JR東海と大阪府摂津市が全面対決(上) 新幹線取替車両基地めぐり

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新幹線の鳥飼車両基地で進めている井戸の掘削工事をめぐり、地元の大阪府摂津市が工事の中止などを求めて大阪地裁に提訴した(大阪府摂津市にて撮影:矢野宏)

新幹線開業50周年という記念すべき年に、JR東海と地方自治体が司法の場で全面対決することになった。

JR東海が新幹線の車両基地「鳥飼車両基地」で進めている井戸の掘削工事をめぐり、地元の大阪府摂津市が11月14日、工事の中止などを求めて大阪地裁に提訴した。
摂津市は車両基地周辺が地盤沈下したことで、JR東海との間で「地下水のくみ上げはしない」とする協定を結んでいる。にもかかわらず、JR東海が井戸の掘削工事に踏み切ったためだ。摂津市の森山一正市長は「争いは避けたかったが、8万5000人の市民の安心・安全を守るためにも裁判という道しかなかった」と語っている。(矢野 宏 新聞うずみ火)

◇JR東海、新幹線車両の洗浄用の水を確保が地盤沈下に

鳥飼車両基地は新幹線開業の1964年に開設された新幹線の車両基地で、JR東海に属している。東西2キロ、南北に230メートル。面積は37ヘクタールと甲子園球場9個分の敷地があり、うち97%が摂津市で、3%は茨木市に立地している。

新幹線開業直後、旧国鉄は新幹線車両の洗浄用の水を確保するため、車両基地内に井戸を掘って1日2000トンから2500トンの地下水をくみ上げていた。その結果、周辺地域で地盤沈下が多発し、特に新在家(しんざいけ)地域では最大で50センチも沈下した。

摂津市は73年に地下水のくみ上げを止めるよう要請。77年には旧国鉄との間で「環境保全協定」を締結した。国鉄の分割民営化後、JR東海が99年にその協定を引き継いだ。

環境保全協定の8条にはこう記されている。

「事業者は、地下水の保全及び地域環境の変化を防止するため、地下水の汲み上げを行わないものとする」

その年、摂津市は市内全域で井戸の掘削を原則禁止する「市環境の保全及び創造に関する条例」を制定した。それ以降、市内の地盤沈下は沈静化している。

◇JR東海、1日750トン地下水くみ上げ計画

ところが、今年6月、JR東海は摂津市と協議もないままに、工業用水法上の井戸使用許可申請に向けた事前協議書を大阪府に提出。府から連絡を受け、摂津市はJR東海が再び基地内で井戸を掘削しようとしていることを知る。

JR東海の計画によると、車両基地内で井戸を2基掘削して1日750トンの地下水をくみ上げて、車両内のトイレ洗浄水などに使用するという。

摂津市がJR東海に再三、撤回を求める要請書を送ったところ、JR東海から「災害時の新幹線の安定的な遂行に必要な水を水道水と地下水の両方から調達できるようにする目的で井戸を掘ることを計画している。震災時には1日も早く国民の足を復旧しなければならないという使命を担っている。そのために水は必要不可欠」という回答が届いた。

協定違反ではないかという指摘に対しては、「茨木市域での掘削なので摂津市の行政上の管理区域を超えている。協定の適用を受けるものではない」と説明していた。

確かに、協定では「事業場で地下水のくみ上げを行わない」と定めているが、「事業場」の範囲は定義されていない。だが、摂津市側は「協定の前文には、『事業者の事業場を操業するに関し』」とあり、「この協定は鳥飼基地の茨木市域を含めた敷地全体に適用される」と主張している。

さらに、「水脈は地下でつながっている。再び地盤沈下が発生したらどうするのか」と反発している。

JR東海労働組合新幹線関西地方本部は「JR東海が車両洗浄などのための水道代は月2000万円かかり、摂津市に払っているのはその3分の1の750万円」であり、社内では「リニア新幹線の開設に向け、経費削減が進められている」という。(つづく)
【矢野宏 新聞うずみ火】

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