先日、大阪・堺の拘置支所で、複数の男性受刑者が消毒用アルコールを元に『カクテル』を作って飲酒していたことが発覚しました。(※1)
その問題となった受刑者は、刑務として受刑者たちの食事を作るいわゆる『炊事夫』だったそうです。
ある元受刑者の手記には(※2)
拘置支所の炊場に行くということはエリートです。危険作業が多い上、食べ物を扱う工場なので、分類段階で成績の良い人が回される傾向があります。
とあるように、刑務所内で炊事夫になることは受刑者の憧れだそうです。
懲役刑の受刑者たちは、刑罰目的、さらには運営費負担削減のために、刑務所内で何かしらの職業に就きます。その職種はさまざまで、受刑者はどんな職につきたいのか希望を伝えることができるようなのですが、実際には学歴や職歴、罪状などが大きく関係し、希望の職種に就けることはほぼ皆無なんだとか。
それではいったいどのような職業(刑務作業)が人気なのでしょうか。『図解 刑務所のカラクリ』(※3)の中に塀の中の人気作業についての記述がありました。それによると、以下の5つの作業が特に人気のあるものだそうです。
■炊事夫
炊事作業全般を請け負います。朝早く夜遅いハードな仕事なので脱落する人も多いそうですが、その分メリットがいっぱい。
最大のメリットは『延長食』と呼ばれるおやつが食べられること。刑務所内では食料のやりとりは通常懲罰対象なので、与えられた食事以外は摂ることができません。ですが炊事夫になることで、人よりも多く食べることができ、そのために人気の職業になっているようです。
また通常の受刑者は、夏場でも週3回程度しかお風呂に入れませんが、炊事夫に限っては衛生上毎日入れるため、キレイ好きにはたまらない特典。
■営繕(えいぜん)夫
刑務所内やその関連施設の修理、修繕を行う職業で、かつて大工や左官職人、電気工事技師などの専門職についていた者が優先して就ける模様。ほかの職業に比べ行動範囲が広く、刑務所外での作業も多く、自由度が高いことが人気の理由。
■雑役夫
特別目立った学歴や職歴がない受刑者たちが憧れてやまない職業がこの雑役夫。受刑者たちの身の回りの世話をする仕事で、日用品の購入受付や洗濯物の手配などを請け負います。刑務所内のさまざまな受刑者と触れ合う機会が多いことから、たくさんの情報が集まって事情通となり、刑務所内でうまく立ち回ることができるようになるんだとか。
■図書夫
刑務所内のエリート中のエリートのみ就くことが許される受刑者の羨望を集める職。仕事内容は新聞や雑誌、書籍の管理など。肉体労働の多い刑務作業の中では珍しい事務職で、専用の机が用意されるなど労働環境もバツグン。なれる人はごくわずかで、高い学歴、銀行員や証券マンといったホワイトカラーの経歴、また罪状も業務上横領や証券取引法違反などが多いよう。
■計算工
図書夫同様、刑務所内のごくわずかなエリートしか就くことができない職。所内の各工場から上がってくる生産実績をパソコンで分析して報告書を作成したり、受刑者に支払われる報奨金の計算などを行う職で、専門知識が必要。ほかの受刑者に比べはるかに待遇がよく、羨望の的。
以上5つの職が人気ベスト5のようですが、どの職も規律違反をとられることが少なく、『仮釈放率』が高いのが特徴。
これらの職につくには、高い学歴や知識or技術が確認できる職歴が重要のようです。
上記のような憧れ職業につけないほとんどの受刑者たちは、一般生産工場に配属されることになるようです。そこでは私語厳禁、脇見をすることすら懲罰対象になる厳しい環境で、監視の目に怯えながら作業をすることに。
計算工や図書工は、刑務官と上司と部下のような関係を築くことができ、私語も許されるようなので、かなりの待遇差があるようです。刑務所の中もわれわれの社会同様、格差社会なのかも。
さてそんな一般生産工場で作られた製品は優れたものが多く、高い評価を得ているんだとか。『CAPIC』(刑務所作業製品の商標)は、一般の人でも購入可能で、ネット通販も行っています(※4)。
特に人気なのは、『函館刑務所のマル獄シリーズ』で、新商品が出るや即完売になるほど。また自分たちの商品が社会で人気が出たなどの情報は伝わるようで、それが受刑者たちの日々のモチベーションになっているようです。
どんな環境下にいても、人間は仕事にやりがいを見出したい生き物なのかもしれませんね。
【参考】
※1. 産経ニュース/「まさか飲むとは…」受刑者が消毒アルコールでカクテル 飲酒 堺
※3. 坪山鉄兆(2009)『刑務所のカラクリ』 彩図社
※4. 刑務所作業製品CAPIC
【知られざる刑務所世界シリーズ】