新幹線の鳥飼車両基地で進めている井戸の掘削工事をめぐり、摂津市は9月29日、工事の禁止を求める仮処分を大阪地裁に申し立てた。だが、JR東海は翌30日、計画を着工した。(矢野宏 新聞うずみ火)
◆地元住民の訴え~地盤沈下で自宅全体が傾く...
その日、一人の地元住民が掘削工事反対を訴えて鳥飼基地の入口に座り込んだ。新在家の鴻池勝彦さん(73)。亡き父親が建てた自宅は築50年。新幹線が開業した年である。
当時、旧国鉄は新幹線車両の洗浄用の水を確保するため、車両基地内に井戸を掘って1日2000トンから2500トンの地下水をくみ上げていた。その結果、周辺地域で地盤沈下が多発し、特に新在家(しんざいけ)地域では最大で50センチも沈下した。
鴻池さんの家は、全体が西側に傾いているという。実際に、廊下の東側にゴルフボールを置いて手を離すと、西側へ勢いよく転がっていった。ガラス戸を閉めると、自動ドアのようにスーっと開いた。
「西側に重いものを置くなと、親父はよく言っていました」という鴻池さん。
「修理すると1000万円以上かかるそうです。年金生活の身としてはもう直せない。家をできるだけいい状態で子や孫に引き継がせたいのです」という思いは切実だ。
光蓮寺住職、西村了然さん(76)は、旧国鉄が摂津市と環境保全協定を結んだことを覚えている。JR東海が再び掘削工事を進めていることを新聞報道で知ったとき、「常軌を逸していると思った」という。
「地盤沈下は面の問題。目に見えて影響が出るまでわからない。だが、そのときはもう手遅れなのです」
西村住職は鳥飼地区の自治会連合会で話し合い、11月4日から掘削工事に反対する署名活動が始まった。
摂津市は10日、工事を中止するよう求める裁判を起こすための議案を市議会に提案。議案は臨時市議会で全会一致で可決された。裁判では「協定」の及ぶ範囲に茨木市も含まれることを確認するよう求めることにしている。
森山市長は、
「JRの行為は人災。再三にわたって面談を申し入れたが、かなわなかった。仮処分の申請も聞く耳を持たない。争いは避けたかったが、8万5000人の市民の安心・安全を守るためにもこの道しかない」と述べ、「市民を含めて『オール摂津』でのぞむ」と力強く語った。
◆リニア新幹線計画と原発の関係...
今回の掘削工事の背景にリニア開設があるのではないかと指摘するは声は少なくない。
リニア新幹線は磁力で車体を10センチ浮上させ、最高時速500キロで走る。2027年に東京―名古屋間を40分で、45年には大阪まで最速67分で結ぶ。9兆円もの建設費はJR東海が全額負担し、来年春にも本格的な工事が始まる。だが、課題は山積している。
11月16日に京都市内で開かれた「リニア新幹線環境問題勉強会」で、「リニア・市民ネット」代表で慶応大学名誉教授の川村晃生(てるお)さんが問題点を指摘した。
まず経済性の問題で「最初の見積もりで済むはずがない」という。東京―名古屋間の86%はトンネル。とりわけ南アルプスを貫く工事は難航が予想され、工費がさらに膨らむと指摘する。
「JR東海は2兆円の借金を背負っており、前社長も『リニアだけでは絶対ペイしない』と発言している。当てにしている東海道新幹線は人口減少と高齢化で利用客はますます減っていく。赤字が出れば国庫からの補てん、税金の投入です」
さらに、JR東海がリニアのエネルギー消費量を東海道新幹線の3倍と発表していることに触れ、川村さんは「リニアの消費電力は、大阪までの開業時に1時間あたり8本運行した場合で74万キロワット。原発1基分です。JR東海名誉会長の葛西敬之(よしゆき)氏が原発の再稼働を主張していることと考え合わせると、リニア計画と原発は切り離しできない」と訴えた。
このほか、南アルプスにトンネルを掘ることによる地下水への影響、電磁波の人体への影響など不安な点は多い。
JR東海は公共交通機関として乗客の安心・安全を守る義務がある。同時に、路線沿いで暮らす住民が安心・安全に暮らせるように努める責任もある。(おわり)
【矢野宏 新聞うずみ火】
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