2014年12月04日

誤解され続けた点取り屋、柳沢敦の不幸

柳沢にとって不幸だったのは、選手としての自己認識が完璧に間違っていたことだ。万能FWだとか、ゴール以外の仕事ができる選手だとか、ラストパスのうまいセカンドストライカーだとか。柳沢はそんな選手ではなかった。典型的な点取り屋型のボックスストライカーだったのだ。

一番致命的な勘違いは、自身を「2トップを組むパートナーに合わせて柔軟にプレーできる万能型FW」と思っていた点だ。しかし、実際には一般に思われてるよりも融通の利かない選手だった。

相棒に無理に合わせようとして上手くいかず、しばしば自分だけでなく、その相棒も機能不全に追い込んでいた。

柳沢のプレー集を見ても分かるとおり、柳沢のゴールは中盤の低い位置からのロングパスをDFラインの裏で受け、そのままフィニッシュに持ち込むパターンが多い。

短いスルーパスを受けるシーンが少ないのは、敵陣深くまで攻め込んだ場合に裏への飛び出しよりも下がってポストプレーを受けようとするためだろう。

柳沢程度のスピードでロングパスに反応するためには、最前線にポジショニングしていなければならない。そのためセカンドストライカーの位置で起用されると一番得意なゴールパターンが封じられることになる。

柳沢は技術があり、スピードもそこそこ、運動量豊富でDFとのオフ・ザ・ボールの駆け引きに強かった。ここまでは一般的な柳沢の印象と同じだろう。

けれども、パスセンスは凡庸だ。ポストプレーからのパスは上手かったが、本人がレシーバーとして優秀なこともあり、ラストパスの出し手としての能力は磨かれなかったようだ。

事実、柳沢のアシスト数は意外なほど少ない。だいたい1年に1アシストのペースだ。

点取り屋型の佐藤寿人と比較すればわかりやすい。スーパーサッカーのデータによると2001年以降の1試合平均ゴール数、アシスト数で柳沢は、佐藤寿人を一度たりとも上回ったことがない。

柳沢のセカンドストライカーの能力は水準以下である。低い位置でボールを持っても、単独で局面打開できる個人技はなく、決定的なパスを出せる選手でもない。パワーがあるわけではないので中長距離のシュートも大したことはない。

サイドに流れてクロスを上げることもあったが、それも標準レベルを超える質を持っていたわけではなかった。

柳沢のアシストはゴール前でシュートを打たずにフリーの味方にパスを出すパターン。柳沢にDFを引きつけられたぶん、他の味方のマークは必然的に甘くなる。パスセンスなど無くとも、視野が広くゴール前で冷静さを保てる選手ならアシストできるという寸法だ。

ちなみに佐藤寿人も、このパターンでアシストを量産し、チームアシスト王になったりしている。

柳沢と相性の良かったFWというと森島や鈴木がいる。逆に悪かったのが高原や赤嶺、ウィルソンである。

自分が最前線でゴールを決める責任があると思っているときの柳沢は非常に頼りになる。スルーパスだけでなく、クロスにも対応できる。シャドーワークに秀でた森島とのコンビネーションプレーには一見の価値があった。

一方で他に点取り屋型のFWがいると思い込んでいる時の柳沢は最低だ。自分の特長を把握できていない選手がチームメートのプレースタイルを理解できているはずもなく、変に合わせようとして2トップ両方が機能不全に追い込まれる形になりがちだった。

タイプが丸かぶりの赤嶺はともかく、高原とウィルソンは、本来なら相性のよいFWだった。しかし、柳沢が自らの手ですべてをぶち壊しにしていた。

高原もウィルソンも、セカンドストライカー型の点取り屋である。最前線でDFとマッチアップすると消されやすく、やや引いた位置で前を向いてボールを受けた際、その進化を発揮する。

DFラインとの駆け引きに強く、スペースメークに長けた柳沢とは、本来ならベストパートナーといって良い関係を作ることができるはずだった。だが、そうはならなかった。

点取り屋型のFWが居るとき、柳沢はサポート役に徹しようとし、前線から離れ、セカンドストライカーとして中盤に下がってプレーしようとする傾向があった。

柳沢が頻繁に中盤へ下がってしまうため、高原やウィルソンが前線で孤立してしまっていた。トップが機能していない状況でセカンドストライカーとしての柳沢にできることは少ない。2トップ両方が機能不全になるのも仕方のない話である。

この柳沢の自爆に何度も巻き込まれた高原は悲惨だった。タイプの近い玉田や鈴木とは相性が悪く、相性抜群なはずの柳沢がこれでは・・・。

柳沢は「点を取るだけがFWではない」というコメントを残しているが、そのセリフは玉田のようにアシスト能力の高い選手が言うべきセリフだった。柳沢が点取り屋として前線でのプレーにこだわっていれば、2006年のW杯はまた違った結果となったかもしれない。

ただし柳沢のオフ・ザ・ボールの動きには多少欠陥がある。マークを外すことに重点を置きすぎて、良い状況でボールが持てないことがあった。

ゴールからの逆算がうまく出来ていないので、角度がないところからのシュートが結構多い。技術があるので、それでも点を奪えるけど、難易度の高いシュートが多いため、どうしてもシュートミスが増えてしまう。

つまり、マークを外すのは上手いけど、良い状況でボールを受けるのは下手ということ。

その欠点も点取り屋としてプレーし続けていれば解消された可能性はあると思う。

もったいない、もったいない。

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