼下の敵」と「レッド・オクトーバーを追え」は、特にそういう表現が秀逸だった。
一体感と生活感 : 広い海はアウェーだが、自分たちの船はホームだ。特に第二次世界大戦中の潜水艦を扱った作品は、狭い空間を共有しているぶん、一体感がすごい。どの作品を観ても、終盤では「この艦には沈まないで欲しい、みんな無事に本国に帰ってほしい」という気持ちになる。
一点豪華の艦内セット : 尺の大半を占める艦内のセットはとにかく良く作られており、狭い中に物凄い情報量が詰まっている。現物や同型とまではいかなくても、よく似た本物の潜水艦が使われている作品も多い。そんな環境で撮影されているだけに、映像の「密度」が濃い。少なくとも艦内風景がショボい潜水艦映画はない。
グロは控えめ : 「グロが苦手なので、手足が吹っ飛んだり頭が砕けたりする戦争映画はちょっと……」という人は多いと思う。海軍物なら人に直接弾を当てなくても相手の船を沈めれば良いので、直接的なグロシーンは比較的少ない。
戦争なのでもちろん命のやりとりをするわけだが、それでも、「勝つ⇔負ける」と「生きる⇔死ぬ」の間に「兵器を巧みに運用する⇔相手の兵器を無力化する」というクッションが入っているのは、けっこう救いになる。作品によっては、艦がやられてもうまく脱出したり敵艦の紳士の皆さんに拾われたりして、壮絶なストーリーの割に人死は最低限に抑えられている。
初めて観る人にも猛烈にオススメしたいのが「眼下の敵」と「Uボート」
潜水艦映画というよりも「潜水艦をテーマとした面白い映画」が観たい方は、「レッド・オクトーバーを追え」と「U-571」をどうぞ。
余韻の残る人間ドラマが見たければ「潜水艦イ-57 降伏せず」と、あとはやっぱり「Uボート」をおすすめ。
Uボート (原題: Das Boot)
広く長く愛されている潜水艦映画。殿堂入り作品。3時間という長尺だが、全く飽きない。
感動的なストーリーがあるわけでもなく、戦術の妙を味わったり派手なバトルで興奮したりという要素もない。ヒーローと呼べるような人物もいない。善人も悪人もいない。主人公もいない。いるとすればそれは「艦そのもの」だ。
この作品のストーリーはとにかく淡々としている。理不尽ともいえる展開の連続、しかし悲劇ではない。ラッキーとアンラッキーはほぼランダムに振りかかる。運命のサイコロが小さな艦を虐める。とりあえずベストを尽くすしかない。そんな中で少しずつ変わっていく乗員たちの人間模様や艦内の環境の描写をじっくり観察してほしい。容姿も変わってゆく。食べ物はしなびる。映像の情報量がとにかく半端ない。
音楽も素晴らしい。どっかで聴いたことがあるんじゃないかな。
深く静かに潜行せよ
1958年、白黒。潜水艦映画の基礎知識! 古典なので必ず観ておけ! という作品らしい。
第二次世界大戦時代、米国潜水艦・ナーカと日本駆逐艦・秋風の宿命の戦いを描いた架空のお話。ハードボイルドな作品だ。
潜水艦映画の定番である「血の気の多い艦長と温和な副艦長が対立」という設定は、この映画が元祖らしい。のちの作品を観た時にこの作品へのオマージュが時々登場するのがわかるので、早めに観ておいて損はない。
そして勿論、潜水艦バトルの描写にも力が入っている。後半になると、敵駆逐艦の強さの秘密が判明する。そこからボードゲームのように互いに一手一手を打っていく描写は秀逸だった。
敵側の日本語が怪しげ。艦長の宿敵! 豊後水道の悪魔!! 無敵の駆逐艦秋風!!! 今度こそぜってー沈めてやる!!!! と燃えるところなのに、乗員がなんか怪しい日本語で \スイチュウバクダンッ!!/とか\ヤッター! ヤッター! ゲキチンダ!/ とかはしゃいでいる。おかげで迫力が半減。まあ日本人役に良い俳優を使えなかった事情もあるよねってことで。
眼下の敵
大西洋上での米駆逐艦 対 独潜水艦の一騎打ちを、両サイドの視点から描いた作品。これも潜水艦映画の中では殿堂入り作品。ちちなみにドイツ人のセリフは英語。
映像は綺麗で大迫力。1957年の作品なのだが、全然古さを感じさせない。実際の駆逐艦を使ったとのことで、ミニチュア撮影の目立つ同時期の作品と比べると「うおお、水しぶきが実寸だ!」とびっくりする。
重苦しいドラマは控えめで、艦長同士の頭脳戦の妙を良い意味で「ゲーム感覚」で描写している。駆逐艦と潜水艦の一手一手が交互に映されるので、じっくりとターン制のゲームの行方を見守るかのようだ。
戦況の説明もとても自然かつ丁寧だったので、空間感覚のない私にも、二艦の三次元的な配置をありありと思い浮かべることができた。「戦争映画」や「潜水艦映画」が見たいという人でなくても、エンターテインメントとして観られる内容だと思う。
二人の艦長のキャラクター付けも良い。若くユーモアのある駆逐艦艦長と、歴戦の潜水艦艦長。対照的な人物だが、「任務には忠実だが、ちょっぴり厭戦気味」という部分は共通している。そのため、憎悪や使命感に駆られることもなく、どこか醒めた「ゲーム感覚」の戦いを見せてくれるのだ。
戦争の残酷さがあまり描かれておらず、命のやりとりをしている実感は薄いが、任務の遂行と人命尊重を両立させようと努力した紳士的な軍人が実際に多くいた事を思うと、この映画の描写も十分アリじゃないかな。
潜水艦イ-57 降伏せず
白黒。この作品は、「Uボート」や「眼下の敵」に比べると知名度はかなり下がるようだが、私は全力で推したい。
いきなり回天特攻シーンから始まる。
舞台は1945年夏のインド洋、多くの犠牲を払って戦ってきた日本の潜水艦イ-57に命じられたミッションは「最善の講和条件に持っていくため、その鍵となる某国外交官とその娘をアフリカ西岸まで無事送り届ける」というものだった。要は、日本はどうせもう負けるんだからマシな負け方をするために頑張ってくれというわけだ。異分子である背広の外国人紳士、そして更に異質なドレスの女性を乗せ、イ-57の航海が始まる。
戦争映画にはジレンマがある。戦時中の価値観を全開にすると、どうしても「戦後」の人間としては感情移入するのが難しいものとなる。普遍的なヒロイズムやヒューマニズムとは違うあの空気が、どうしても物語を悲壮で昏いものにし、観るものに神妙な面持ちを強いる。
一方、すでに戦争の結末とそれに対する評価を知ってしまった人間の言葉を登場人物に語らせてしまうと、リアリティが無くなって興醒めである。
その部分をこの作品は上手く解決している。「戦後」を見据えて行動する外交官父娘を「戦後」視点の代表として艦に乗せ、乗員たちと鮮やかな対比を見せているのだ。どちらが正しいわけでもない。「ここまで犠牲を払ってこんなに頑張ってきたのに」「自分たちにも死ぬ覚悟があるのに」という無念を呑んで任務を遂行する艦長たちと、「何があっても命だけは諦めないで」と願う外交官父娘が、長い旅の中、次第に理解し合う。
それでも譲れないものはあるわけだが……。
ヒューマンドラマという点でも素晴らしいが、戦闘シーンも大迫力だ。ミニチュア撮影だとわかる箇所も少なくないが、優れた構図で撮られており、決してチャチさを感じさせない。
シリアスな物語ではあるが、ヒロインを巻き込んだお色気コメディや、艦のマスコットのお猿さんの名演といった、和めるシーンも多い。それも決してわざとらしくなく、絶妙な自然さで描写されている。上手い。ただし、少し演技の硬い役者さんが多いという印象は否めない。
生活感や空気感の描写は「Uボート」と同格の素晴らしさだった。蒸し暑く息苦しい艦内の様子が圧倒的な説得力で描かれている。あまりの劣悪な環境にヒロインが体調を崩してしまう描写には大いに納得してしまった。
そして、甲板に上がったときの空気が本当に美味しい。
U-571
盗んだ潜水艦で走り出す!
第二次世界大戦中に実際にあった極秘情報の奪取作戦に着想を得た、娯楽フィクション。
米潜水艦が極秘作戦を受けて出港する。作戦の目的は、大西洋で航行不能になったUボートに突入し、ドイツ本国に気づかれることなくエニグマ暗号機を奪取すること。しかしなんてこった! 突入作戦のドンパチの最中、自分たちが乗ってきた潜水艦が撃沈されてしまい、仕方なくUボートごとパクってお持ち帰りすることになる。
色々ツッコミたくなるシーンもあるし、味方の弾の命中率が高すぎたりとご都合主義な展開も多いが、ストーリー全体としては良く纏まっていて楽しく観られる。潜水艦映画のお約束はばっちり押さえられているし、アクション物・冒険物としても観ごたえがある。
壁にアレが貼ってあったり、魚雷発射管でアレをしたりと「深く静かに潜行せよ」へのオマージュがけっこう入っているので探してみよう。
—-
さて、ここから先は第二次世界大戦後を舞台にしたもの。
原潜でかい! 広い! エアコン完備!
ストーリーも戦略級で壮大!
—-
レッド・オクトーバーを追え
冷戦時代のお話。
原子力潜水艦「レッド・オクトーバー」で米国への亡命を試みるソ連人艦長、それを追うソ連本国、レッド・オクトーバーの真意を探ろうとするCIA職員、お互い意思疎通のとれない三者が繰り広げる壮大な物語。熱い潜水艦バトルも、人間同士のアクションシーンもある。レッド・オクトーバー艦長役のショーン・コネリーの演技はとにかく神がかっている。
後半になるまで、主要人物は対面しない。ただ断片的な情報を読み合い、相手の思惑を推測するのみ。潜水艦ならではの、もどかしくも暖かいコミュニケーションが繰り広げられる。
映像・音楽・ストーリー・脚本・演技、どれも素晴らしい。マニアックに走りすぎず、ウケを狙いすぎず、とにかくバランスの良い作品だ。オープニング曲 “Hymn To Red October” は名曲。
クリムゾン・タイド
これは独特のテーマ性を持った潜水艦映画だった。
限られた判断材料でどう意思決定するか? そのために組織はどうあるべきか? という問題を取り扱っている。
潜水艦バトルの要素は薄く、魚雷はほんの数本しか発射されない。その代わり、艦内での味方同士の対立が物語のメインになる。
舞台は米国のミサイル原潜。世界の命運のかかった任務を遂行する中で、本国との通信トラブル (通信トラブル自体は潜水艦映画の定番ハプニング) が発生する。「この核ミサイル、ほんとに撃っちゃっていいの?」というギリギリの決断をめぐって、艦長と副艦長の意見が食い違う。
艦長は叩き上げの海の男、血の気の多いおっさん。一方、副艦長は良くも悪くも優等生タイプの兄貴。この二人のキャラクターの対比がとても良い。どちらにも共感できるし、どちらにも味方できない。
最後の最後まで拭い切れないモヤモヤを残すストーリーとなっているが、本当に最期の最後で、それに決着をつけている。艦内の生活感は少なめかな。
—-
面白かった作品を7本紹介した後は、番外編として、ファンタジー物とお笑い物を紹介するよ!
—-
ローレライ
ファンタジーとSFの要素を含んだ架空戦記。太平洋戦争末期、少女の超能力を利用した秘密兵器を積み、潜水艦が極秘作戦を遂行するという物語である。
潜水艦映画とファンタジーの融合……のはずだが、あんまり上手く融合できていなかった惜しい作品。戦闘描写も他の名作と比べるとどうしても大味なところが目立つ。とりあえず米国艦艇の皆さん、そんなに押しくら饅頭するとアブナイデスヨー!!!
脚本も、どうしても「現代人の言葉を代弁させられている」という印象が強かった。ヒロインのビジュアルや演技もどうしても「二次元から来ました!」という感じだ。潜水艦に異分子が乗っている面白さを見せるところが、どうしても違和感にしかならない。上でも挙げた「潜水艦イ-57降伏せず」の影響を受けているというが、あちらのヒロインは「自然な不自然さ」をきちんと表現できていたんだよなぁ……。
このへんの嘘をアニメの絵の力で埋めたほうが面白い作品になったんじゃないかなあ、ということでアニメ化希望。
何よりも残念だったのは、「空気」が伝わってこないこと。狭く蒸し熱い艦内の空気が伝わってこない。乗員はろくに汗もかかず、服もヨレない。甲板に上がったときの「ああ、空気が美味しいなあ」という喜びがない。
……なんだか貶してしまったが、もちろん面白いところもあるからこうして紹介しているわけだ。
違和感が大きかったとはいえ、なんだかんだでファンタジー要素のある架空戦記というのはワクワクできる。異形の潜水艦の姿には心が踊る。多少の違和感を乗り越えてこの作品のノリに心が追いついた後は、辛気臭いガチの戦争映画とは違った高揚感でクライマックスまで一直線だ。
原作「終戦のローレライ」はけっこう評判がいいので読んでみようかな。
イン・ザ・ネイビー (原題: Down Periscope)
これはお笑い潜水艦映画。ただのB級映画かと思って軽い気持ちで観てみたが、これが結構な当たりだった。
奇人変人・駄目人間・社会不適合者ばかりの乗り込んだオンボロ潜水艦が、原潜相手に演習を繰り広げるという内容だ。
人間同士のドタバタギャグは、寒くてクドい物も多い。その一方で、潜水艦ならではのギャグがしっかりしている。珍戦術で笑わせ、ボロ潜水艦と原潜の設備の格差で笑わせる。艦内の生活感や戦闘描写など、ディテールに気合が入っているからこそバカバカしさが際立っている。
尺は93分と短め。シリアスな潜水艦映画を観た後のデザートに如何かな?
潜水艦映画を観る前に
映画は、決してマニアばかりに向けて作られているものではない。娯楽寄りのものとそうでないものとの差はあるものの、なるべく誰が観ても楽しいように作られている。それでも、ちょっとした知識はあった方がいい。私が事前に読んでおいてよかったなと思ったのは、「潜水艦入門」。
潜水艦はどういう仕組みでどう動くのか、どう運用するのかが簡潔にまとまっている。魚雷・爆雷・ソナーといった装備品の使い方もわかる。
初心者にも読みやすく、映画一本を観る時間でさらっと読める。この程度の知識があるだけで、「この場面は何をやっているのか」「どうしてこういう判断をしたのか」というのがわかって潜水艦映画の楽しさが倍増するので、読んで損はない。