これは歴史的な惨敗である。台湾の統一地方選で、政権与党の国民党が多くの首長ポストを失った。選挙結果を受けて馬英九(マーインチウ)総統が党主席を辞任した。

 これまで党が進めた中台関係強化の動きは停滞を余儀なくされ、中国の対台湾政策も見直しを迫られよう。

 今回の選挙は、各地の首長、議員ら計1万人以上を選出するため初めて同時実施された。22の県・市長ポストのうち15を占めていた国民党は6にまで減らした。ここに表れたのは、馬総統が率いる国民党政権に対する批判の強さだ。

 馬総統は08年の就任以来、中国との関係改善により台湾の経済成長を図る方針を掲げ、当初は支持された。

 しかし、それは中国事業で稼ぐ大企業を潤しただけで多くの庶民は取り残され、格差を広げたとの疑念が広がった。不祥事が重なったことも響いた。

 最大野党の民進党は、国民党の強固な地盤だった地域で首長ポストを奪取した。16年初めにも実施される総統選での政権交代が視野に入ってきた。

 台北市長選は、組織を持たぬ無党派の医師が国民党の次世代指導者候補を大差で破った。この春に起きた学生運動以来の新しい動きとしても注目される。

 「台湾統一」を目指す中国は国民党との関係を重視し、台湾企業に便宜を図る一方、「台湾は独立国家」という立場をとる民進党への警戒感を隠さなかった。だが今後、国民党を不安視するようになれば、戦略を練り直すことになろう。

 台湾から見て中国大陸は、軍事的に仮想敵だが、経済的には依存する矛盾した関係にある。大半の市民は中国との統一を求めているわけではなく、適度に経済交流をしながらの現状維持を望んでいる。

 今や台湾海峡を直行便が飛び交い、大陸から毎日おおぜいの観光客が訪れ、親中派企業がメディアを買収し、中国の影は日に日に色濃くなっている。

 だが、かえってそのために、台湾人アイデンティティーは馬政権下でいっそう高まった。

 隣の香港では、若者らが大規模な街頭行動で当たり前の選挙制度を求めても、訴えは実現していない。「民主化をかたくなに拒む中国」という印象を改めて台湾社会に与えている。

 総じて言えば馬政権の6年は、対中接近のペースが速すぎて危険だと、投票を通じて判定が下された。

 この台湾の民意こそが、中国・習近平(シーチンピン)政権が真摯(しんし)に向き合うべき相手である。