週刊通販生活トップページ  >  読み物:フリーランスライター畠山理仁の「東京電力福島第一原子力発電所構内ルポ」(2)

ようこそ、ゲストさん

「通販生活」公式通販サイト

東京電力が「暫定事務棟」という言葉に
神経質になる理由。

 今回、東京電力が「取材のポイント」として上げたもうひとつのポイントは「新事務棟」だった。これは現在、福島第二原子力発電所に配置している職員を、より現場に近い福島第一原子力発電所に配置して作業に当たるというものだ。ここでも東京電力の「伝えたいこと」がわかった。

鉄骨2階建ての新事務棟は140m×40mという細長い形状。作業員の被曝を低減するため、窓がない構造。建物内部の外側には更衣室やトイレなどを配置し、長時間作業する中心部の被曝を低減するための工夫がなされている。ここに食堂、シャワー室も設置される。

作業員が入退域する際、自ら作業車両が汚染されていないかを調べる「セルフスクリーニング場」も完成。これにより退域の待ち時間が短くなることが期待される。

現在建設中の大型休憩所。2015年3月末に完成すると9階建ての背の高い建物になる。

取材班を乗せて構内を視察するバス。カメラマンの横には東京電力の核物質防護担当者がマンツーマンで付き、撮影禁止の場所など細かく指示を出す。

汚染水を入れるフランジ型のタンク。パーツを組み合わせて作るため溶接型より安く早く完成させられるがトラブルのリスクもある。タンクの周りには堰が設けられ、万が一の場合に汚染水が流出しないようにされている。しかし、堰の外にも水たまりがある。

 現在、1期工事が終了した「新事務棟」は、以前は「暫定事務棟」という呼び名だった。そのため一部メディア(たとえばインターネットメディアのニコニコ動画)は「新事務棟」という名称を使わずに「暫定事務棟」と呼んでいた。そのことにも東京電力は細かくチェックを入れていた。

「以前は暫定事務棟と呼んでいましたが、これからは『新事務棟』という名称で統一をお願いします」

 と、再三にわたって現場の記者に注意を促したのだ。

 東京電力が言う「新事務棟」は、1期工事が終了する7月下旬から400名の職員が入る。2期工事が終了して建物が完全に完成する9月下旬には、合計約1000名が作業できるようになる。たしかに「新事務棟」という名称がふさわしいように思える。

 しかし、実際には東京電力社員約1000名は、ずっとこの「新事務棟」で作業をするわけではない。福島第一原子力発電所の敷地内には2015年度末完成予定の「新事務本館」を建設する計画が進められており、これが完成すれば東京電力社員は「新事務本館」に移るのだ。

 東京電力社員が「新事務本館」に移った後の「新事務棟」には、協力企業が入ることになっている。すなわち、東京電力を主語にすれば「暫定事務棟」で間違いはない。しかし、その表現では協力企業を軽んじていると取られることを東京電力は危惧しているのかもしれない。

 現在、東京電力福島第一原子力発電所の構内では、1日約6000名が原発事故の収束作業にあたっている。東京電力社員よりも協力企業の作業員の方が数としては多い。収束作業には協力企業の力が欠かせないからだ。

 今回、事前には視察ポイントとして予定されてはいなかったが、原発構内では現在、「大型休憩所」が建設中だ。

 これは今年1月に着工されたもので、2015年3月末に竣工予定の鉄骨9階建ての建物である。延べ床面積は6400平方メートル。1階がホールボディーカウンター受検施設、2階が事務室、3〜6階が休憩所、7階が食事スペース、8〜9階が機械室となる計画だ。現在も構内に仮設の休憩所も設置されているが、大型休憩所が完成すれば、作業員の環境は改善されると見込まれる。

「核物質防護」を理由に
撮影不可ポイントがどんどん増える。

 筆者が経験したこれまでの視察と大きく異なることを書きたい。それは東京電力が撮影の機会を厳しく制限するようになってきていたことだ。これは現場公開に先立って行われた事前説明会の場からも感じられた。

「発電所構内の車両移動中においては、原則撮影禁止です」

 東京電力からそう説明を受けた時、筆者は違和感を覚えた。これまでに参加した現場公開では、筆者はカメラを持ちこめなかったものの「代表撮影」のカメラは車両移動中も基本的にカメラを回しっぱなしにしていたからだ。

 この点を筆者が質問すると、東京電力はこう回答した。

「あくまでも原則、ということで、これまでと同じ対応です。撮影に際しては、現場公開中、核物質防護担当者がカメラマンに随行するので、撮影制限エリア、対象物は指定するので指示に従ってください」

 「核物質防護」とは、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」及び関連法令によって定められたものだ。「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則 第九十一条 第二項 第二十七号」には、次のような記述がある。

「当該事項を知る必要があると認められる者以外の者に知られることがないよう管理すること。この場合において、次に掲げる特定核燃料物質の防護に関する秘密については、秘密の範囲及び業務上知り得る物を指定し、管理の方法を定めることにより、その漏洩の防止を図ること」

 簡単にいえば、原子力発電所構内の出入口、突入防止用の障害物、建屋出入口(扉)、フェンス、ゲート、カメラ等を「撮影禁止」とすることだ。

 最近になって、東京電力はマスコミの報道にも「注文」をつけるようになってきた。たとえば一部報道機関による福島第一原子力発電所の空撮映像に「建屋の出入口、フェンス、センサー、カメラなどの核物質防護設備」が映っていることを見つけると、「望遠レンズ等で撮影をすることはご遠慮いただきますようお願いいたします」というメールを報道関係者に送っている。

 今回、いままでと一番違った点は、「撮らないで下さい」というエリアが原子力発電所の「構外」まで広がっていた点だ。

 福島第一原子力発電所の入口から西に300mほど行った「構外」の道路には、今年に入って警察による検問が行われている。この検問場所は今年2月26日の現場公開時には撮影されていたが、今回は検問の手前から「撮影しないで下さい。カメラの電源を落として下さい」と東京電力は求めたのだ。これは明らかに行き過ぎだ。

 そんなこともあり、原発構内を取材している際は、

「ここは撮らないで下さい!」

「信号を曲がったら左側は撮影禁止です」

「ここから先はカメラの電源を落として下さい」

 という東京電力の核物質防護担当者の声がいつもより大きく聞こえた。

 フェンスやカメラがあれば「核物質防護」を盾に、報道陣の撮影は制限される。そして敷地内には、新たに監視カメラやフェンスが設置されている。このままいけば、構内の「撮影禁止」の場所はどんどん増えていくのではないだろうか。

凍土遮水壁の前段階で
「水が凍らない」誤算。

 今回の視察ポイントである凍土遮水壁には、政府が320億円の税金を投入する。これは1日400トンの地下水が原子炉建屋に流入し、汚染水となることを防ぐための工事だ。

 計画では、1〜4号機の周囲1500mを取り囲むように1550本の鋼管を地下30mまで埋設。その凍結管の中に「ブライン」と呼ばれるマイナス30度の液体(塩化カルシウム水溶液)を循環させて土を凍らせ、その壁で地下水の流入、建屋からの汚染水流出を防ごうとしている。

凍結管を入れる「ケーシング」と呼ばれる部品を地下30mまで穴を掘りながら埋めていく。

パネルを使いながら報道陣に説明するが、全面マスクでの会話、現場の作業音がするため聞き取りづらい。

今回見学した凍土遮水壁工事現場(8ブロック)。バスの降車ポイントは東京電力によって予め決められている。

模型を示しながら記者に説明する鹿島建設の担当者

海側から見た凍土遮水壁工事現場。右側が4号機原子炉建屋。コンクリートの壁による遮蔽効果で空間線量は以前より下がったとはいえ、東京電力の測定で36μSv/hだった。

 凍土遮水壁の工事は今年6月2日から始まり、7月からは作業時間が午後5時から午後11時の夜間工事となった。熱中症のリスクは日中の作業よりも低くなっているように思える。今回公開された4号機南側の8ブロック(凍土遮水壁の工事現場は全部で13ブロック)での作業も順調に進んでいるように見えた。

 しかし、それでも「本当に凍土遮水壁は成功するのか」という疑問は残る。

 実は2号機、3号機のタービン建屋から海側の取水口付近に伸びるトレンチ(トンネル・高さ、幅とも5m)が凍土遮水壁の建設ルートと重なっており、中には高濃度汚染水が1万1千トン溜まっている。その水を抜かないと凍土壁は作れないが、前段階の水抜き工事が難航しているのだ。

 トレンチ内の水抜きをするには、まず、建屋からトレンチへの水の流れを遮断する必要がある。東京電力は、建屋とトレンチとの接合部にセメントとベントナイトを詰めた袋を並べ、冷却液を流す凍結管を計17本差し込んで凍らせる計画を建てた。この作業は今年4月末から開始されているが、2ヵ月以上が経過するのに、いまだに凍っていないのだ(7月24日からは氷、25日からはドライアイスも投入し始めた)。

 トレンチの凍結と凍土遮水壁の工法は違う。しかし、水抜きのための凍結ができなければ、凍土遮水壁は作れない。福島第一原子力発電所の小野明所長は、免震重要棟でのぶら下がり会見で、次のように述べた。

「まだ(建屋とトレンチの接合部分の)水は十分凍っていないところがあるというふうに思っています。ただ、原因については我々としての推定ができています。その原因をきちんとつめて、その原因に対応するような対策を取ることになるかと思っています」

 凍らない原因について、小野所長はこうも述べている。

「我々も子どもの頃、水を流しておけば水道管が凍らないということがありますので、たぶんそれと同じような現象が起こっているんだというふうに思っています。ただ、一方で凍土壁のほうは流速の関係というのは全然、条件が違いますのであまり心配する必要ないと思っています」

 ちなみにタービン建屋とトレンチの間の水の流れは、最大でもわずか1分に2mm。1時間に12cmほどしかない。それでも凍っていないのだ。地下水の流量はもっと遅いとはいえ、心配になってしまう。

冷凍液を循環させるには
1年間で約1万9千世帯分の電力が必要。

 もう一つの不安材料は、凍土遮水壁を作るための凍結管を埋設する作業自体が本当にうまくいくのか、という疑問だ。

 原発建屋の地下には、電源ケーブルが通るトレンチや配管などの埋設物が約800ヵ所ある。そのうち170ヵ所が凍結管の建設ルート上に重なっているからだ。

 凍土遮水壁の現場ではないものの、過去には作業中に誤って電源ケーブルを切断し、原子炉建屋の冷却が一時的に止まってしまう事故が起きている。作業には細心の注意が必要になる。

 また、凍結管の中を通る「ブライン」(冷凍液)を循環させるためには261kWの冷凍機が30台も必要なのだ。

 この冷凍機を動かすための電力が年間でどれほどのものになるかを試算してみた。

 261kW×30台×24時間×365日=6860万kWh

 一世帯あたりの電力消費量を月あたり約300kWhとすると、冷凍液だけで1年間に約1万9千世帯分の電力を消費する計算だ。東京電力はこのランニングコストがいくらになるかについては明らかにしていない。

 しかも、現場で鹿島建設の担当者から凍土遮水壁の耐用年数を聞いて驚いた。

「6年間は耐用できます」

 東京電力の汚染水対策は後手後手に回っている。地下水対策には凍土遮水壁だけでなくいくつかの候補があったはずだが、なぜ凍土遮水壁が採用されたのかも不透明なままだ。

 たしかに東京電力の計画では、2020年度には建屋内の水もすべて抜くことになっている。しかし、これはあくまでも「実際に凍土壁が機能し、地下水の流入を防いだ上での計算」だ。もし凍土遮水壁が機能しなかった場合はどうなるのか。今後も引き続き収束作業には注目していかなければならない。

造花が飾られたホールボディーカウンター、
BGMにはオペラが流れていた。

 最後にこぼれ話を一つ。

 原発構内取材をする際には、入域前と退域後にホールボディーカウンターを受検することになっている。筆者もこれまで原発の現場公開に参加する際には必ず受検してきたが、今回はホールボディーカウンターの椅子の背の部分にすべて造花が飾られていた。

 ちなみに筆者のホールボディーカウンターの計測結果は次の通り。

入構前 1459cpm
入構後 1246cpm

 入構後のほうが数値が下がっているが、これは誤差の範囲と見ていいだろう。また、今回の構内取材を通じての積算被曝線量は49μSvだった。過去2回の被曝線量(76μSv、59μSv)よりは少なく抑えられている。

 一日の原発取材を終えてホールボディーカウンター受検施設を去る時、オペラのような音楽が流れていることに気づいた。これまでには気づかなかったことだ。これは「癒やしの効果」を狙ってのものなのだろうか。

 今回の現場公開中、構内で出会った作業員の皆さんは報道陣に行き会うと、ホールボディーカウンター受検や入退域の順番を譲って待ってくれていた。日々、厳しい環境の中で作業に取り組む皆さんには本当に頭がさがる。

 一日も早く、穏やかな日々を迎えられることを心から願っている。

←前へ

電話でのお問合せ0120-701-234※携帯電話・PHSからもご利用いただけます(平日9時~19時、土曜9時~18時、日・祝日休み)
Copyright ©2000-2014 CATALOGHOUSE LTD. All rights reserved.