その集落には増田と云う名の者しか居らず、集落の名もまた増田と云った。偶に、『村』とか云う場所から何某と名乗る者が訪れたが、それは飽くまで珍客であった。
増田は他の増田に親しみ、或いはまた別の増田を罵り、増田に囲まれて成長していった。増田にとって、集落の誰もが増田と云う名であることは至極当然であり、疑問に思うこともなかった。自分は増田であり、他者もまた増田であった。
余所では一人一人に異なる名があると云うのは増田も識っていた。しかしそれは、想像するだけで厄介そうな世界だ、と思った。此処では、誰かが「増田」と呼びかければ、自らが呼ばれたと思った増田が応え、そうでない増田は黙っている。ある増田の発言に何か云いたければ、直接云えばいいだけのことだ。
***
増田は冗談を好む性分であった。増田たちを相手に、度々麺類に関する小噺をした。ある夜、増田はいつもの様に冗談を披露するつもりだった。しかし、何か妙なモノを感じた。
誰かが視ている。
増田は、自らが感じた不快感、何者かがこの集落を視て、論評でもしているような感覚について訴えた。だが、お前の気のせいだ、第一この様な場所を視て何の意味がある、と一笑に付された。
その後も増田が冗談を――それも会心の冗談を云う度に、視られている感覚は強くなっていった。やがて、その何者かはくすくす笑うようにまでなった。
そして遂に、
――これはひどい。
涼やかな声で、そう呟いたのがはっきりと聞き取れた。
***
増田は怯えた。誰かが私を視て、何か云っている。
――これはひどい。
――あとで読む。
――恐ろしい恐ろしい。
何だ。何を云いたい。
くすくすくすくす。
堪え兼ねた増田が大声を上げた。
「誰だッ! 云いたいことがあるならトラバすれば良いだろうッ!」
すると、
犬が居た。
何処からともなく、小さな犬が眼前に現れた。狐の様な大きな耳と、短い脚の、変わった姿の犬だった。
犬は、あの涼やかな声で増田に告げた。
「村役場の者です。お報せに参りました――」
「む、村役場だと?」
犬は歌うように続けた。
「この集落でアドベントカレンダーと云う宴が行われているのはご承知ですね――」
「貴方にお呼びが掛かりましたので、お報せに参ったのです――」
お呼びが掛かる?
そう、増田が呼ばれることなどない。誰が応えてもいいこの集落で、『私』が呼ばれることなど、
「いいえ」
「『貴方』が呼ばれているのです」
云うや否や、犬の姿が変化していき、
眼鏡を掛けた、髪の長い女になり、
「増田に住む人々はまた、村人でもあるのです――」
「何が云いたい」
如何云うことだ。
なまえ。
「ち、違う、私は、た、只の増田の一人で」
女は笑う。
そんなことは。
それなら何故――
「何を狼狽えるのです――疾うに気付いていたのでしょう?」
厭だ。
「此処が『村』から視られていると云うことに」
くすくす。
くすくすくすくす。
「嗤うなッ」
名前など。
なまえなどいらぬ。
厭だ厭だ厭だ。
「いい加減にお認めなさい、id:■■■■!」
「あ、ああ、あああああ」
私は叫んで――そのまま失神した。
意識を失う瞬間、アドベントカレンダー御参加願います――と、女の囁く声が聞こえたような気がした。
※これは増田アドベントカレンダー2014の4日目の記事です。tamileleが担当しました。
http://anond.hatelabo.jp/20141128122106 前回、ひとりで勝手に「盛り上がってきた!」って書いてから寂しく大五郎を飲んでたところ、 予想外に参加者が集まり、12月1日を前にして満員となりま...
なん・・・だと・・・俺が・・・俺がいっぱい・・・
増田Advent Calendar: http://anond.hatelabo.jp/20141130202457今月は毎日これを楽しみにできそう。それにしても二日間も割り当てられるとは…なに書こうかな…
(この記事は増田アドベントカレンダー2014一日目の記事です) こんにちは。101匹の増田の中でも、みんなの誕生日をお祝いしたり、適当にトラバするなどを担当してます、増田です。 ...
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http://anond.hatelabo.jp/20141130202457 増田アドベントカレンダー2014の3日目です。 今日担当するのはaukusoeです。 唐突ですがXboxOne発売日から三ヶ月おめでとうございます。 セールス状況は厳し...