ボンタイ

社会、文化、若者論といった論評のブログ

NHKは国営放送であるという現実が分からない人は案外多い

自衛隊は軍隊だ

 自衛隊は誰がどう見ても軍隊だ。

 陸上自衛隊が行う記念行事では、戦前の日本軍歌「抜刀隊」が演奏されながら、迷彩服の若い兵隊たちが一糸乱れぬ行進をしていて、その様子は学徒出陣の風景と何も変わらない。陸上自衛隊には戦車もあるし、海上自衛隊には空母もある。

 左の人も右の人もこの事実を認めている。保守派であれば「自衛隊はどう見ても軍隊なのだから自主憲法を制定して正規の国防軍を設置するべきだ」と主張し、左翼は「自衛隊はどう見ても軍隊なのだから解体し、憲法九条を順守して無防備国家にするべきだ」と言っている。

 このように左右両側が「現実をあまりに逸脱した建前」を否定する意見で一致することは少なくない。創価学会公明党の関係も然りである。

 

アメリカはNHK受信料は「税金」であると考えている

 NHKは「公共放送」を標ぼうしているが、実際には国営放送である。

 在日アメリカ軍基地は、戦後にやってきて以来ずっとNHKの受信料を拒否し続けている。つまり受信料は「税金」なのである。米軍側は、日米地位協定で税金の支払いが免除されていることが根拠としている。基地の中は事実上「アメリカの出島」のような状態で、たとえば店舗は会計の際にドルで支払うようになっており日本の消費税は存在しない。テレビは基地内専用のアメリカ軍人向け放送のAFN(旧FEN)が映っている。そんな場所で、言葉も分からない国営放送の受信料だけを支払うように言われるのは理不尽なことだろう。

 アメリカにはPBSと言う公共放送がある。PBSは全米に存在する無数の非営利放送局をネットワーク化したもので、日本でおなじみの子ども番組「セサミストリート」などを制作している。加盟局はおもに交付金や寄付金を財源にしていて、それぞれ財団などの非営利組織や大学が運営している。行政からの交付金を得ていることはあっても、「お上」の傘の下にあるわけではなく独立性を保っている。NPOのそれと同じ感覚だ。

 アメリカからすれば、NHKPBSというよりはAFNと同じ国営放送に見えるのは無理はないだろう。受信料拒否は当たり前のことで、NHKとともに日本政府まで一緒に支払いを求めてくれば、「ほらやっぱり政府機関じゃないか」という所だろうか。

 

 考えてほしい。もしテレビを買って、スカパーやWOWOWJ:comが勝手に放送されていたら驚きだろう。そしていきなり運営会社のスタッフが玄関の呼び鈴を鳴らして、視聴料金を支払えと威圧的に押し売りをしてきたらこんなメチャクチャはないだろう。でもNHKは、テレビ受信機を買えば必ず映るし、受信料を支払わされるのだ。拒否すれば訴訟を起こされる。相手が一個人だろうが、ホテルだろうがお構いなしで、NHKが「お上」の一種であることが明らかだ。

 

政権のプロパガンダ機関としてのNHK

 現在のNHKの経営幹部は籾井会長以下、長谷川三千子百田尚樹経営委員らタカ派の顔ぶれが目立つ。彼らは安倍首相と思想を共有していて、「お友だち人事」と揶揄されている。籾井会長は、1月の就任会見で「政府が右ということを左というわけにはいかない」と主張した人だ。その後発言は撤回したが、通常の国の公共放送の会長であれば思いもよらない発言であることは明らかだ。

 

 左派であれば、NHKがいかに権力と迎合的な報道ばかりをやっているのかを常に批判し続けている。これは現政権で始まったことではなく、戦後一貫して続いていることだ。右派は右派で、「NHKは中国や韓国に阿っている」としていて、チャンネル桜のデモが局舎を取り囲んだこともある。実際には、政権与党が「強硬路線」を取れば、それに歩調を合わせざるを得なく、「弱腰外交」をすればそれに寄り添うと言うのがNHKの実態だろう。 

 NHKとよく比較されるイギリス公共放送BBCは1922年に民間企業として発足、以来、自主独立性を一貫して保っている。自国の政権から要望(あるいは圧力)があっても屈せず、フォークランド紛争イラク戦争の報道などでは、政権側の考えと真っ向から対立したりもした。サッチャー政権が民営化による解体を試みたこともあったが、組織は公権力と距離を保ちながら現在に至っている。この方針は、BBCワールドのピーター氏によれば、国外向け放送でも同じだという。

 

 NHKはどうだろうか。1924年に「東京放送局」として開局した初代総裁は後藤新平だった。数か月前まで山本内閣で内務大臣だった御人である。そもそも創設自体で「官」の影響力のある放送局だったのだ。

 その後、NHK逓信省(現在の総務省)の指名者や官僚が会長に選ばれ続けている。「ゆく年くる年」「ラジオ体操」あたりは戦前から現在も続いている。

 戦時中のNHKが国民に対してどのような放送をし続けたかは言わずもがなだろう。メディアが政治権力と癒着した結果の最大の不幸である敗戦後、アメリカ統治時代は、今度は「眞相はかうだ」というGHQのプロパガンダを放送した。 

 NHKは開局以来一貫して不偏不党など存在していないことは歴史を辿れば明らかなのだ。近年ではBBCワールドに触発されて海外向け英語テレビ放送「NHKワールド」を行っているが、BBCワールドが広告費と視聴料を財源としている一方、NHKワールドには日本政府の予算がつぎ込まれている。2006年には放送法第33条に基づいた「命令放送」を行っている。国が負担した費用で政府のプロパガンダを行うものだ。最近も政権の立場をくんだ放送をするよう求める内部文書があったことがイギリスタイムズ紙のスクープで明らかになっている

 そのほか、元NHKエグゼクティブプロデューサーの今井彰氏の「ガラスの巨塔」や元全国ニュースキャスターの堀潤氏の「変身」などの本を読んでみると面白い発見が多い。NHKはどう考えても世界の公共放送の常識とは逸脱した機関なのだ。

 

ドイツや台湾は国営放送を解体している

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 大日本帝国と共に枢軸国としてファシズムを突っ走ったナチスドイツは、国営放送「帝国放送協会」をプロパガンダとして活用していた。安価なラジオ受信機を大量生産し、国民はまんまとナチスドイツの得意とするメディア戦略にダマされてしまった。

 しかしこの国営放送はナチスドイツの崩壊とともに解体させられている。西ドイツでは公共放送の「ARD」と「ZDF」が開局。社会主義国の東ドイツは「ドイツテレビ」と言う国営放送を新たに立ち上げたが、ベルリンの壁崩壊後は解散し、西側の公共放送に移管して今に至っている。

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f6/CTV_logo_on_CTV_Building.jpg/655px-CTV_logo_on_CTV_Building.jpg

 かつて日本の植民地だった台湾では、NHKの現地版である「台湾放送協会」が存在していた。台湾放送協会は、敗戦後は大陸から渡ってきて主権を引き継いだ中華民国国民党のラジオ機関である「中国広播公司」に移管された。

 1946年に「中国広播公司」は株式会社に移行したものの、国民党が大株主であり実質的には国営放送だった。民間企業に株式が売却されたのは2005年のことだ。

 台湾のテレビキー局3大ネットワークの台視・中視・華視もそれぞれ似た様な国営放送だった。台湾初のテレビ局の台視は台湾省政府が設立したもので、中視は蒋介石が作った会社だ。教育部と国防部が瀬筒したのが華視である。政府、国民党、軍と言う3つの権力が3つの国営放送を運営していたような形だ。

 そんな台湾は、いまから約20年前に民主化を実現して以来、メディア改革が進んだ。1998年にはアメリカPBSのような非営利系の公共放送「公視」を発足。「中国広播公司」が民営化した2005年はに中視の経営陣から3権力が撤退。翌2006年には台視が政府株を売却して「民営化元年」を宣言。残る華視は、公視や先住民族向け放送などで編成される台湾公共放送グループのネットワークの中に納まる形で権力から脱却した。

 

 現在の世界では、国営放送を有する国は、北朝鮮やロシアや中共のような一部の国家に限られている。日本のNHKだけが異常なのだ。

 「NHKは国営放送である」という現実が分からない人はよっぽど無知か、単なるNHKの回し者である。私はその意見には賛同しないが「NHKは事実上は国営放送なのだから制度的にも国有化すべきだ」と主張する右派の方が遥かに賢者ではないか。