コンテンツマーケティングとSEO。それぞれの分野を牽引するオピニオンリーダー2名による対談は、コンテンツマーケティングに注目が集まる背景やSEOの本質論を経て、いよいよ核心へ。コンテンツマーケティングのROI(投資対効果)、そして、現在の盛り上がりは果たして一過性のものなのか? 2015年のコンテンツマーケティングを占う特別対談企画、収録予定時間を大幅にオーバーして行われた後編のスタート。
株式会社アイレップ 取締役兼 SEM総合研究所 所長 渡辺 隆広(わたなべ たかひろ)
日本のSEO黎明期である1997年よりSEOサービスを開始。2005年4月より株式会社アイレップにてSEM総合研究所所長を務める。日米欧の検索業界の市場調査、サーチマーケティング関連のソリューション開発、検索エンジン企業への事業展開アドバイスなども行う。
SEO分野での第一人者として多くの執筆・講演活動で活躍中。著作多数。
専門誌・サイトでも多数の連載記事を担当し、その高い専門性で人気を博している。
株式会社イノーバ代表取締役社長
宗像 淳(むなかた すなお)
ペンシルバニア大学ウォートン校MBA
1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略などの広汎な業務を経験。
MBA留学後、インターネットビジネスを手掛けたいという思いから転職。
楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメディアマーケティング立ち上げを担当するほか、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。
2011年6月に株式会社イノーバを設立し、代表取締役に就任。
<前編はコチラ>
<目次>
- コンテンツマーケティングのROI
- 2015年に向けてのキーワード:ネイティブアドとモバイル
- コンテンツマーケティングは一過性で終わるのか?
- ユーザーの行動を軸にコンテンツを考え、ユーザーの望むコンテンツを出していく
コンテンツマーケティングのROI
宗像 コンテンツマーケティングは、リスティング広告などと比べて購入までの道のりが長いため、リターンが読みにくいという課題があります。これからコンテンツマーケティングに取り組む企業や、今までの施策に加えてコンテンツマーケティングに取り組もうという企業は多いと思うのですが、その場合には、ROI(費用対効果)として何を指標にすべきと渡辺さんはお考えですか?
渡辺 「SEOの観点から何を指標として決めるか」ということですね。実は「これ」という明確な指標が業界にはありません。ただし、コンテンツマーケティングを主に自然リンク(外部リンク)対策として行っているのであれば、実際に獲得したリンクの本数や、その獲得したリンクに含まれるアンカーテキスト、自社のブランドまたは商品名が書かれている割合が重要になってきます。コンテンツの更新頻度にもよりますが、例えば1週間前、1カ月前と比較してどれだけ新規リンクが増えたのか、実際に増えたリンクからユーザーはどれだけ訪問しているのかなど、いろいろな指標の測り方があります。コンテンツマーケティングにおいて何を指標にするかは、お客様が求めているものによって変わってきます。
宗像 その点について、分かりやすく教えていただけますか。
渡辺 例えば、作成したページの閲覧時間を指標にするという考え方や、定期的に訪問してくれている人(リピーター)の数を指標にするという考え方もあります。TwitterやFacebookをコンテンツの配信・拡散に使っているのであれば、エンゲージメント、つまりフォロワー数やリツイート数などを指標にする場合もあります。
ROIから話はそれますが、ユーザーがある商品を購入するまでに何を検討するのかという、ユーザーの行動分析は必要です。購入を迷っているユーザーの背中を押してあげるようなコンテンツを作ったときに、最終的にコンバージョンがどれだけ増えるかは重要ですよね。
宗像 「背中を押してあげるようなコンテンツ」というのは?
渡辺 例えば、光ファイバーを検討している人を考えてみましょう。光ファイバーを探す人が検討するポイントというのは、通常は「速度」「料金」「工事完了までの期間」「評判」です。その4つのポイントで迷っているユーザーに、どうやって自社のコンテンツを見てもらうか。きっとユーザーは、迷っている最中に何らかのキーワードで訪問し、そこから間接的にコンバージョンが生まれるはずです。そこで、Googleウェブマスターツール(Googleが提供するサイト管理者ツール)の「検索クエリ」から、流入しているキーワードを調べる必要があります。実際に迷っているユーザーの検索クエリがどれくらい増えたのか、検索結果画面の順位がどれくらい上がったのかというのは、重要な指標となります。
宗像 結局、指標を設定する際には、「何のためにコンテンツマーケティングをするのか」という部分が大事というわけですね。
渡辺 そのとおりなのですが、現在、当社にご相談いただくお客様は、「そもそもコンテンツがありません」というケースが多いのです。マーケティングのスタートラインに立つためにコンテンツを作らなければならず、比較対象がない状況でROIを計るというのは難しいでしょう。
宗像 マイナスからゼロという感じですね。ユーザーは、良いコンテンツがあるWebサイトに訪問したいと思っているので、コンテンツがない企業はその制作に力を入れた方がいい。
渡辺 前編で触れたパンダアップデートは、中身の薄いコンテンツや、ユーザーにとって役に立たないコンテンツをたくさん持っているWebサイトの順位が落ちるというものです。おそらく、ほとんどの日本企業はその段階にすら至ってなく、そもそもコンテンツがないから順位が上がらないという状況です。そのため、まずはコンテンツを作るところから始める必要があるわけです。
宗像 我々は、ROIは最終的には売上で見るべきものだと思っています。コンテンツマーケティングには、リスティング広告などと異なるプラスアルファの要素もあります。例えば、Webサイトのコンテンツがリッチになることで、自社のブランディングにつながる。その結果、コンバージョン率が上がったり、リピート化しやすくなるというメリットもある。また、特にB2Bの世界では、コンテンツによって競合他社との差別化ができる。いわゆる「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)」と呼ばれるものです。我々は、お客様に合わせたコンテンツマーケティングの仕組みや良さの説明により、総合的なメリットをお伝えしています。
2015年に向けてのキーワード:ネイティブアドとモバイル
宗像 2014年もあと2カ月足らずとなったので、2015年をにらんで、いくつかのキーワードからコンテンツマーケティングを考えてみたいと思います。まず、「ネイティブアド」(ユーザーが普段使用しているメディアやサービスの中に自然になじむデザインや、機能で表示される記事広告)が話題となっています。これについてはどうお考えですか。
渡辺 いかにメディアサイドの記事に溶け込ませていても、「媒体を買っている」という意味でやはり「広告」だと思います。ネイティブアドには、PVを稼ぐために何度もリコメンドでその記事を送りつけてくるものもありますが、度が過ぎると、ユーザーにとっては「不快」になってしまう。そのため、記事がユーザーにとって役に立つ内容であると同時に、きちんと配慮した形で配信するのが重要なのかなと思っています。
宗像 そうですね。広告枠の表現力が上がったので、よりユーザーに配慮したクリエイティブを作ることが大事かと。
渡辺 おそらく、「ネイティブアドという形式を取ったら、読んでもらえる」という誤解があるように思います。ユーザーを無視して、自分たちの伝えたいことだけ押し出そうとしたら、それが通常の広告枠であろうと、ネイティブアド枠であろうと、見てもらえないのではないでしょうか。どういったコンテンツをどのように見せたらいいのか、あくまでユーザーの視点を理解したうえで、企業として伝えたいことをきちんとすり合わせて実施する必要があるというのが、ネイティブアドについて最近感じるところですね。
宗像 なるほど。
渡辺 コンテンツとして出すのであれば、自分たちの都合ではなくて、「ユーザーの欲しいものはなんだろう」ということをきちんと考えて作る必要があります。
宗像 もうひとつ、これはすでに実現していて、さらに加速していくと予想されるトレンドである、「モバイルシフト」についてのお考えをうかがいたいと思います。モバイルへの対応においてどこに気をつけるべきか、そしてどう変わっていくとお考えですか?
渡辺 よく知られるとおり、コンテンツの閲覧のされ方は、モバイルとPCでは全く異なります。通勤電車の中でスマホを使ってコンテンツを見る場合、おそらく長い文章を全部読むという人は少数でしょう。私自身が運営しているWebサイトでも、時間帯によって閲覧するデバイスが違うことが、解析データからはっきり分かりました。午前7時から午前9時はモバイルユーザー、午前9時から午後22時まではPCユーザー、午後22時から午前1時まではモバイルとタブレットPCのユーザーが多数を占めています。したがって、例えば朝はモバイルの利用を意識して、仕事上知っておいた方がいい情報を数行にまとめて、速報として出すといった工夫をしています。重要なのはコンテンツの閲覧のされ方や共有のされ方によく注意して、ユーザーのスタイルに合わせて中身を工夫することと、配信の仕方を工夫することだと思います。
宗像 よく、レスポンシブWebデザインなど、モバイルに対応したデザインの重要性が言われますが、それだけではなくて、ユーザーの行動を予測したうえでコンテンツを配信していくということですね。モバイル向けとPC向けでコンテンツを使い分ける時代に入りましたが、両方に対応すれば、明らかに良い効果が出ますね。
コンテンツマーケティングは一過性で終わるのか?
宗像 今では、いわゆる有料リンクを販売している会社でもコンテンツマーケティングをサービスとして打ち出しているため、「SEOとはコンテンツを買うことだ」と誤解している企業も多いのではという懸念を抱いています。極端な話、コンテンツマーケティングは一過性で終わってしまうかもしれない。今後、渡辺さんはコンテンツマーケティングが日本でどういう形で普及していくと思われますか?
渡辺 来年(2015年)は、どの企業もコンテンツを作ることに取り組み始める年になると思います。現在、日本のSEOでは「ある特定のキーワードで、短期間で検索結果画面の1位に表示したい」といった、根本的な問題があると考えています。短期間で成果を望むのであれば、正直なところリスティング広告やそのほかの広告を使えばいいわけで、宗像さんもお話しされたように、コンテンツマーケティングというものはすぐに結果を求めるような類のものではないのです。
宗像 コンテンツマーケティングにおけるSEOは、長期の施策であると?
渡辺 SEOというのは小手先のテクニックではなくて、「継続的なサイト改善の取り組みや、継続的な情報発信の取り組み」と言った方が、今の定義では適切です。せめて半年から1年のスパンで継続的に取り組んで初めて、Googleからの評価も蓄積されるし、自然流入も増えてくる。そこの認識が、日本では全く浸透していないのです。
例えば、4年に一度開催されるサッカーのワールドカップがありますよね。その期間はサッカーグッズがものすごく売れるので、どの専門店でもSEOに力を入れたがります。ただ、このようなケースの多くは、「ワールドカップ開催日の数カ月前」に施策をしたという相談をされます。数カ月前でなく、開催日の1年前に相談してもらえれば、十分な取り組みができるのですが……。要は、過去のワールドカップのときにはどんなキーワードが検索されていたのか、代表メンバーは誰になりそうなのかを、データやそれぞれの代表候補の人気度からリサーチしておけば、どの商品、どのキーワードに特に注力すれば売り上げが増えるかを予測することが可能というわけです。数カ月前に「ワールドカップ開催日の頃には順位を1位にしたい」と相談されても、それは難しい話です。
それでは、アメリカはどうかというと、Googleのスパムの取り締まりが日本より2、3年くらい早かったことと、ソーシャルメディアが普及したこともあって、早くからコンテンツマーケティングに取り組んでいます。それに伴い、SEOは長期的なソリューションだという認識がすでに浸透しています。
宗像 それは、我々が今後変えていくべきところですね。このままでは、日米のコンテンツマーケティング力、ひいてはマーケティング力に差がついたままだと。
渡辺 日本ではおそらく、スパムリンクがコンテンツスパムに代わっているだけの状態なので、ここの認識を変える必要があると感じています。品質の悪いコンテンツを大量に買うようになると、ユーザーのことを考えずに闇雲にテキストを増やす結果となります。それによってまた、Googleのアルゴリズムに引っかかって検索順位が落ち、企業から「どうしましょう」という相談が増えるのではないかと危惧しています。
ただし、この対談でお話してきたように、Googleからの自然流入の重要性は変わりません。現在のところ、自分の欲しい情報にアクセスする手段は検索しかない。TwitterやFacebookの知り合いが流してくれる情報は確かに便利なのですが、自分が欲しい瞬間に、ピンポイントでその情報を得られるわけではないですよね。そうなると検索自体は重要だし、企業視点からするとやはり、自社にリード(見込み客)を獲得する、何か買い物をしてもらうための流入経路としての検索は重要です。その重要なチャネルを握っているGoogleがコンテンツを重視しているということを考えると、一過性では終わらないと思います。しかし、手法として考えたときに、日本にコンテンツマーケティングが正しく浸透するにはまだ時間がかかるでしょう。
宗像 同感です。とはいえ、いずれは日本でも、アメリカで現在行われているように、より戦略的にコンテンツマーケティングに取り組むようになるのではないでしょうか。つまり、我々がお客様に提案する際に行っているように、そもそもコンテンツマーケティングの目的は何なのか、どんなユーザーにアプローチしたいのかを考えることからスタートするはずです。
渡辺 それが正解ですね。「このキーワードで順位を上げたい」「だったらそのキーワードを含む文章を作りましょう」という視点でスタートしている限り、本当の意味のコンテンツマーケティングはなかなか浸透していかないでしょう。
宗像 日本でそういう認識になってしまった原因は、どこにあるのでしょうか?
渡辺 日本のSEO市場を見渡すと、そのほとんどが順位が上がったときにのみ料金をお客様に請求するといういわゆる「成果報酬型」であり、そのほとんどが、外部リンクを貼るだけという点に問題があります。SEOのことをよく知らないWeb担当者が業者を選定する場合、成果報酬型というのはリスクがないように見えますよね。順位が上がったときにだけお金を払えばいいということは、上がらなかったらお金を払わなくていいわけですから。しかし、実際は「それ自体がリスク」なのです。
なぜかというと、とりあえず契約をしたら、その業者はたくさんのリンクを貼ってくれるものの、そのリンクがGoogleでスパムとみなされたら、Webサイトの順位は落ちてしまうのです。スタート時点よりもマイナスになる。お金は払っていないけれども、契約をした結果順位が落ちるというリスクがあるのは、私たちはよく分かっていますが、一般にそのような認識がなかなか浸透していかないことに、もどかしさを感じています。
ユーザーの行動を軸にコンテンツを考え、ユーザーの望むコンテンツを出していく
宗像 世の中のトレンドをウォッチして、それに合わせて商品をアピールするマーケティングは、今までの広告手法の王道でした。それと同様に、世の中の流れをきちんと見ながら、ユーザーの望むコンテンツを出していくことが、コンテンツマーケティングへの正しい取り組み方と言えるのでしょうか。つまり、そうすることで、ユーザーに読んでもらいたいコンテンツも届きやすくなるのでしょうか。
渡辺 はい。結局、コンテンツマーケティングはマーケティングの一種なので、ユーザーがどういう行動をしているのか、普段何をしているのかを起点にコンテンツを考えるという、基本的なところから入ることが大事だという結論に至るのではないかと思います。
宗像 検索クエリを見たときに、ユーザーがなぜこれを探しているのかを考え、施策を打つことで理解が深まり、そこから成果が生まれるというのを繰り返していくのが本来のSEOであり、コンテンツマーケティングだと考えています。それを1回やってみて「ああ良かった」と安心するのではなく、繰り返し実施していくことで、企業の担当者のスキル向上や成果につながるのだと思います。まさしく、来年は「実践の年」になるはずです。私たちも、正しいコンテンツマーケティングの理解に向けて、まだまだ伝えていくべきことがありますね。本日はありがとうございました。
(了)
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