ここに注目! 「ムバラク元大統領"無罪"判決の波紋」2014年12月03日 (水) 

出川 展恒  解説委員

(寺門亜衣子 キャスター)
「ここに注目!」です。
エジプトでは、3年前の「アラブの春」と呼ばれる民主化運動で退陣に追い込まれた
ムバラク元大統領に対する裁判で、先週、事実上の「無罪判決」が出され、
各地で民衆の抗議デモが拡大しています。
出川解説委員です。
 
Q1:
まず、ムバラク元大統領に「無罪判決」、詳しいいきさつを説明してください。
 

(出川展恒 解説委員)
A1:
エジプトの国づくりを、船の航海にたとえたイラストにしてみました。
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ムバラク氏は、2011年2月、市民の大規模なデモで政権の座から追われたあと、
デモの参加者に対する殺害を指示した罪に問われました。
おととし、特別法廷で、「終身刑」が言い渡されましたが、
ムバラク氏は不服を申し立て、審理のやり直しとなりました。
特別法廷は、先週29日、検察側の手続きに不備があったとして、訴えを棄却、
事実上の「無罪判決」です。
裁判長は、「エジプトを30年間も統治した人を裁けるのは、歴史と神様だけだ」
と述べています。
そして、今度は、検察側が判決を不服として、上訴する手続きに入ったわけです。
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(寺門)
Q2:
判決への抗議デモが拡大しているわけですね。

(出川)
A2:
はい。民主化運動をリードしてきた若者たちや、
去年、軍による「事実上のクーデター」で政権を失った
「ムスリム同胞団」の支持者らは、
「判決は、“革命”の成果を根底から覆すものだ」と強く反発しています。
抗議デモが全国に拡大し、
治安部隊との衝突で、死者やけが人も出ています。
 
(寺門)
Q3:
こうした判決が出た背景をどう見ますか。

(出川)
A3:
わかりやすく言えば、「ムバラク時代に逆戻り」、
「軍を後ろ盾にした旧体制の復活」です。

エジプト社会は、革命後しばらくは、自由にものが言える喜びにひたり、
ムバラク政権による弾圧や汚職の責任を徹底的に追及する空気でした。
ところが、民主的な選挙で、
「ムスリム同胞団」のモルシ前大統領が政権を握った1年間、
政治も経済も大混乱に陥った失望感から、
現在は、再び軍出身の強い指導者、すなわち、シシ大統領に、
国を安定させてもらいたいという空気が支配的です。
「あくまで民主化を」という声は、ほとんど聞こえません。
こうした変化にともない、
ムバラク政権の有力者たちが次々と復権をはたしているのです。

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(寺門)
Q4:
エジプトは今後、どうなるでしょうか。

(出川)
A4:
検察側が上訴することで、ムバラク氏の処遇をめぐる混乱が続きます。
若者たちや「ムスリム同胞団」の支持者たちは、抗議行動を強める構えですが、
政権側は、力で徹底的に抑え込む姿勢を崩していません。
さらなる流血が心配されます。
民主化運動が始まってから、来月で4年となるエジプト、
国づくりの最終目標はどこにあるのか、「五里霧中の航海」が続きます。

(寺門)
「ここに注目!」、出川解説委員でした。