『WHITE ALBUM2』 ネタばれインタビュー最後の公開
コミック『WHITE ALBUM2』最新第3巻の発売と、ブログ終了までの最後の記念に、かつて『ゲーマガ』に掲載されたインタビューを再掲載します。
このインタビューはPCの完結編『WHITE ALBUM2~closing chapter~』の発売に合わせて『ゲーマガ』2012年3月号に掲載されたもの。ゲームをすべてプレイし終えた後に読んでもらうことを前提とした「ネタばれ」となっています。なので、まだ「結末を知らない」人は、絶対に読まないほうがいい内容です。「ホワルバ2」は名作として高く評価されていますが、「ネタばれ」してしまうとその楽しみを大いに損ねてしまいます。なので、閲覧には十分ご注意ください。逆を言うと、このインタビューは、それほどまでに核心に迫った内容が言及されています。
☆記事はあえて当時のまま掲載しています。
【「ゲーマガ」2012年3月号】
注意!
ネタバレ満載なので
プレイ前には絶対
読まないでください!
(ゲーマガ編集部より)
裏切る必然性と
痛さの真実味を目指して
発売日から入手困難になるほどの好評を博している『WHITE ALBUM2』。今月は、シナリオの丸戸史明氏、原画のなかむらたけし氏、プロデューサーの下川直哉氏に、ネタバレ解禁で『WHITE ALBUM2』について語っていただいた。もし『coda』というキーワードに覚えがないのなら、これ以上読み進めないように! 人生損しますよ?
――丸戸さんが『WHITE ALBUM2(以下、WA2)』でやろうとしたことはどういったものだったのでしょうか?
丸戸 この作品のコンセプトとしては、『WHITE ALBUM(以下、WA1)』を踏襲するというのが根っこにあったんですけど、『WA1』になかったものを追加したいというのもあったんです。それはなにかというと、『WA1』では主人公とヒロインの「なれそめ」がないんです。
下川 由綺との出会いですね。
丸戸 最初のところで、質問形式で状況説明は入りますけど、それだけで「浮気だ」と言うには弱いと感じていたんです。「痛さ」を感じるための積み上げとしては足りない。なので、ちゃんとプロセスを踏んで恋人になって、それを裏切る。そこまでやるともっと痛い、キツイ話で、ユーザーさんの感情を揺さぶれる話が作れるんじゃないかって思ったんです。
――なるほど。
丸戸 でも、それだけだと主人公に対して擁護のしようもなくなります。そこでどうするかというと、浮気相手とのなれそめもしっかり描くわけです。つまり、本命も浮気相手も、それだけの因縁や経緯があれば、どっちに流れてもしょうがないということになるんじゃないかと。片方を裏切るという痛さもあるんだけれど、もう片方に流れる必然性もあるので、納得いく部分や、憧れる部分もある。そうやってシーソーというかやじろべえの両側のおもりを「両方とも」重くしました。
――その重さが物語の重さになっているんですね。
丸戸 そう、どっちに傾くとしても、そのまま倒れたときには大変なことになる。そのくらい重い話をやりたかった。
下川 どっちに傾くのかだけじゃなくて、支柱が壊れることも含まれてるという。
丸戸 壊れてしまうのが世間で「かずさノーマル」と言われているルートですね。ダブルヒロインが重すぎますね。
――でもヒロインは5人いますよね。
丸戸 それはさすがにフルプライスの商品で、ヒロインが2人だけというわけにはいかないですし。しかも、『introductory chapter(以下、ic)』と『closing chapter(以下、cc)』で分割にしたのでさらにリスクも大きかったですからね。コンセプトの部分で冒険していたのは自分でも認めるところなので、3人のシナリオも頑張りました。結果として2本になってしまったこの企画ですが、実現してくれたことに感謝しています。
――前後編に分けたことによる効果はあったと感じていますか?
丸戸 分けたことによって発売までの期間を補完する必要が出てきて、小説やドラマCDで間を埋めていったんです。そのことが、さらに効果を上げていったと思いますね。
――特典の小説を読むのと読まないのとではキャラクターの見え方とか、感情移入の仕方がまったく変わってきます。
丸戸 そこは分割したことに対する怪我の功名的な部分ですね。あれがなければ、それほどの評価を得られなかった可能性も、もしかしたらあるかもしれないと感じています。
最初のプレイは
人生の選択として
下川 今の話もそうですけど、いい作品ってねらいすまして出るもんじゃないんだなと、あらためて思いました。奇跡的な偶然が重なって、どんどんよくなっていく。
――いい方向へ、いい方向へと転がっていったと。
下川 結果としてですけどね。ある一線を越えるには、そういう流れも必要だなと。
丸戸 雪菜のいう「どうしてこうなるんだろう?」というのが逆転で、実現できた(笑)。
下川 でも、先にシナリオを読んで人気が出ると確信していなければ、分割してリリースすることはありませんでしたよ。音楽的には雪菜とかずさをイメージした曲は『ic』だけにとどめて、『coda』まで封印するという区切りを付けられたのはよかったですね。『coda』の導入部分が生きるのもそれがあったと思いますね。丸戸さんも(企画屋の)小林さんも現在の『ic』と『cc』のところで分けるのが一番きれいだという意見でしたし。
丸戸 小林は「その代わり1年以内に出さないと」って釘を刺してましたが(笑)。
下川 それが実現できなかったことについては、プレイしたユーザーさんにはわかっていただけたんじゃないかと。圧倒的な物量でしたし。なかむらは、それをもろにかぶったわけですが。
なかむら 今回アニメーターさんに入っていただいたわけですが、物量的な面でもこれは誰かに助けてもらわないと無理だろうとは思いましたね。『ic』が終わった段階ですでにそういう話が出ていましたが、今回は難産でした。
丸戸 とあるルートでは、いきなりエンディングでドカーンと枚数が増えたりしますしね(笑)。
――『coda』の雪菜エンドですね。そういえば、あれが「本当のエンド」という意図があるんでしょうか?
丸戸 いえ違います。どのエンディングが「真」だとか、難易度が違うから、こういう順番に解かせたいんじゃないかと言われていますが、そういうのはありません。じつは基本的にキャラ選択における攻略制限は一切なくて、原則として1回目のプレイからどのエンディングにも行くことはできます。というのは、1回目のプレイを本当の勝負にしてほしかったからなんです。つまり、このゲームは1回目のプレイがあなたの人生の選択です。もしあなたがこういう状況に陥ったらたどり着く結末はこれですよ、と。だからこそ、難しいエンディングというのは、状況的にそうなる可能性が低いというだけです。全体としては雪菜とよりを戻す可能性が一番高い。『coda』でもそうだと思います。『cc』の3人のエンディングを迎える可能性もそれなりにあるでしょう。でも、かずさのエンディングに至る可能性は非常に低い。そんな普通の人生の選択でもありえる難易度の違いも踏まえて、みなさんが春希になったときの選択の結果だと思ってほしいということです。
下川 レビューなどで、このエンディングがトゥルーじゃないかとか書かれていたりしますが、そうではありません。
丸戸 選択肢も「主人公ならこうするだろう」「常識的にはこっちだよな」というものが必ずひとつはあるように作ったつもりなので「なんでこんな選択をするんだ、この鬼畜主人公!」なんて思われる場合は大抵そういう選択をしているからで、主人公が鬼畜な方向に流れたとしたら、それはプレイヤーさんの性格が招いた結果ですね(笑)。
――もし、素でそれを選んでいたのなら、“そういうこと”なんですね(笑)。
丸戸 こちらとしては「ここでそういう選択をしたら、こういう結果になる」というのを示しているだけですから。もちろん、それ以外の派生の可能性は人生を送っていればあったかもしれません。もしかしたら、コンサートの会場でかずさと出会えたかもしれない。けれど物語としては、展開がドラマチックになる可能性だけつまんでいますから、そういう物語的に「おいしいところ」だけ選ぶと、『cc』でかずさと再会するルートっていうのは僕には作れません(笑)。ですが、もちろんそういう展開もありえるとは思いますので、ユーザーさんがそこを補完したり、想像の翼をはばたかせることはどんどんやってほしいなと思いますね。
――いわゆる「薄い本」の出番ですか。
丸戸 ちなみに、主人公の選択とその後の行動には整合性があるようにしているんです。『cc』の雪菜ルートにいくときの春希は「八方美人」だと誤解されがちなんですけど、あれは昔の、付属時代の春希になる必要があるんですよ。つまり、誰に対してもお節介を焼くような「最初に出会った頃の春希」のことが雪菜は好きなんです。だからみんなに平等に優しくして、だけど、雪菜をちょっとだけ贔屓をしてくれるというのが最高にうれしいんですよ。だからそうした選択をすれば雪菜ルートに行くようになっているんです。
すべては『coda』のために
――あのコンサート会場での選択肢はダミーなんですね。
丸戸 ダミーです。気づいてくださっている方もいらっしゃるようですが、あれは『coda』を隠すための仕掛けのひとつです。グレーアウトするという選択肢システムそのものが『coda』を隠すためのものなんです。
――『cc』の中にかずさに至るルートがあるように思わせるためなんですね。
丸戸 それを自然にユーザーに納得させるために、システムとして組み込んで、フラグ管理もして、実際にそれが機能していると見せる必要があったんです。すべては『coda』を隠すためでした。回想シーンも、『coda』がオープンになるまでは全体数がわからないようになっています。非常に気を遣いましたね。
――システム自体が『coda』のために存在するとは(笑)。
丸戸 『cc』の雪菜エンドも『coda』を隠すために、誰も文句を差し挟む余地のない完全無欠のハッピーエンドにするべく、非常にがんばりました(笑)。
――上げるだけ上げて、落としますよね。
下川 音楽的な観点でも、聴き比べてもらえればわかるんですが、全編で一番幸せそうな曲があそこでは流れているんですよ。
丸戸 あそこに専用の曲が付くとは思っていませんでした。
下川 あそこはディレクターの二宮とも話していて、思い切りミスリードさせるのに全力注ぎましたから。
丸戸 ですよねー。
下川 『coda』は隠すのに必死でした。
――でもヒントは結構ありましたよね。
下川 発売前のインタビューで「かずさについては何も語れません」と言っていたのもそうですし、今読み返すと、それっぽいことは言っていると思いますよ。
丸戸 ゲームと同じで伏線をばらまいているんですよね。
下川 それとなく気づくようにしていながら、全力で隠しているという。けっこう葛藤がありました。
丸戸 そのために『cc』のヒロイン3人についてもがんばりました。けれど、さっきのシーソーで言うと、『ic』でかずさに思い切り振っておいて、『cc』1本で今度は雪菜に振らせて、最後また『coda』でかずさに揺り戻す。そういう、大きな揺り戻しをやらせたかったんですよね。『ic』をがんばって、『cc』をがんばって、『coda』ではもっとがんばって、最後まで一度もテンションを下げることなく書ききったかなというところはありますね。
下川 ありがたいですね。
丸戸 中だるみをさせないように気を遣いました。
――しかも読んでて無駄がないですよね。
丸戸 でもめちゃくちゃ長い(笑)。
下川 途中でやめられないくらいですからね。
――エンディングにたどり着くまで区切りが付けにくいですよね。
丸戸 しかも、「雪菜終わったから寝るか〜」と思ったら……。
下川 『coda』が始まる(笑)。
丸戸 アレが一番ひどいですよね(笑)。
下川 『coda』の入り口の衝撃を作るのが生き甲斐みたいになってましたからね。びっくりするユーザーの顔を想像しながら作るのが楽しかったですよ。
丸戸 Twitterで「雪菜終わった〜」→「うわぁー!」というのを見ると、「よっしゃー!」という気持ちになります(笑)。
――先に知ってしまっていると味わえないんですよね。しかも、あそこに至るまでの過程を考えるとその衝撃は大きいですよね。
「かずさエンド」の公式見解
――話題になっているかずさエンドの雪菜についてですが……?
丸戸 ひと言で済ませれば、雪菜は五体満足で心身共に健康な状態でございますので、安心してください。
下川 今でも私は歌っています、というのが真実です。
――曜子さんのセリフとかが思わせぶりなんですよね。
丸戸 あれはひっかけなんですよ。あそこの「POWDER SNOW」が流れるまでのみんなのセリフは恣意的に編集しています。
下川 曜子の性格を考えればああいういたずらをしてもおかしくないと思うんですけどね。
丸戸 でも、誤解されてる方もいるようですから、ここではっきりと「五体満足で障害が残っていたりはしません」と公式の見解を述べさせていただきます。
下川 最初のコンセプトから「人が肉体的に傷ついたりはしない」というのがあって、公言もしていたんですけどね。
丸戸 ただ、交通事故のところとか壊れかけていったようなところはシナリオの第1稿ではまだなくて、あとから追加したところではあるんですよ。もっとひどい目に遭わせよう、痛い方向に振っていこうと(笑)。最初は雪菜はギリギリのところでもちこたえて、もう会いたくないということで別れて終わるはずだったんです。けど、小林から「これは今までの丸戸シナリオの想定の範囲内だから、新鮮味も驚きもなくて、ほかのルートより弱い」と言われて、まだ全力を尽くす余地があるのならと、改稿させていただきました。
『coda』エンディング曲の
住み分け
下川 「かずさエンド」の雪菜の「POWDER SNOW」は、丸戸さんの指定では「第1希望は『POWDER SNOW』ですが、別の曲でもかまいません」と書いてあったんですよね。
丸戸 それは下川さんが「『POWDER SNOW』はもうイヤだ」と言っていたからですよ。
――「POWDER SNOW」でなくてもよかったんですか? 意味が変わってきますよね。
丸戸 そこは、クライアントである下川さんの意向もありますから(笑)。何度もアレンジしている曲だから、もう「POWDER SNOW」と戦うのがイヤだっていう気持ちもわかりましたし。
下川 「POWDER SNOW」を超える曲が新曲として作られることが前提になっているんですよね。それはプレッシャーでした。やっぱり、新しい曲を好きになってほしいですし。
丸戸 でも「closing」はねらいどおり評判いいじゃないですか。
下川 ありがとうございます(笑)。ボーカル曲はどれも評判いいですね。
丸戸 僕は「心はいつもあなたのそばに」が好きですね。「POWDER SNOW」臭がするというか。
下川 あれが『WA1』の系譜なんですよね。その系譜を作るにあたって、ひとつ「POWDER SNOW」の流れの曲が必要だろうと。もうひとつが、雪菜エンドの幸せな流れに合わせた、春希とかずさが曲を作るピアノとかギターをフィーチャーした曲。それと、もうひとつは『WA2』という丸戸さんが新たに描いてきたラインに1曲作りたかったんですよね。
丸戸 「届かない恋」「After All 〜綴る想い〜」「closing」という3つの流れですよね。
下川 都会的で現代的な『WA2』で作った新たな曲の流れに合わせて作ったのが「closing」なんですよね。でも、その住み分けが大変でした。同じゲームのエンディングを3つで、どれも切ない感じで終わりますからね。
丸戸 ネタがかぶるから大変なんですよね。それで作詞も苦労されたんですよね。
目標はパクられるほどの
ドラマ性!?
丸戸 結局『coda』ってメインは3つのエンディングなんですけど、実際は4つありますよね。あの4つめのエンディングも途中で付け足したんですけど、あれは春希の非常ブレーキなんです。3つだと、今までしてきた選択で自動的に雪菜を裏切るかしかなくて、引き返せない可能性がありました。直前で雪菜を裏切れないという気持ちになってもブレーキをかけられない仕組みだったんです。だから、ここで強制的にブレーキをかけて踏みとどまれる。最後の最後に春希が常識を取り戻したっていうエンディングを用意したんです。『cc』の3人に流れる場合も「そんなこと、思っていいわけがない」っていう選択肢が絶対選べるようになっているんですよ。それによってバッドエンドになるか、雪菜ルートにいくかするわけですが、いずれにせよ浮気しない選択になっているんです。そういう意味で雪菜を裏切るかどうかの選択肢は全部ユーザーに委ねてあるんです。
下川 裏切るにしても最後はユーザーの選択なんですよね。
丸戸 かずさを前向きに選ぶっていうルートはないのかという声もありますが、それは『ic』でそういうルートはないように作ってしまったので、かずさ派の人には申し訳ないんですが、そこは運命なので。
なかむら 『cc』の選べない分岐の先を作ったらありそうですけどね。
丸戸 そこは僕が作っても面白くなさそうだからつまんでません(笑)。うまく落とせる自信がなかったので。逆に、あれだけ運命に逆らって結ばれた2人っていうのはドラマチックで、僕は好きです。
下川 自分自身の身に起きないドラマだから面白いんですよね。
丸戸 このゲームの最終目標は「海外ドラマにパクられる」ことですから(笑)。
どっちが由綺で、どっちが理奈?
下川 予想以上に反響があったこともそうなんですが、予想以上にうまく「雪菜派」と「かずさ派」とに分かれましたね。
丸戸 雪菜はややこしい性格なので、『cc』でも盛り返しきれないかと思ったんですよね。
――あれだけいじめ抜くと雪菜につきたくなりますよね。それに、『WHITE ALBUM』がどういう作品かわかっている人からすると、そういう判断になるのかも。
丸戸 どっちが由綺で、どっちが理奈かっていうのもありますよね。でも、僕としては雪菜を由綺系に戻すつもりではいたんです。
――『ic』ではそこも揺らしているんですね。
丸戸 『ic』ではどっちが正ヒロインなのかわからなくしているんですよね。
――各ヒロイン派閥の党主として、ユーザーの反応に対してひとこといただけませんか?(笑)
なかむら かずさは救われないほうのエンディングで話題にのぼってますけど、最初の『ic』の段階でかずさはもう勝っているんですよ(笑)。そこで美しいまま記憶が止まっていればいいんですよ。
――その後、春希はずっと引きずっているわけですしね。
丸戸 大抵、僕のキャラ作りって、自分の理想とか趣味を凝縮したヒロインと、ディレクターとかそのほかの人たちの理想を実現したヒロインという、2本の柱でやっているんですよ。そういう意味ではかずさは、なかむらさんの理想を忠実に反映しているわけです。そうした「僕以外の理想を反映したほう」が概して人気が高いので(笑)。でも、等しく愛情は注いでますよ。そういえば、ほかのキャラクターについて話していませんね。
――おもしろいネタがあればぜひ(笑)。
丸戸 麻理さんを処女にしようって言ったのは下川さんですね(笑)。『WHITE ALBUM』は途中はグレーでも最後は真っ白にならないとダメだっていうんですよね。「え、でも弥生さんは?」って突っ込んだら、「それはそれ」って言ってましたけど。
下川 おっしゃるとおりで、何も言えません(笑)。
――サブキャラで言えば武也は人気ありますね。
丸戸 「かずさエンド」以降の、武也と依緒は、これから『WHITE ALBUM』を踏襲するんでしょうね。武也とまだ登場していない彼女との間に依緒が入っていく浮気ゲーって感じであそこは立場が逆転してるじゃないですか。依緒のほうが追っかけていく感じになっている。
――あそこからはじまる『WHITE ALBUM』があるわけですね。
下川 今回は脇役がしっかり役目を果たしていますよね。
丸戸 そういう意味ではあまり計算違いの評価をされたキャラクターはいませんでしたね。ちょっとずれたのが、注目が雪菜とかずさに集まりすぎたことぐらい。もうちょっと3人も目立つとよかったんですけど。
なかむら 千晶はもっと、けちょんけちょんに言われるかと思ったんですけどね。
丸戸 千晶は思ったより嫌われなかったですね。これは驚きでした。
――千晶は、欺したつもりが……という展開がよかったですよね。『WHITE ALBUM』だから許されているというのもありそうですね。
丸戸 『WA1』で弥生さんがいたから、許されたのかなというのはあるかも。
――初代『WA1』の色々な要素もかなり盛り込まれていますよね。
下川 『WA1』をうまくすくい上げてるという点ではスゴイと思いますね。愛を感じざるを得ないですよね。
――なかむらさんとしては、原画作業で印象的だったシーンとかはありませんか?
なかむら 絵としては出せるだけ出したので、あとはユーザーさんの評価を受けるだけです。エンディングの絵は気合いも入りましたね。とあるルートでは、エンディングなのにいきなり6枚とか描いたりしてますしね。そりゃ優遇されてると言われても仕方ないです(笑)。
――あれは『WA1』へのオマージュ的な演出ですよね?
なかむら 絵もスケッチ風ですしね。あれは丸戸さんのラフっぽくお願いしますという指定でしたね。
丸戸 つまり、「かずさエンド」でも6枚描きたかったと?(笑)
曲とシナリオの意外な相乗効果
下川 良い物語があると曲も気合いが入りますよね。明確なビジョンが出やすいですしね。シナリオが最初にあったので、曲も浮かびやすいんですよね。
丸戸 詞もかなりゲームに連動したものになってますよね。
下川 そういう意味では、「届かない恋」の詞も上手に使っていってくれてますよね。
丸戸 あれはキャッチボールみたいなモノですよね。最初に「届かない恋」があがってきたときにあまりにも直接的すぎでしょうっていったんですよ。これってどう考えてもかずさのことを歌ってる。これを雪菜が気づかないっておかしいよって。で、最初のシナリオではそのままだったんですけど、その後のドラマCDとかその後の展開で、つなげてすりあわせていったんです。そうすると物語に深みが出てきて、いいかんじになっていったんだと思いますね。
下川 雪菜がじつは気づいていたというふうになっていってましたもんね。
丸戸 最初からそういう深い意図があったわけじゃないんだけど、これだったらそう考えるよねって。
下川 そういったところはすごく助けられてますね。
丸戸 『ic』を分けたことで、後付けで膨らませることができたのは大きいですよね。
下川 「After All」も上原れなのCDをたまたま聴いていて、『WA2』にまんまだと思って持ってきたわけですからね。
丸戸 あの曲はかずさの曲だから雪菜の最後で流れるのはどうなんだという声もありますよね。
下川 どきっとしますよね。あれは確信犯でしょう。あの曲はドラマが動くときに流れる曲ですからね。
「不幸」の向こう側にあるモノ
丸戸 あと、今回は自分の意図を外れるキャラクターっていうのはいたなあと。今回かなりシナリオ寄りでキャラクターが勝手に走るのを押さえたんですけど、それでもやっぱり制御しきれなくてシナリオの殻を破るキャラクターが出てきましたね。「『coda』のノーマルかずさエンド」で雪菜が最後に帰ってくるというのは2周目のハズで、1周目は春希が雪菜のライブを見て1人寂しく帰るだけで終わるはずだったんですよ。なのに、どうしても雪菜が春希のことを見捨ててくれなかったという……。
――あれはある意味強烈ですよね。この子はここでも来てくれちゃうんだと。
丸戸 だから雪菜が嫌いな人には我慢ならないわけですね(笑)。あれは、本当に諦めてくれなかった。そこと「かずさのエンディング」でラブラブHを入れる予定だったんですけど、どうしてもそこに入れられなかった。さすがにそういう気持ちになれませんでしたね。
――あそこまでやったあとだと、そうかもしれませんね。
丸戸 今回の作品は「幸せの向こうには、必ず不幸がある」と提示しましたけど、この「不幸」という表現だとちょっと語弊があるかもしれません。僕が描きたかったのは、劇中で選ばれなかったヒロインの悲しみというよりは、選ばれなかった相手の強さとか尊さとか、ほんの少しの希望とか幸せ。主人公と結ばれる幸せではないけれど、そこにだって希望はあるし、成長した姿とか強さとか高潔さっていうのがあるよ、って。そういうふうに思っていただければと思うんです。本当に「雪菜もかずさも不幸にする奴は俺が許さない」という気持ちです。……とか言うと、「お前がそれを言うな!」と怒られそうですが、でもそう突っ込んでいいのは雪菜だけでしょ(笑)。
なかむら うん。雪菜になら言われても仕方がない。
聖地巡礼は今年がオススメ
丸戸 あと、なんでストラスブールなのかという話もしておきたいですね。
下川 それも言いますか(笑)。たまたま僕がクリスマスシーズンにストラスブールに行っていたんですよね。で、出会いの街として最高だと思ったんです。そうしたら、丸戸さんが、ウィーンからオリエント急行1本で行けることを調べてきて……。
丸戸 今はTGVになっちゃいましたけど、当時は夜行があったんですよ。今となりでなかむらさんが笑いましたけど、最初僕たちは国内でいいやって思ってたんですよ。
下川 僕も、そうは言ってみたものの本当にやるとは思ってなかった。背景増えると大変だし。でもシナリオの展開と構想を考えると劇的にしたくて(笑)。自分としても「曲を書きたくなる」テンションと場所にしたかった。中世の町並みがそのまま残った、すごくいいところだったので、ぜひ聖地巡礼に行ってください、クリスマスに(笑)。
丸戸 実際には2013年は閏年じゃないので齟齬があるんですけど、『ic』が2007年の秋から2008年の春まで。『cc』が2010年の秋から2011年。『coda』が2012年の冬から2013年。ですから、物語の瞬間を味わうなら今年がねらい目なんです。ここまで敷居の高い聖地巡礼もないとは思いますけどね。
下川 そのシーズンは飛行機代も高いですからね。
丸戸 ウィーンから電車で入るかずさルートで行くか、飛行機で直接行く雪菜ルートで行くかという問題もありますね(笑)。
下川 でも、そういうことも含めて、今回は作り手も楽しんで作れましたね。丸戸さんもいきなり海外に舞台変えてもきちんと対応してくれたし。
丸戸 そのぶん、セリフをフランス語とかドイツ語にしてもらってたりしますから。ストラスブールって、ドイツ語とフランス語が両方話せるそうで、現地の人がかずさに最初フランス語で話しかけてるんですけど、かずさがドイツ語で返したら、今度はドイツ語で答えてくれてたりするんですよね。そういう芸の細かいところもアクアプラスさんのほうで考証していただきましたから。
――(笑)。では、最後になかむらさんにひとことお願いします。
なかむら この号が出てる頃には店頭にも本製品が再入荷していると思います。ですので、本作を遊んでみて面白いと思っていただけた方は、ぜひ知り合いのみなさんにオススメしてあげてください。
以上
「ゲーマガ」収録のインタビューをお届けしました。ちょうど12月なので、もういちど振り返りプレイをしてみるのもいいんじゃないでしょうか。インタビュー当時と違い、現在はPS Vitaで持ち歩いてプレイすることもできます。今月発売予定のコミック最新刊もぜひよろしく。繊細な感じの画風で仕上げてあり、ゲームとは違った趣きがあります。
最後に、ゲーマガブログご覧いただきまして、ありがとうございました。