20141203(Wed)
■[MOVIE]インド映画黎明期の情熱と失意を描く実話作品〜『Celluloid』

■Celluloid (監督:カマル 2013年インド映画)
I.
インド映画の呼称として知られる「ボリウッド」は北部インド・ムンバイにおける映画産業を俗称したもので、劇中では基本的にインドで最も話されているヒンドゥスターニー語が使われている。しかしボリウッドだけがインド映画ではなく、南インド・チェンナイを中心とするタミル語、同じく南インド・アーンドラ・プラデーシュ州のテルグ語を使用した映画産業もあり、それぞれコリウッド、トリウッドなどと呼ばれているという*1。その他にもインドにはマラーティー語、ベンガル語、マラヤーラム語、カンナダ語など様々な言語圏の映画産業が存在している。
この『Celluloid』はそんな映画産業のひとつ、マラヤーラム語映画の黎明期に秘められたある逸話を、事実に基づいて描いたものだ。インドには多数の言語があることが知られているが、マラヤーラム語は、タミル語、テルグ語と並び、南インドで多く話されるドラヴィダ語族の一つである。そしてここで語られる逸話とは、20世紀初頭に、初めてマラヤーラム語の映画を作ろうとしたJ・C・ダニエルという男の、その人生の光と影の物語なのだ。こうして物語は、風光明媚な南インドの田園地帯から始まる。
II.
彼の名はJ・C・ダニエル(プリスヴィーラージ)。映画好きの彼は「僕が歴史初のマラヤーラム語映画を撮るんだ!」と意気込み撮影機材一式を購入、家族や仲間たちの協力を得ながら準備を進めていたが、ヒロインとなるべき女優が見つからず四苦八苦していた。そんなある日、祭りの舞台で踊る少女ロージー(チャンドニー)を見出す。ロージーはダリッド(カースト外の不可触民)の少女だったが、ダニエルは「映画にカーストなんかない!」と説得、こうして映画撮影に臨んだロージーは見事にダニエルの期待を叶えた。しかしいよいよ映画初公開のその日、観客たちは「映画にダリッドの女が出ている!」と騒ぎ出し、それは暴動へと発展し始めた。
映画が始まり、初のマラヤーラム語映画製作に意気揚々と挑む主人公ダニエル、彼を支える妻、そして仲間たちの姿にどこまでも心ときめかされる。お高くとまったボンベイの女優、資金難など障害こそあるけれども、夢と希望に満ちた彼らはそれらを乗り越え目標へと邁進する。映画黎明期ならではのこの熱気と、自らを信じて突き進む楽観主義は、この映画に眩しいほどの明るさを持ち込んでいる。そしてなにより、突然のヒロイン抜擢に、戸惑いと喜びで心の揺れる不可触民の少女の描写はどこまでも愛おしい。彼女が「私は月のように美しい?蓮華のように美しい?」という歌と共に田園で微笑むシーンには陶然させられてしまった。しかし彼女が不可触民なばかりに、悲劇は起こってしまう。
自分はこれまで、インド映画でこれほどあからさまにカーストが取り沙汰され、苛烈な低カースト差別を描いた作品を観たことが無かった。インドのカーストについては一般的なことは知っていたつもりではあるが、この作品のように悲惨なカースト差別の様子を改めて見せられると、その陰鬱さにやはり胸が痛む。そして不可触民の少女ロージーと彼女の家族が、実はキリスト教に改宗した不可触民であり、にもかかわらず差別を受ける、という部分に根深い陰湿さを感じる。
III.
この作品の主人公が、なぜ不可触民である少女を気にも留めずにヒロインに抜擢したかというと、主人公もまたキリスト教徒であったからだ。当然のことながらカーストはヒンドゥー教のものであり、非ヒンドゥーであるキリストにとってはカーストなど意に介すことは無い。インドではカーストから逃れるためにクリスチャンやムスリムになるものもいると聞く。また、南インドのキリスト教は実は非常に歴史が深く、一説では既に紀元52年、遅くとも2世紀から3世紀までには南インドにキリスト教コミュニティが作られていたのである。
これはどういうことかというと、南インドに伝わったキリスト教は原始キリスト教であり、その後ヨーロッパで異端排斥された後に成立し現行するキリスト教とはまた別のものである、ということができるのだ。南インドのキリスト教は15世紀前後にヨーロッパから渡ってきた異端審問の波にもまれながらも生き残り、まさにインド的といっていいキリスト教として存続しているのだという*2。こうした、インドならではの宗教事情を垣間見ることができるといった点でもこの『Celluloid』は興味深い作品であることは確かだ。
映画はこの中盤を挟み、失意の中で病に侵され余命幾ばくもない老年のダニエルを描いてゆく。光り輝く未来であったものがその芽を摘まれ、荒涼とした悲哀だけが残されてゆく。しかし映画を愛する者はいつの時代も存在し続け、後の世に繋げてゆくのだろう。そして少女ロージーの悲劇は、いつしか身分なき世界をもたらす礎になるだろう。この作品にはいつしか変わりゆくであろう世界への希望が、きっと込められているのだ。
◎参考:インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン 3日間14本のインド映画漬け記録 『セルロイド』 / ゾンビ・カンフー・ロックンロール
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