中東ホルムズ海峡での自衛隊による停戦前の機雷除去――。これは、集団的自衛権の行使を容認した7月の閣議決定で可能になるのか。

 衆院選にあたっての議論で、安倍首相と山口公明党代表の解釈にズレが目立つ。公示前、日本記者クラブの党首討論での発言ははっきり分かれた。

 山口氏 「我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかであるかどうかだ。単なる『経済的な利益が損なわれる』ということだけではダメだ」

 安倍氏 「ホルムズ海峡が完全封鎖される状況であれば、油価は相当暴騰し、経済的なパニックが起こる危険性も世界的にある。あてはまる可能性はあると思う」

 閣議決定に示された武力行使の新要件を素直に読めば、山口氏に理がある。停戦後ならともかく、停戦前、武力行使にあたる中東の掃海は無理筋だ。

 新要件は「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」。油価の暴騰や経済的なパニックが該当するとは到底言えない。

 そもそも首相の想定自体、現実味が乏しいとの見方もある。極端な事例で安全保障の方向性を決めてしまっていいのか。

 公明党は「事実上、日本周辺の事態にしか対応できない」と説明してきた。「いわゆる集団的自衛権は認めていない。個別的自衛権に毛が生えたもの」とも強調している。

 首相が姿勢を変える様子はまったくない。日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定を控え、米軍支援の選択肢を広げたい思惑がうかがえる。

 政府は、機雷掃海はイラク戦争などの戦闘と異なり、「限定的で受動的な活動」なので、新要件を満たす場合には武力行使も憲法上許される、と説明している。自衛隊の掃海部隊をいつでも中東に展開できるようにすることも考えているのだろう。

 このまま安倍首相が強弁し続ければ、「油価の暴騰で武力行使できる」という解釈がひとり歩きしかねない。

 これを首相が繰り返すのもおかしなことだが、強弁を可能にした閣議決定自体が問題だと改めて言わざるをえない。

 ここにきて、山口氏は「仮定の議論には限界がある」と言い始めた。来春の統一地方選後に安保法制を審議するのは、この衆院選で選ばれた議員たちだ。選挙中だからこそ、有権者に向けて「中東での掃海は無理だ」とはっきり語ってはどうか。